アネモネの花

藤間留彦

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陽川花火編

第二話 変化④

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 待っている間に交代でトイレを済ますと、すぐに入場の時間になった。いくつものスクリーンが並んでいて、ドア越しに中の映画の音が聞こえてくる。僕は花火について、エスカレーターに乗り、最上階に向かった。三百人くらい入りそうな大きさの場所で、スクリーンが想像以上に大きい。

 階段を上って最後列の一番端の席に花火が座り、僕はその隣に座った。スクリーンが大きいので気にはならないが、この席を敢えて選んだのは何故だろう。後ろと横に人が居ないから、気が散らなくていいからだろうか。

「ポップコーン先食べるな。余った分あとで渡すわ」

 花火はそう言うと映画が始まる前に食べきる勢いで食べ始めた。ふとこれは花火の癖だと気付いた。昼のお弁当も、花火が先に食べ終わってから、余った弁当箱を渡されるのだが、一緒につついて食べるということはない。先に花火が食べ、いくらかおかずの残った弁当箱を僕の前に置く。潔癖症なのかとも思ったけれど、花火が持ってくる水筒の麦茶はコップをいつも共用しているから、そうではなさそうだ。

 照明が落とされ、これからある映画の宣伝が流れ始める。ホラーやSFアニメーション、恋愛コメディ、戦争映画などが次々と紹介される。中には待望の第三弾、と銘打ったものもあったが、戦争映画の戦争そのものの知識を除くと何一つとして見知ったものは無かった。

「ほい、あとやる」

 もう少しで映画が始まりそうだという時に、花火が僕の膝の上にポップコーンを置いてきた。暗いので分量は分からなかったが、手で探ったところ二、三割といったとこだろうか。僕が小食なのを知っているので、残す量も毎回計算されている。

 ポップコーンを摘んで、コーラを飲みながら、映画を観る。これが映画館での鑑賞の楽しみの一つなのだろう。

 映画の内容は、どうやらシリーズもののようだが、超能力者のヒーローが大勢出てきて、強大な敵に力を合わせて立ち向かうという分かりやすいストーリーだった。派手なアクションが売りなのだろう。爆発など迫力のある画と音に圧倒される。

 ふと隣に座っている花火に意識を移す。緊迫感のあるシーンになるとドリンクに手が伸びるようだった。僕も極力爆発音が鳴っているタイミングでポップコーンを食べるようにしていたが、塩気のあるものを食べると甘いものを口に入れたくなり、度々コーラを挟んだ。パチパチと口の中で弾ける炭酸飲料が、特別に美味しく感じられる。

 無事ヒーローたちが悪を倒して、エンドロールが流れ出す。客の二割ほどがそのタイミングで席を立ったが、エンドロールの後、新たな敵の出現を予感させるシーンがあった。退席した人たちは、これを観なくても良かったのだろうか、と疑問だった。

「面白かったな!」
「うん」

 映画館を出ると、花火が興奮した様子で話し掛けてくる。映画を観ている間は、ほとんど飲み物を飲む以外で動かなかったが、集中していたのだろう。

「嘘だ! お前全然楽しそうじゃねえじゃん!」

 正直、面白かったかどうかは分からなかったが、映画の内容というよりは、映画館で友人と映画を観るという経験に意味があったのだと思う。

「映画とポップコーンとコーラの組み合わせが良いってことは分かったよ」
「何だそれ」

 僕にとっては、貴重な経験だったのだけれど。花火は少し不満そうだった。
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