アネモネの花

藤間留彦

文字の大きさ
56 / 75
陽川花火編

第四話 募る想い④

しおりを挟む
「貸して」

 僕が渡すように手を差し出すと、観念したように畳の上に座り、救急箱を横に置いた。僕は花火の正面に座って箱の留め具を外し、蓋を開ける。ガーゼや切り傷用の塗り薬、湿布、絆創膏も大きさごとに三種類ほど入っていた。十分に揃えられているのは、恐らく造園業をしている花火のお父さんが、仕事中に怪我することがあるからだろう。

 僕は消毒液と脱脂綿を取り、消毒液を傾けて綿に染み込ませた。花火は怪我をしている唇を正面にするように横を向いている。

「染みたらごめん」

 脱脂綿を近づけると、花火がびくりと肩を竦ませた。染みるのが怖いのではない。引き攣った顔で硬直する姿を見て思う。しかし、拒絶したり手を払い除けたりはしなかった。

「ッ……」

 口の端に触れると傷が染みたのか、僅かに震え、短く息を切る。脱脂綿が、血で赤く染まる。
 一般的なサイズの絆創膏を一つ取り出し、剥離紙を剥がして顔に近づけると、また花火が肩を震わせた。僕は傷口にガーゼの部分を当てて貼り付ける。

「一温に手当てしてもらってよかったなあ、花火」

 僕らを遠目から見ていたお父さんが、茶化すようにそう言って花火の頭を軽くぽんと叩いた。花火は「うるせっ」と仏頂面で、少し恥ずかしそうに言う。

「俺は飯作るから、出来上がるまで二人で将棋でもして遊んでろ!」

 花火は立ち上がると、部屋を出ていきぴしゃりと襖を閉めて出ていった。廊下を音を立てて歩いていく。

「あの……僕はもう、お暇します」
「飯だけでも食ってけばいい。放っておくとろくに食べねえって、花火言ってたぞ」

 僕の話を花火はお父さんにしているのだ。どんなことを、どんな風に話しているのだろう。それは気恥しく、嬉しいことのように思えた。

 花火のお父さんは居間の端に立てかけてあった座布団を二つ取ると、縁側の方にそれを少し間を開けて置き、一つの上に胡坐を組んで座る。僕はここに座れと言われているのだと察し、立ち上がり縁側の方に半身だけ向けるような形で座り直した。

「花火はよく学校の話をするんですか」
「最近はな。お前さんの話ばかりで、勉強のべの字もねえけどなぁ。すごく楽しそうだ」

 花火のお父さんは、縁側の方を見る。池の中には数匹の錦鯉が泳いでいて綺麗だ。

「しかし驚いた。あいつが他人に触らせるなんてな」
「え……?」

 花火は僕に触られるのが嫌なのかもしれないと何となく思っていた。お父さんとは普通に接しているのを知っているから。しかし、僕に限ったことじゃないのだろうか。

「あいつはな……花火は、親に虐待されて育ったんだ」

 言葉が出なかった。というか、想像もしていなかった。花火はよく笑うし、いつも悩みなんて何もないような顔をしていたから。

「ああ、言っとくが、それは俺じゃねえぞ。あいつの本当の親だ」
「……本当、の」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

処理中です...