アネモネの花

藤間留彦

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陽川花火編

第四話 募る想い①

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 夢か現か分からないまま目が覚めて、一日を過ごして、眠る。そうして死ぬ時まで淡々と一日を積み重ねるのだと、そう決めた――はずだった。

 夢を見るのだ。夕暮れの空の下、今にも消えそうな、儚い笑みを浮かべて立つ彼――陽川花火の姿を。僕はそれを瞼に焼き付けて、目が覚める。

 日に日に募っていくのが分かる。許されない想いが、僕の決心を揺るがせ、眩惑する。呪いなど効果はなかった。花火は週明けの月曜に会うと、いつものように僕に接した。そうして一日を過ごすと、僕はまた彼のことを考えてしまう。

 ――君に覚える寂寥感は、一体何処から来るのか。

 しかし、その夢は僕に不思議と苦痛を与えるものではなかった。花火と会ってから、朝の倦怠感が軽減されている気がするから。
 僕の色の無い世界に、彼という鮮烈な色が一つある。一つしかないから、僕はその色に惹かれるのだろうか。自問自答しながらも学校へ行く準備をする。


 花火に朝の挨拶をして、昼休みには彼と屋上でお弁当を食べて、帰りには一緒に下校した。土日は花火の仕事の手伝いが無ければ、図書館のロッカーに携帯電話を預けて、お金を使わないで済むウィンドウショッピングをしたり、公園で他愛のない話をしたり、たまにゲームセンターで遊んだりした。ゲームセンターの機械で、何のキャラクターか分からないけれど、兎のような小さなぬいぐるみを花火が取って、僕にくれた。彼が言うには、そのぬいぐるみと僕は似ているらしい。

 そうして遊んでばかりいたので、花火は僕の成績が下がらないか心配したが、中間試験では問題なくほぼ満点を取った。この成績を答案用紙の写真付きで母に報告しておいたが、まさか母も僕が勉強をサボって遊びに出掛けているとは思いもしないだろう。

 瞬く間にひと月が経ち、じめじめとした雨の日が続くようになった頃、僕は放課後図書室で勉強するのをやめることにした。理由は僕の勉強が終わるのを待つ間、花火は家に帰って食事の支度など家事をしていると知ったからだ。勉強など家でいくらでもできるから、と放課後そのまま真っ直ぐ家に帰ることにした。

「気にしなくていいのに」
「気にするよ。僕より花火の方が忙しいんだから」
「そうか? 俺結構家事好きだからさ。勉強の方が大変だろ」

 授業を受ける以外で、花火が勉強をしているのをほとんど見たことはない。この間の中間テストでも、赤点だらけで、再テストを受けさせられていた。お父さんに流石に怒られて、数日僕と図書室で居残り勉強して、一応要点を教えてあげたりしたのだけど、その御蔭か、どうにか再テストは合格できた。こんなことなら、初めから僕が教えておいてやればよかったと思う。

「そういや明日の昼は何がいい?」

 下校時間は、大体次の日のお弁当のおかずのリクエストを聞いてくれる。初めの頃は何でもいいと答えていたけれど、気に入ったおかずがなかなか入らなかったりするので、最近はちゃんと答えるようにしている。

「南瓜の……挽肉が入った、煮物?」
「ああ、南瓜のそぼろ煮な! 分かった。確か鶏の挽肉が冷凍庫に余ってた気がするから、ちょうどいいや」

 花火の作るお弁当のおかずは和食で、肉よりも魚のことが多く、肉も鶏肉を使ったものが多い。野菜の割合も高く、栄養バランスを考えているようだった。勝手な予想だけれど、お父さんの分のお弁当も作っているから、揚げ物や牛豚肉を使ったおかずが少ないのだろう。そう思うのは、外食をする時、花火はいつもファストフードなどの肉や油を使った食べ物を好んで食べるからだ。
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