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陽川花火編
第五話 一歩④
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足が竦んで、立ち止まる。と、花火が「行くぞ」と僕の手を引っ張って歩き出し、バーのドアを開け放った。
アップテンポの曲が流れる店内。居るとしたら、きっと座っているだろう場所に視線を遣る。
「どうだ? 居るか?」
花火の問いに首を横に振る。先生が変わらずにこの場所に来続けているという確信があったから、肩透かしを食ったような気持ちになった。
「別の店に居る可能性は?」
「先生とはこの店にしか来たことが無いから……」
ふと、もう一軒行ったことがある店を思い出す。ここまで来たら少しでも可能性があることは全て試してみなければ。
「先生とは関係ないんだけど、僕の知り合いに連れて行ってもらった店があって……その人がもし先生を知っていたら、探してもらえるかもしれない」
「よし、行ってみようぜ!」
店を出て二分くらい、更に奥まったところにある店に着く。ドアを開けると、落ち着いた雰囲気の音楽が流れていて、カウンターと数席のテーブル席しかない小さな店はほぼ満席だった。だから、店にいる客の中に見知った顔が無いことはすぐに分かった。
「あれ? 一温?」
しかし、カウンターの向こうから聞こえてきた声に驚いて顔を向けると、そこには白いシャツを着た、謙さんの姿があった。僕達二人の姿を見て何かを察したのか、「外で話そう」と店主らしき男性に声を掛けて店の外に出る。
「どうしたの? ワケアリなのは何となく分かるけどさ」
店の脇の小路に入ったところで向かい合う。僕は僕が相談したことには嘘が混じっていたことを話し、謝った。謙さんは「分かってたけど」と笑いながら許してくれた。そしてその上で、僕は先生を、「シュウ」という人を探していることを伝えた。
「……あー、なんか色々繋がっちゃったかも」
「知ってるんですか……?」
「あの店によく出入りしててシュウって名前って、一人しかいないもん。最近は接点ないけど、数年前までは結構仲良かったし」
謙さんは少しばつが悪そうに笑った。
「もし見かけたら声掛けて、連絡するように伝えるよ。連絡ってどこにしたらいい?」
「じゃ、俺のでいいっすか」
僕の携帯電話では支障があると思ったのだろう。黙って話を聞いていた花火がスマホを取り出し、連絡先を交換する。
「俺最近、あの店手伝い始めてさ。結構顔も広くなったし、お客さんに聞いたりとか仕事ない時に探してみたりするよ」
「ありがとうございます」
「いいよいいよ! まあ、俺もこの件は無関係じゃないし……」
と、謙さんは少し含みを持たせるような言い方をした。数年前から会っていないということは、もしかしたら、先生と謙さんにも何かあったのだろう。
「じゃあね!」
謙さんと別れ、来た道を戻りながら駅に向かう。
「いい人だったな」
「うん。前にも先生のことで相談に乗ってくれて、親切にしてもらったんだ」
道中、暗がりで抱き合っている男性二人組を見掛ける。もしかして花火は僕と謙さんの関係を勘違いしているのではないだろうか。ほとんど話にも入ってこなかったから。
「僕と謙さんは性行為はしてないよ。本当にただの知り合いで――」
「分かってる! つか、お前そういうのストレートに言い過ぎ!」
顔を覗き込むと頬が少し赤くなっていた。普通は「そういう」ことは他人に言わないものなのだろう。
最寄り駅に着いて帰り道、他愛のない会話をして僕の家の前で別れた。花火が晩御飯を一緒に食べようと言ってくれたけれど、流石にレトルト食品が溜まってきているので、消化するために断った。明日の夕飯は、今日食べられなかった親子丼を食べようと約束した。
レトルトカレーを食べて、シャワーを浴びて、ベッドに頭から倒れ込む。まだ寝るのには早いし、勉強した方がいいと思うけれど、色々と考えたり動いたりしたせいか、身体が怠い。
重力に逆らわず重い瞼を閉じると、深く海の底に沈むように眠りに落ちて行った。きっと、僕はまた花火の夢を見るのだろう。
アップテンポの曲が流れる店内。居るとしたら、きっと座っているだろう場所に視線を遣る。
「どうだ? 居るか?」
花火の問いに首を横に振る。先生が変わらずにこの場所に来続けているという確信があったから、肩透かしを食ったような気持ちになった。
「別の店に居る可能性は?」
「先生とはこの店にしか来たことが無いから……」
ふと、もう一軒行ったことがある店を思い出す。ここまで来たら少しでも可能性があることは全て試してみなければ。
「先生とは関係ないんだけど、僕の知り合いに連れて行ってもらった店があって……その人がもし先生を知っていたら、探してもらえるかもしれない」
「よし、行ってみようぜ!」
店を出て二分くらい、更に奥まったところにある店に着く。ドアを開けると、落ち着いた雰囲気の音楽が流れていて、カウンターと数席のテーブル席しかない小さな店はほぼ満席だった。だから、店にいる客の中に見知った顔が無いことはすぐに分かった。
「あれ? 一温?」
しかし、カウンターの向こうから聞こえてきた声に驚いて顔を向けると、そこには白いシャツを着た、謙さんの姿があった。僕達二人の姿を見て何かを察したのか、「外で話そう」と店主らしき男性に声を掛けて店の外に出る。
「どうしたの? ワケアリなのは何となく分かるけどさ」
店の脇の小路に入ったところで向かい合う。僕は僕が相談したことには嘘が混じっていたことを話し、謝った。謙さんは「分かってたけど」と笑いながら許してくれた。そしてその上で、僕は先生を、「シュウ」という人を探していることを伝えた。
「……あー、なんか色々繋がっちゃったかも」
「知ってるんですか……?」
「あの店によく出入りしててシュウって名前って、一人しかいないもん。最近は接点ないけど、数年前までは結構仲良かったし」
謙さんは少しばつが悪そうに笑った。
「もし見かけたら声掛けて、連絡するように伝えるよ。連絡ってどこにしたらいい?」
「じゃ、俺のでいいっすか」
僕の携帯電話では支障があると思ったのだろう。黙って話を聞いていた花火がスマホを取り出し、連絡先を交換する。
「俺最近、あの店手伝い始めてさ。結構顔も広くなったし、お客さんに聞いたりとか仕事ない時に探してみたりするよ」
「ありがとうございます」
「いいよいいよ! まあ、俺もこの件は無関係じゃないし……」
と、謙さんは少し含みを持たせるような言い方をした。数年前から会っていないということは、もしかしたら、先生と謙さんにも何かあったのだろう。
「じゃあね!」
謙さんと別れ、来た道を戻りながら駅に向かう。
「いい人だったな」
「うん。前にも先生のことで相談に乗ってくれて、親切にしてもらったんだ」
道中、暗がりで抱き合っている男性二人組を見掛ける。もしかして花火は僕と謙さんの関係を勘違いしているのではないだろうか。ほとんど話にも入ってこなかったから。
「僕と謙さんは性行為はしてないよ。本当にただの知り合いで――」
「分かってる! つか、お前そういうのストレートに言い過ぎ!」
顔を覗き込むと頬が少し赤くなっていた。普通は「そういう」ことは他人に言わないものなのだろう。
最寄り駅に着いて帰り道、他愛のない会話をして僕の家の前で別れた。花火が晩御飯を一緒に食べようと言ってくれたけれど、流石にレトルト食品が溜まってきているので、消化するために断った。明日の夕飯は、今日食べられなかった親子丼を食べようと約束した。
レトルトカレーを食べて、シャワーを浴びて、ベッドに頭から倒れ込む。まだ寝るのには早いし、勉強した方がいいと思うけれど、色々と考えたり動いたりしたせいか、身体が怠い。
重力に逆らわず重い瞼を閉じると、深く海の底に沈むように眠りに落ちて行った。きっと、僕はまた花火の夢を見るのだろう。
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