アネモネの花

藤間留彦

文字の大きさ
69 / 75
陽川花火編

第六話 愛すること③

しおりを挟む
「一温のお袋さん、安心していいぞ。うちの倅は勉強はからっきしだが、人を見る目は確かだ。花火が好いた相手なんだ、一温は良い子に違ぇねえさ」

 「な?」と花火に目配せすると、「それ今言うなよ!」と顔を真っ赤にして詰め寄る。改めて言われて、そして花火の様子を見て、少しどきどきした。

「……ねえ、一温。もし私が離婚するって言ったら、どうする?」

 驚いて母の顔を見ると、厄が落ちたようにすっきりとした表情をしていた。

「どんな結果になっても、母さんの選んだ道を肯定するよ」

 安堵の溜息を吐くと、「よかった」と微笑んだ。

 その後、僕は母と二人で食事に出掛けた。花火の家で夕飯を食べる予定にしていたけれど、花火と花火のお父さんが、ゆっくり親子で話をした方がいいと言ってくれたから。

 僕は学校のこと――ほとんど花火のことになってしまったけれど――を話した。母はずっと僕から成績や勉強のことしか聞くことが無かったので、驚いているようだった。そして、時折頷きながら、僕の話をただ聞いていた。僕はこの時初めて、凡庸な母と子としての会話をしたように思う。

「帰り道、大丈夫?」
「うん、まだそんなに遅くないから。母さんも明日仕事なのに、ありがとう」

 大通りで手を挙げると、すぐに通り掛かったタクシーが目の前に停車した。

「花火君に、酷いことを言ったわ。お詫びをしたいけれど、許してはくれないでしょうね……」
「そんなことないよ。花火は優しいから、きっと分かってくれるよ」

 タクシーに乗り込む母に手を振る。と、窓が開いて母が顔を覗かせた。

「私はもう、貴方のすることに口を出さないわ。諦めたんじゃないのよ、信じることにしたの」
「分かってる。ありがとう」

 「じゃあね」と母は微笑んで、自宅へと帰っていった。僕はタクシーを見送った後、時間を確認しようとして、ロッカーに携帯電話を入れっぱなしにしていることに気付いた。駅前のスクリーンに表示されている時計を見ると、九時を過ぎている。もう図書館は閉まっている時間だ。仕方がないので、明日学校帰りに取りに行くことにして、そのまま家に向かった。

 マンションの近くに来ると、側の電灯の下に人影があることに気付いた。そして顔が見えるところまできて、それが花火だと分かるとすぐに走り出していた。

「どうしたの?」

 汗だくで肩で息をしている花火を見て、ただ事ではないと思いながら、声を掛ける。

「謙さんから連絡あって、先生と会ったって」
「……本当?」
「ああ。一温のこと話したら、明日実家に帰るらしくて……できれば今日話せれば、ってさ」

 急なことで戸惑うけれど、もうこんな機会は訪れないだろう。「分かった」と頷く。

「あんまり人の居ないとこがいいと思って、駅の反対側にある公園指定しといた!」

 僕が今更会わないとは言わないと思ったのだろう。相変わらず展開が早い。
 僕は来た道を戻り、駅の方へ花火と向かった。その間ずっと、先生に何を話せばいいか、伝えたらいいかを考える。鼓動が、次第に早くなっていった。

 十数分で公園に辿り着いた。目の前に道路が走っているものの一方通行の道で、歩道が狭く人通りは少ない。公園も滑り台とブランコ、前後に揺れる遊具だけで、こじんまりとしていた。

「俺はその辺に居るから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

処理中です...