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陽川花火編
第六話 愛すること②
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「俺は別にいいよ。何言われたって、どんな風に思われたって、そんなの今に始まったことじゃねえし。けど、いくらあんたが一温の母ちゃんだからって、一温のことを悪く言うのは許せねえ」
真っ直ぐに母を見据える花火の瞳は、強い意志と仄かな怒りと、深い悲しみが入り混じっているように見えた。
「……貴方、この子のことが好きなの?」
「好きだったらなんか問題あんのかよ」
嘲笑うように放たれた母の言葉を、歪みのない直球の言葉でそのまま投げ返す。母はそんな風に返ってくるとは思っていなかったのだろう。何も言えずに押し黙る。そして僕は、彼の言葉の意味をそのまま受け取るべきなのか分からなかった。
「あんただって、一温の父ちゃんのこと好きで結婚したんだろ。それと、どんな違いがあるっていうんだ?」
「……男同士だなんて、そんなの……不毛よ」
「じゃあ男女だったら不毛じゃねえのか?」
母の顔が、強張る。まるで何かを恐れるように肩を竦め、いつもよりも小さく見えた。逆に追い詰められているようで、こんな母を見るのは初めてだった。
「一温の母ちゃんさ、何で一温にそんなに厳しくするんだよ? あんたがやってることは間違いだとは言わないけど、もう少し信じてやっても良いだろ」
「……あの人に、失望されたくないの」
声を絞り出すように、か細い声で母はそう言った。自身の肩を抱き締めるように、俯いて。
「あの人……?」
「貴方のお父さんよ」
僕の顔を見て大きく息を吐き出し、脱力するように両腕をだらりと垂らす。
「あの人に愛人が居るのを知ったのは、貴方が三歳の時。相手の女とは、貴方を妊娠している頃に出会って、その関係は今も続いてるわ」
想像もしていなかった話だ。単身赴任でほとんど家に居ない父を、どういう人なのかさえ、僕はよくわからない。まともに会話したことなど、数えるほどしかないからだ。でも、僕はずっと父を仕事熱心な真面目な人だと思い込んでいた。
「……私は貴方に期待したのよ。あの人は優秀な人間が好きだから、貴方が立派に育ったら、私のところに戻ってきてくれるんじゃないかって……でも、一温が同性愛者だと分かって、あの人は私や貴方への興味を完全に失った。あとはもう、貴方が大学を卒業するまで問題を起こさないように監督することだけを私に求めてる……そうしたら、本当に私も貴方も要らないんだわ」
僕はあまり母のことを理解していなかった。母は深い愛情を持った人だったのだ。父を深く愛していたから、僕のことを深く愛せなかった。子を身籠ったことが、父の不貞の切欠になってしまったのだから。母が先日話した、公園に連れて行っていたというのは、その事実を知る前のことだったのだろう。
「私は……怖いのよ。貴方があの人のようになるんじゃないかって……貴方が、教師と淫らなことをしたと知ってから」
父と同じように、僕は母を裏切ったのだろう。期待した、優秀な人間では無かったのだから。
「……ごめんなさい、母さん。僕は同性愛者で、初めて好きになった人との不毛な恋に夢中になって、母さんに迷惑を掛けてしまった。でも僕は……それを間違いだとは言いたくない」
母の目を真っ直ぐに見詰める。母は驚いたように目を瞬かせた後、大きな溜息を吐いて力なく笑った。
「貴方はあの人には似てないわ。そういう頑固なところ……私にそっくり」
と、玄関の引き戸が開く音がして振り返る。花火のお父さんが、全員の視線を向けられて、困ったように「出るに出られんでな」と後ろ頭を掻いた。
真っ直ぐに母を見据える花火の瞳は、強い意志と仄かな怒りと、深い悲しみが入り混じっているように見えた。
「……貴方、この子のことが好きなの?」
「好きだったらなんか問題あんのかよ」
嘲笑うように放たれた母の言葉を、歪みのない直球の言葉でそのまま投げ返す。母はそんな風に返ってくるとは思っていなかったのだろう。何も言えずに押し黙る。そして僕は、彼の言葉の意味をそのまま受け取るべきなのか分からなかった。
「あんただって、一温の父ちゃんのこと好きで結婚したんだろ。それと、どんな違いがあるっていうんだ?」
「……男同士だなんて、そんなの……不毛よ」
「じゃあ男女だったら不毛じゃねえのか?」
母の顔が、強張る。まるで何かを恐れるように肩を竦め、いつもよりも小さく見えた。逆に追い詰められているようで、こんな母を見るのは初めてだった。
「一温の母ちゃんさ、何で一温にそんなに厳しくするんだよ? あんたがやってることは間違いだとは言わないけど、もう少し信じてやっても良いだろ」
「……あの人に、失望されたくないの」
声を絞り出すように、か細い声で母はそう言った。自身の肩を抱き締めるように、俯いて。
「あの人……?」
「貴方のお父さんよ」
僕の顔を見て大きく息を吐き出し、脱力するように両腕をだらりと垂らす。
「あの人に愛人が居るのを知ったのは、貴方が三歳の時。相手の女とは、貴方を妊娠している頃に出会って、その関係は今も続いてるわ」
想像もしていなかった話だ。単身赴任でほとんど家に居ない父を、どういう人なのかさえ、僕はよくわからない。まともに会話したことなど、数えるほどしかないからだ。でも、僕はずっと父を仕事熱心な真面目な人だと思い込んでいた。
「……私は貴方に期待したのよ。あの人は優秀な人間が好きだから、貴方が立派に育ったら、私のところに戻ってきてくれるんじゃないかって……でも、一温が同性愛者だと分かって、あの人は私や貴方への興味を完全に失った。あとはもう、貴方が大学を卒業するまで問題を起こさないように監督することだけを私に求めてる……そうしたら、本当に私も貴方も要らないんだわ」
僕はあまり母のことを理解していなかった。母は深い愛情を持った人だったのだ。父を深く愛していたから、僕のことを深く愛せなかった。子を身籠ったことが、父の不貞の切欠になってしまったのだから。母が先日話した、公園に連れて行っていたというのは、その事実を知る前のことだったのだろう。
「私は……怖いのよ。貴方があの人のようになるんじゃないかって……貴方が、教師と淫らなことをしたと知ってから」
父と同じように、僕は母を裏切ったのだろう。期待した、優秀な人間では無かったのだから。
「……ごめんなさい、母さん。僕は同性愛者で、初めて好きになった人との不毛な恋に夢中になって、母さんに迷惑を掛けてしまった。でも僕は……それを間違いだとは言いたくない」
母の目を真っ直ぐに見詰める。母は驚いたように目を瞬かせた後、大きな溜息を吐いて力なく笑った。
「貴方はあの人には似てないわ。そういう頑固なところ……私にそっくり」
と、玄関の引き戸が開く音がして振り返る。花火のお父さんが、全員の視線を向けられて、困ったように「出るに出られんでな」と後ろ頭を掻いた。
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