43 / 58
番外編
番外編③ 秘められた真実⑥
しおりを挟む
花街を歩くのもさほど緊張しなくなってきた。というのも、全く客引きされることがなくなったからだ。
どうやらあらゆる店の人に僕が「ルシュディーの客」だという認識があるらしい。何となく複雑な気分だが間違ってはいないし、声を掛けられるのではとびくびくしなくて良いのは都合が良いのだけれど。ただ顔が知られているというのはなかなか気不味いし、陛下に迷惑が掛からないか心配になる。
店に着くと、いつも店先に立っている用心棒のマタルの姿が無かった。今まで居なかったことがなかったから、何か店で揉め事でもあったのだろうかと心配になる。
訝しく思いながら、戸を開けようとした瞬間だった。戸が勢いよく開き、白い塊が突然目の前に飛び出してきて、思わず一歩後退りする。
それが、初めに会った時から姿を見ていなかったが、ルシュディーの同僚のミーナーだと分かった。
「ちょっとツラ貸せ」
以前見た時は小柄で可愛らしい印象に思えたが、今は怒りを隠さず、鬼のような形相で僕を睨みつけている。
何か店に迷惑をかけるようなことをしただろうか。思い当たる節が無いが、ミーナーの後ろからついていくと、店の横道から薄暗い通りに入っていった。
と、唐突に立ち止まって振り返ったミーナーに、危うくぶつかりそうになって前がかりになる。
「あんたどういうつもりなんだよ」
「……え?」
「ルシのことだよ! 最後まで面倒見る気あんのかって聞いてんだよッ!」
何の話をしているのか分からない。目を瞬かせると、ミーナーはふわふわの白い毛に覆われた頭を苛立ったように掻き、深い溜息を吐いて何かを独りごちた。
「ルシに会うの、もうやめてくんない? あいつは俺みたいなのとは違うんだよ」
「……何の話をしているのか分からないが、僕はルシュディーに両親について調べてもらっているだけだ。そのことが終われば、僕がこの店に来る理由は無くなる」
そう、この店に来ることは──。どうしてか胸がちくりと痛んだ。
「じゃあ今日おやっさんと大姐さんから話があるだろうから、もう用はないよな?」
「話の内容次第だが……その可能性はある」
ぽんとミーナーは僕の腕を叩いて、「ルシには後でそう伝えとく」と僕の横を通り抜ける。と、咄嗟にミーナーの腕を掴んだ。どうしても腑に落ちないことがあったからだ。
「僕をルシュディーから遠ざけたいのは何でなんだ? 何か理由があるなら教えて欲しい」
小馬鹿にするような呆れ顔で僕を見た後、また溜息を吐いて僕の手を振り払った。
「俺は高級羊毛で有名なメリノのΩのくせに獣化できなくてさ。親に役立たずの烙印押されてこの娼館に売られたんだ。家には居場所がなかったけど、ここだとチヤホヤされるし、他人に触られるのも気持ちいいことも大好きだし、ぶっちゃけ天職って感じ?」
ミーナーの生い立ちは笑って話せるようなものではなかったが、彼は自分自身にとって「どうでもいいこと」だと認識しているのだろう。感情の起伏がない平坦な声で語った。
「でもあいつは俺とは違う。親がΩの娼夫で自分も同じΩだったから、娼夫になる以外無かった。身体売るのだって本当は嫌なんだ。絶対ルシはそんなこと言わないけどね」
どうやらあらゆる店の人に僕が「ルシュディーの客」だという認識があるらしい。何となく複雑な気分だが間違ってはいないし、声を掛けられるのではとびくびくしなくて良いのは都合が良いのだけれど。ただ顔が知られているというのはなかなか気不味いし、陛下に迷惑が掛からないか心配になる。
店に着くと、いつも店先に立っている用心棒のマタルの姿が無かった。今まで居なかったことがなかったから、何か店で揉め事でもあったのだろうかと心配になる。
訝しく思いながら、戸を開けようとした瞬間だった。戸が勢いよく開き、白い塊が突然目の前に飛び出してきて、思わず一歩後退りする。
それが、初めに会った時から姿を見ていなかったが、ルシュディーの同僚のミーナーだと分かった。
「ちょっとツラ貸せ」
以前見た時は小柄で可愛らしい印象に思えたが、今は怒りを隠さず、鬼のような形相で僕を睨みつけている。
何か店に迷惑をかけるようなことをしただろうか。思い当たる節が無いが、ミーナーの後ろからついていくと、店の横道から薄暗い通りに入っていった。
と、唐突に立ち止まって振り返ったミーナーに、危うくぶつかりそうになって前がかりになる。
「あんたどういうつもりなんだよ」
「……え?」
「ルシのことだよ! 最後まで面倒見る気あんのかって聞いてんだよッ!」
何の話をしているのか分からない。目を瞬かせると、ミーナーはふわふわの白い毛に覆われた頭を苛立ったように掻き、深い溜息を吐いて何かを独りごちた。
「ルシに会うの、もうやめてくんない? あいつは俺みたいなのとは違うんだよ」
「……何の話をしているのか分からないが、僕はルシュディーに両親について調べてもらっているだけだ。そのことが終われば、僕がこの店に来る理由は無くなる」
そう、この店に来ることは──。どうしてか胸がちくりと痛んだ。
「じゃあ今日おやっさんと大姐さんから話があるだろうから、もう用はないよな?」
「話の内容次第だが……その可能性はある」
ぽんとミーナーは僕の腕を叩いて、「ルシには後でそう伝えとく」と僕の横を通り抜ける。と、咄嗟にミーナーの腕を掴んだ。どうしても腑に落ちないことがあったからだ。
「僕をルシュディーから遠ざけたいのは何でなんだ? 何か理由があるなら教えて欲しい」
小馬鹿にするような呆れ顔で僕を見た後、また溜息を吐いて僕の手を振り払った。
「俺は高級羊毛で有名なメリノのΩのくせに獣化できなくてさ。親に役立たずの烙印押されてこの娼館に売られたんだ。家には居場所がなかったけど、ここだとチヤホヤされるし、他人に触られるのも気持ちいいことも大好きだし、ぶっちゃけ天職って感じ?」
ミーナーの生い立ちは笑って話せるようなものではなかったが、彼は自分自身にとって「どうでもいいこと」だと認識しているのだろう。感情の起伏がない平坦な声で語った。
「でもあいつは俺とは違う。親がΩの娼夫で自分も同じΩだったから、娼夫になる以外無かった。身体売るのだって本当は嫌なんだ。絶対ルシはそんなこと言わないけどね」
5
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる