流れる星は海に還る

藤間留彦

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第三話 一海

第三話 一海②

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 流星は俺とは違って、素直で快活な子に育った。勉強はそれほど得意ではなかったが、運動と歌は得意で、幼い頃は大好きな歌をよく聞かせてくれた。

 二歳の時から一度も、喧嘩さえしたこともないほど兄弟の仲はいい。流星は俺を血の繋がった実の兄だと思っているし、俺の仕事を投資家兼事業家だと思っている。

 毎日一緒に風呂に入って一緒の布団で寝ていた。賢太に「流石にまずいっすよ」と釘を刺され小学校高学年の頃にやめたが。ちなみに賢太のことは個人的に雇った雑用係だということになっている。

 流星には勉強が不得意でも学校には高校まで行かせた。中卒の俺が同世代の学生を見て羨ましく思っていたからかもしれない。

 そして流星は高校の頃から積極的にステージで歌うようになった。ボイストレーニングを受けながら今はプロデビューを目指して頑張っている。

 本当にカタギの子供と変わらない人生を歩んできた。このまま流星が自分の人生を歩めるように、俺は一生、偽りの兄を演じ続ける覚悟をしている。ただ流星の笑顔だけが、俺の希望だった。

 しかしそれが、親父が倒れたことで一夜にして崩れ去ろうとしている。

 マンションに向かう途中流星に電話を掛けたが出ず、メッセージにも既読がつかない。胸騒ぎがする。寝ていて気付いていないだけであってくれと祈る。
 マンションの前に着くと、俺は車を飛び出しエントランスに駆け込んだ。エレベーターのボタンを押し降りてくるのを待つ間に後ろから賢太が追いつく。

「大丈夫っすよ、兄貴。流星の存在が知られたのは、ついさっきのことなんすから」

 エレベーターに乗り込み、賢太が六階のボタンを押しながら言う。

「……ああ、そうだな」

 高鳴る鼓動に長く息を吐き、落ち着かせようとする。ドアが開き、部屋の前まで歩く。ドアの向こうは静かだ。カードを翳し、中に入る。

「流星!」

 声を掛けるが返事はない。靴を脱いで廊下を進み、ドアを開けた。昼食か夕食か、食べた後のまま食器がテーブルの上に残されている。奥の寝室に入ると、ベッドの上に洋服が散らばっていた。

「部屋が、荒らされている……?」
「いや、あいつが散らかしてるだけっすね」

 賢太は溜息混じりに「皿は水に浸けとけ、脱いだ服は洗濯機に入れろっつってんのに」とベッドの服を纏めて持っていく。流星が部屋を散らかしていた記憶がないので、今日はそれほど急いでいたのだろうか。賢太の言種ではよくあることのようだが。

 しかし家にもいないとなるとどこだ? 考えを巡らせながら腕時計を見る。
 今は夜六時過ぎ。ボイストレーニングの時間にしては遅く、クラブのイベントならば早い時間だ。買い物や外食なら電話に出られないことはあってもメッセージの返信はあるはずだ。流星が俺のメッセージを放置することは今までなかった。

 と、携帯電話が鳴って液晶画面を見ると「リュウ」の文字。

「リュウか!」
「ごめん、兄ちゃん! 今日ライブの日でさ、リハしてて出られなかった!」

 申し訳なさそうに言う流星の声に、無事を知れて安堵する。そうか、今日は日曜日、ライブに出演することもあるか。

「どうかしたの?」
「いや、時間が出来たから会いに行ってもいいか?」
「えっ! やった! 全然いいよっ!」

 嬉しそうな流星の声に、父親のこと、跡目のことを話さなければならないことを思うと、胸が痛んだ。
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