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第2章 若き刑事の苦悩
第13話
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恵麻の四日目の出勤日がやってきた。今日は明るいグレーのコートがかわいい。首元のスカーフがアクセントになっている。結び方によって、様々な色を見せられるデザインだ。
行き先は、下手に電車か車を使うより歩いた方が早い。では徒歩で、と言い出したのは恵麻だった。幽霊案件なので大崎は緊張しているが、彼女の足取りは軽い。
「張り切ってますね」
「ふふっ。実は私、怪談が大好きなんです」
(うっ、趣味の不一致!)
衝撃を受ける大崎には気付かず、恵麻は続ける。
「子供の頃、体が弱くて、本を読んで過ごすことが多かったんです。怖い話を読んでいると落ち着くっていうか……人の『想い』みたいなものが強烈に伝わってくる話が好きでした」
「もしかして、お化け屋敷が平気なタイプ……」
デートに誘って、そういう場所やホラー映画をリクエストされたら、どうすればよいのか。全力で抵抗しては失礼に当たるだろうか。
「大崎さんは、お化け屋敷に入れないタイプですか?」
頷いたら失恋かもしれない。頭の中で必死に答え方を考えていると、前を行く葉桜が振り向いて助言した。
「正直になった方が身のためだぞ」
「はい……」
声に出したのを、恵麻はまたもや自分への返事と受け取った。
「何かがっかりしてます?」
「あ、いや、別に。ははは……」
「私は、入れないことはないんですけど、進んで入るタイプではないんです」
「えっ、そうなんですか!?」
希望が沸いてきた。
「ええ。ああいうところって、驚かせるのがサービスでしょう? そこに、物語があるわけではないので……もちろん、凝ったストーリーが売りのところもあるんでしょうけど」
「なるほど……奥が深い」
恵麻は立ち止まって、スマートフォンをすいすい操作した。これこれ、と楽しそうに言って、画面の一部は指で隠し、大崎に見せた。
「バレンタイン・ホラー?」
「カップル向けの企画なんです。ホテルのオーナーがホラーやミステリーが大好きで、一日だけこのために、ホテルやレストランを貸し切りにしてくれるんですって」
金持ちの道楽は理解不能だ。見せられているのは概要の文章のみ。上の方の宣伝バナーは恵麻が手で隠している。多分、大崎が見たくない種類の絵か写真が表示されている。
(恵麻さん、優しいな)
以前の自分なら逃げ出したい企画なのに、彼女の配慮に感動した。
「『連続殺人事件を阻止してパートナーを守れ! 物語を先読みして大事な人を救え!』……ふむふむ。参加者のゲームの進行によって、ゴールが変わる可能性があるんですね。優勝者の賞品は到達レベルによる、か。凝ってますねえ」
最高レベルの優勝者には、バレンタインディナー招待と宿泊券のセットが贈られる。参加費は安価だが、平日の昼から開始とあって、応募者の枠にはまだ空きがある。
「あまりにも凝っているから、試しに一日だけ開催されるんだとか」
大崎の脳は、企画の概要を素早く記憶した。恵麻の手は、バナーをしっかりと隠し続けている。
(この人と一緒なら、怖いものにも立ち向かっていけるし……怖いものがあっても何とかやっていけるって思える……)
「えっと……恵麻さん、もうこれに申し込んでたりするんですか」
「いいえ。一人では申し込めないし……こんなに元気になれるとは思っていませんでしたから。『ホラー』で検索していて、見つけただけなんです」
「そうですか……」
フリーの可能性は大いにある、と心の中でガッツポーズをしたところで、目的地が見えてきた。さっさと済ませて、応募しようと決めた。脳内の動きを感知したのか、葉桜は肩を竦めたが、二人を見る目は優しかった。
行き先は、下手に電車か車を使うより歩いた方が早い。では徒歩で、と言い出したのは恵麻だった。幽霊案件なので大崎は緊張しているが、彼女の足取りは軽い。
「張り切ってますね」
「ふふっ。実は私、怪談が大好きなんです」
(うっ、趣味の不一致!)
衝撃を受ける大崎には気付かず、恵麻は続ける。
「子供の頃、体が弱くて、本を読んで過ごすことが多かったんです。怖い話を読んでいると落ち着くっていうか……人の『想い』みたいなものが強烈に伝わってくる話が好きでした」
「もしかして、お化け屋敷が平気なタイプ……」
デートに誘って、そういう場所やホラー映画をリクエストされたら、どうすればよいのか。全力で抵抗しては失礼に当たるだろうか。
「大崎さんは、お化け屋敷に入れないタイプですか?」
頷いたら失恋かもしれない。頭の中で必死に答え方を考えていると、前を行く葉桜が振り向いて助言した。
「正直になった方が身のためだぞ」
「はい……」
声に出したのを、恵麻はまたもや自分への返事と受け取った。
「何かがっかりしてます?」
「あ、いや、別に。ははは……」
「私は、入れないことはないんですけど、進んで入るタイプではないんです」
「えっ、そうなんですか!?」
希望が沸いてきた。
「ええ。ああいうところって、驚かせるのがサービスでしょう? そこに、物語があるわけではないので……もちろん、凝ったストーリーが売りのところもあるんでしょうけど」
「なるほど……奥が深い」
恵麻は立ち止まって、スマートフォンをすいすい操作した。これこれ、と楽しそうに言って、画面の一部は指で隠し、大崎に見せた。
「バレンタイン・ホラー?」
「カップル向けの企画なんです。ホテルのオーナーがホラーやミステリーが大好きで、一日だけこのために、ホテルやレストランを貸し切りにしてくれるんですって」
金持ちの道楽は理解不能だ。見せられているのは概要の文章のみ。上の方の宣伝バナーは恵麻が手で隠している。多分、大崎が見たくない種類の絵か写真が表示されている。
(恵麻さん、優しいな)
以前の自分なら逃げ出したい企画なのに、彼女の配慮に感動した。
「『連続殺人事件を阻止してパートナーを守れ! 物語を先読みして大事な人を救え!』……ふむふむ。参加者のゲームの進行によって、ゴールが変わる可能性があるんですね。優勝者の賞品は到達レベルによる、か。凝ってますねえ」
最高レベルの優勝者には、バレンタインディナー招待と宿泊券のセットが贈られる。参加費は安価だが、平日の昼から開始とあって、応募者の枠にはまだ空きがある。
「あまりにも凝っているから、試しに一日だけ開催されるんだとか」
大崎の脳は、企画の概要を素早く記憶した。恵麻の手は、バナーをしっかりと隠し続けている。
(この人と一緒なら、怖いものにも立ち向かっていけるし……怖いものがあっても何とかやっていけるって思える……)
「えっと……恵麻さん、もうこれに申し込んでたりするんですか」
「いいえ。一人では申し込めないし……こんなに元気になれるとは思っていませんでしたから。『ホラー』で検索していて、見つけただけなんです」
「そうですか……」
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