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第六話 嵐の後
第六話 嵐の後⑧
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目が少し赤かったが、歯を見せて笑って来た道を戻っていく。俺は母さんを休ませるようにと洸祐に言付けて、林田とその場を後にした。
駐車場に停めた車内で待機したまま寝ていた桜庭を起こし、車に乗り込む。後部座席にいつの間にか鞄が置かれていた。流星が「俺のだ」と抱えて席に座るのを見て、助手席の林田が後ろを振り返る。
「あ、賢太さんっすけど、骨に異常無かったってことで今朝退院されました。もう自宅に戻られてます。賢太さんのこととか纐纈さんが色々やってくださって、その流星さんの荷物もさっき怪我の治療中に受け取りました」
「よかった……てか怜のやつ顔見せれば良かったのに」
流星のことばかりで賢太の方まで気が回せなかったことを反省するが、俺が賢太のことを頼んだ纐纈君が代わりにやってくれてよかったと思う。流星の拉致の件のことも立ち回ってくれた。
「纐纈さん色々忙しいみたいですよ。オヤジさんに呼ばれたとかで」
「あーそっか、怜の父親ヤクザだって言ってたしな?」
流星の発言で、疑問が解けた。「纐纈」という珍しい苗字、ヤクザに何人もいるものではない。
「まさか……九条会幹部の纐纈惇か」
「あぁ九条会! そんな名前だったかも」
九条会の幹部の息子が、流星に近付いた理由は分からない。そもそも流星の出生の秘密を始めから知っていたかは疑問だ。
しかし、あまりにも動きが早かったこと、今回の事件で伊玖磨が薬を隠すための場所として九条会の島を使ったこと。纐纈惇の息子である彼が、全く無関係と考えるのは不自然ではある。少なくとも九条会の中でも薬の出処をいくらか探っていた可能性は高い。
「兄ちゃん、心配しなくても怜は良い奴だぜ」
俺の顔を覗き込んで、流星が笑って俺の眉間を指差した。流星の前で険しい顔をしていたことに気付いて苦笑する。
「ああ、今回彼が居てくれて助かった。ちゃんと礼をしないとな」
流星は「怜にメッセ送っとく」と鞄の中からスマホを取り出し操作をし始めた。伊玖磨の件は九条会に詫びを入れなければならないが、纐纈君を通じて上手く事を荒立てずに済むよう進められないか模索する必要がある。
「着替えをいくらか持って来てもらえるか?」
「分かりました」
マンションに着き、林田に流星のマンションの鍵を渡して、流星と車を降りた。医者には数日は不安感や不眠などが引き金となってフラッシュバックが起こる可能性が高いため、安静にし、できるだけ側に付いていて欲しいと言われた。
伊玖磨の件を他の者に任せておくことはできない。が、流星も一人にはしておけない。
「頭、痛……」
部屋に入ると、流星が身体をふらつかせたので慌てて支える。他の人間の前では、気を張っていたのだろう。
「少しでも何か食べられそうか? 薬を飲んで横になった方がいい」
流星は小さく頷くとソファに座って置いてあった菓子パンを一口だけ食べた。食欲がないのだろう。それ以上進まず、水を飲んでソファで横になってしまう。
「医者から貰った薬だ。これだけでも飲んでくれ」
頭痛薬と胃腸薬を一錠ずつ手に取り、流星の口の中に入れる。流星の唇が指先に触れる感触に思わず手を引き、何事もなかったかのように装って水を手渡した。
「ありがと、少し寝るね」
駐車場に停めた車内で待機したまま寝ていた桜庭を起こし、車に乗り込む。後部座席にいつの間にか鞄が置かれていた。流星が「俺のだ」と抱えて席に座るのを見て、助手席の林田が後ろを振り返る。
「あ、賢太さんっすけど、骨に異常無かったってことで今朝退院されました。もう自宅に戻られてます。賢太さんのこととか纐纈さんが色々やってくださって、その流星さんの荷物もさっき怪我の治療中に受け取りました」
「よかった……てか怜のやつ顔見せれば良かったのに」
流星のことばかりで賢太の方まで気が回せなかったことを反省するが、俺が賢太のことを頼んだ纐纈君が代わりにやってくれてよかったと思う。流星の拉致の件のことも立ち回ってくれた。
「纐纈さん色々忙しいみたいですよ。オヤジさんに呼ばれたとかで」
「あーそっか、怜の父親ヤクザだって言ってたしな?」
流星の発言で、疑問が解けた。「纐纈」という珍しい苗字、ヤクザに何人もいるものではない。
「まさか……九条会幹部の纐纈惇か」
「あぁ九条会! そんな名前だったかも」
九条会の幹部の息子が、流星に近付いた理由は分からない。そもそも流星の出生の秘密を始めから知っていたかは疑問だ。
しかし、あまりにも動きが早かったこと、今回の事件で伊玖磨が薬を隠すための場所として九条会の島を使ったこと。纐纈惇の息子である彼が、全く無関係と考えるのは不自然ではある。少なくとも九条会の中でも薬の出処をいくらか探っていた可能性は高い。
「兄ちゃん、心配しなくても怜は良い奴だぜ」
俺の顔を覗き込んで、流星が笑って俺の眉間を指差した。流星の前で険しい顔をしていたことに気付いて苦笑する。
「ああ、今回彼が居てくれて助かった。ちゃんと礼をしないとな」
流星は「怜にメッセ送っとく」と鞄の中からスマホを取り出し操作をし始めた。伊玖磨の件は九条会に詫びを入れなければならないが、纐纈君を通じて上手く事を荒立てずに済むよう進められないか模索する必要がある。
「着替えをいくらか持って来てもらえるか?」
「分かりました」
マンションに着き、林田に流星のマンションの鍵を渡して、流星と車を降りた。医者には数日は不安感や不眠などが引き金となってフラッシュバックが起こる可能性が高いため、安静にし、できるだけ側に付いていて欲しいと言われた。
伊玖磨の件を他の者に任せておくことはできない。が、流星も一人にはしておけない。
「頭、痛……」
部屋に入ると、流星が身体をふらつかせたので慌てて支える。他の人間の前では、気を張っていたのだろう。
「少しでも何か食べられそうか? 薬を飲んで横になった方がいい」
流星は小さく頷くとソファに座って置いてあった菓子パンを一口だけ食べた。食欲がないのだろう。それ以上進まず、水を飲んでソファで横になってしまう。
「医者から貰った薬だ。これだけでも飲んでくれ」
頭痛薬と胃腸薬を一錠ずつ手に取り、流星の口の中に入れる。流星の唇が指先に触れる感触に思わず手を引き、何事もなかったかのように装って水を手渡した。
「ありがと、少し寝るね」
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