アネモネの花

藤間留彦

文字の大きさ
9 / 75
風岡一温編

第四話 関係の終わり①

しおりを挟む
「あっ、ぁん……せんせっ……」

 僕は先生の上で腰を振りながら、自分の中の感じるところに何度も押し当てる。

 先生とセックスをするようになってから、十ヶ月が経った。
 僕の身体は完全に雌に変えられていて、前を弄らなくても後ろだけでイけるようになっていた。先生の肉棒を週に一度は咥え込んでいるのだから、当然の成り行きではある。

「ほら、手伝ってやるから、早くイけ……!」

 先生が僕の腰を掴んで、下から激しく突き上げる。

「ッ、だめ、っあぁ……せんせ、も……出し、て……ッぁ、あ……!」

 性感帯を何度も激しく刺激されて、僕は身体を激しく痙攣させながら、勝手に溢れる透明な液体を茎の尖端から垂れ流しながら、全身を貫く快感に耽溺する。

「……くっ……!」

 まだ達した後の余韻で小刻みに震えている僕の中で、先生の一部が脈動するのを感じた。一緒に絶頂に至ったのだと思うと、凄く嬉しい。
 僕は脱力して先生の上に圧し掛かった。

「……重い」

 嫌そうに眉間に皺を寄せると、僕を横に退かして身体を起こし、白濁の詰まったゴムを捨てる。そして、ティッシュで僕の精液で汚れた腹部を拭った。

「じゃ、済んだことだし帰るか」

 あっさりそう言って立ち上がろうとした先生の腕を、僕は咄嗟に掴んだ。

「……もう少し、一緒に居たいです」

 驚いたように振り返った先生の顔を見上げながら言う。と、先生は深く溜息を吐いた後、面倒臭そうに僕の隣に寝転んだ。

「まあ、まだ時間に余裕あるしな」

 先生は、優しい。僕の我儘に付き合ってくれる。僕は先生の肩におでこをくっつけて寄り添うように横になった。
 先生の身体は、僕より少し冷たいから、心地良い。

「風岡、来月から三年だよな? こんな淫蕩ぶりで受験大丈夫なのかよ」
「大丈夫です。僕、勉強得意なので」
「知ってる。理数だけなら、学年一位だもんな」

 僕が三年生になるということは、先生と過ごせるのもあと一年だ。いや、もっと早いかもしれない。

 永田先生は去年子供を出産していて、今年の四月から子供を保育園に預けることが出来たら復帰するのだそうだ。非常勤講師の観月先生は、それが決まり次第学校を離れることになる。

 胸の奥が、きゅっと締め付けられるように苦しくなる。このまま先生と離れることになれば、先生と僕は二度と会うことは無くなるという予感がしていたから。

 先生はまだ、僕を見てくれていない。

 頭の後ろで手を組んだ格好で天井を見詰めている先生の横顔を眺める。先生の綺麗な栗色の波打つ髪、そしてヘーゼルの瞳は淡い照明の色に反射して金にも緑にも茶にも見えた。

「……先生って、ハーフですか」
「ダブル、な。……そうだったら何?」

 無感情を装っても、先生の瞳の虹彩は嘘が吐けない。先生にテストのことで呼び出された時も、先生は僕が容姿について聞いた時、瞳の虹彩が僅かに収縮した。

「先生の髪も眼も、特別に綺麗だから」

 先生は身体を起こすと鞄の中から煙草とライターを取り出す。ベッドの上に座って煙草に火を点けると、深く吸い込んで煙を吐き出した。

「父親がカナダ人らしい。籍入れる前に別れて俺が生まれて、今の父親と結婚したらしいから」
「そう、なんですね」

 ふう、と吐き出した白煙が消えていくのを、先生は見詰めている。

「そ。普通に日本人顔だからさ、家族で俺だけ父親が違うって、言われるまで気付かなかったけど……まあ、髪とか眼とか結構からかわれたから、じゃあ仕方ねえなって思えるようにはなったよ」

 今は髪を染めている同世代なんて幾らでも居るだろうけれど、子供の頃は人と違うことに苦労をしてきただろうと思う。

「先生が色の付いた眼鏡を掛けるのは、眼を隠すため……ですか?」

 ぴく、と先生の煙草を持つ手が反応する。そして、動きを止め俯き加減に煙を吐いた。

「……蛍光灯が眩しいんじゃないかって……色付きの眼鏡を掛けてみたらどうかって……言ってくれた人が、居たんだ」

 その時の先生の搾り出すような弱々しい声を、心を締め付けるような優しい表情を、僕は忘れることは無いだろう。

 遠く、記憶の彼方にあるその思い出を見詰めながら、大事そうに、募らせた想いを込めて呟くように言った先生の顔は、恋をしている人のものに、似ていた。

 先生の想い人は、きっと手の届かないところに居る。もう会うことのない人なのかもしれない。

 まるで、未来の僕と先生のように。

「……先生が眼鏡を掛けている時って、雰囲気が全然違いますよね」

 それは「地雷」だと解っていた。でも、言わずにはいられなかった。

 もしこのまま何も言わずにいたら、僕らの関係はどのみち終わってしまうと思ったから。

「それって、もしかして……誰かの――」
「黙れよ」

 低くくぐもった声。顔に苛立ちと怒りと、僅かばかりの焦燥を浮かべて、先生は乱暴に煙草を灰皿に押し付ける。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...