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陽川花火編
第五話 一歩③
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けれど、花火は僕の抱えるものを一緒に抱えたいと言ってくれた。その優しさに、想いに、僕は応えたい。僕が許されないと思っている感情を、言葉にできる日がくることを、願っているから。
最寄駅から数駅先の駅で電車に乗り換え、いつも使っていた路線に乗り換える。どこかに出掛ける人と帰る人で駅は混雑していた。
窓の外を眺める。日は沈み、街灯が点々と灯っていた。何度も見てきた風景だけれど、あの頃のようにせり上がる切ない感情もない。隣を見ると花火が居て、「どうした?」と首を傾げる。「何でもないよ」と答えると、「夜のあの辺とか行ったことねぇから緊張するな」と笑った。僕の緊張を解そうとしてくれているのだろう。
彼の優しさに触れると、温かい気持ちと喉の奥に引っ掛かるような言いようのない感情が交錯する。花火は、何の理由もなく僕に優しい。与えられるばかりで、僕は迷惑を掛けているのではないかと不安だが、そう言うとそんなことはないと怒るので言わないけれど。花火は与えるばかりで、何も得ていないのでは、と思った。
でも僕は、そこで陽川花火という人間が抱える大きな問題にようやく気付いた。彼がどんな生い立ちだったのかを知って、そして彼という人間と過ごしているうちに積み重なっていく違和感――その違和感がやがて、一つの歪なかたちを形成していることに気付かされる。
花火は、自分という人間の存在を是としていない。根本には、本来無償の愛を与えてくれる母親に虐待された事実がある。しかし、花火の祖父であり父である人は、彼を誰よりも愛しているように見える。それなのに、彼が自分を肯定できないのは不思議だった。
けれど、彼は心のどこかで気付いている。父の根底には「贖罪」がある、と。自分を手放しで愛してくれている訳ではない、と。実の娘が犯した罪、そしてそこに至るまでの道筋に自分が関係していることへの代償を払うように、花火を育てているのだ、ということに。
花火が全ての家事を熟して、父親の仕事を積極的に手伝い、早く働きたいと願うのは、きっと「ここに居ていい」と、自分の存在理由が欲しいからだ。
――何でお前が俺を好きになるんだよ。
初めて花火と会った日、彼の言った台詞が頭の中に浮かんだ。あの時はなんともない言葉だったけれど、誰からも心から愛されたことがない彼の中にある、空洞を見るような心地がして、胸が詰まった。
「一温! 何してるんだよ、降りるぞ!」
声を掛けられて、電車のベルが鳴っているのに気付いて慌てて飛び降りた。背後で扉が閉まって、電車が走り出す。
「ごめん……ぼーっとしてた」
「いいけどさ、こっからはお前のが道詳しいんだからな」
「うん、分かってる。行こう」
覚悟を決めて、歩き出す。僕が今居る場所から一歩前に進むために、花火が望むことをしたい。そして、もし自分を許すことができたら、その時は――。
見慣れた駅の改札を通り抜け、待ち合わせの人で溢れかえった駅を出る。繁華街へ続く道は、昼間のように明るかった。煌々と輝くネオンの灯りに包まれた街を抜け、雑居ビルの多いエリアに辿り着く。通りを歩く人達は男性ばかりだ。そして、僕の目指していた店は、角を曲がるとすぐ目の前にあった。
「……ここ」
最寄駅から数駅先の駅で電車に乗り換え、いつも使っていた路線に乗り換える。どこかに出掛ける人と帰る人で駅は混雑していた。
窓の外を眺める。日は沈み、街灯が点々と灯っていた。何度も見てきた風景だけれど、あの頃のようにせり上がる切ない感情もない。隣を見ると花火が居て、「どうした?」と首を傾げる。「何でもないよ」と答えると、「夜のあの辺とか行ったことねぇから緊張するな」と笑った。僕の緊張を解そうとしてくれているのだろう。
彼の優しさに触れると、温かい気持ちと喉の奥に引っ掛かるような言いようのない感情が交錯する。花火は、何の理由もなく僕に優しい。与えられるばかりで、僕は迷惑を掛けているのではないかと不安だが、そう言うとそんなことはないと怒るので言わないけれど。花火は与えるばかりで、何も得ていないのでは、と思った。
でも僕は、そこで陽川花火という人間が抱える大きな問題にようやく気付いた。彼がどんな生い立ちだったのかを知って、そして彼という人間と過ごしているうちに積み重なっていく違和感――その違和感がやがて、一つの歪なかたちを形成していることに気付かされる。
花火は、自分という人間の存在を是としていない。根本には、本来無償の愛を与えてくれる母親に虐待された事実がある。しかし、花火の祖父であり父である人は、彼を誰よりも愛しているように見える。それなのに、彼が自分を肯定できないのは不思議だった。
けれど、彼は心のどこかで気付いている。父の根底には「贖罪」がある、と。自分を手放しで愛してくれている訳ではない、と。実の娘が犯した罪、そしてそこに至るまでの道筋に自分が関係していることへの代償を払うように、花火を育てているのだ、ということに。
花火が全ての家事を熟して、父親の仕事を積極的に手伝い、早く働きたいと願うのは、きっと「ここに居ていい」と、自分の存在理由が欲しいからだ。
――何でお前が俺を好きになるんだよ。
初めて花火と会った日、彼の言った台詞が頭の中に浮かんだ。あの時はなんともない言葉だったけれど、誰からも心から愛されたことがない彼の中にある、空洞を見るような心地がして、胸が詰まった。
「一温! 何してるんだよ、降りるぞ!」
声を掛けられて、電車のベルが鳴っているのに気付いて慌てて飛び降りた。背後で扉が閉まって、電車が走り出す。
「ごめん……ぼーっとしてた」
「いいけどさ、こっからはお前のが道詳しいんだからな」
「うん、分かってる。行こう」
覚悟を決めて、歩き出す。僕が今居る場所から一歩前に進むために、花火が望むことをしたい。そして、もし自分を許すことができたら、その時は――。
見慣れた駅の改札を通り抜け、待ち合わせの人で溢れかえった駅を出る。繁華街へ続く道は、昼間のように明るかった。煌々と輝くネオンの灯りに包まれた街を抜け、雑居ビルの多いエリアに辿り着く。通りを歩く人達は男性ばかりだ。そして、僕の目指していた店は、角を曲がるとすぐ目の前にあった。
「……ここ」
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