煙の向こうに揺れる言葉

らぽしな

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エピソード1-1

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とある白昼。

目の前にはよく昔のドラマに出てくるような山積みにされた吸殻すいがらがある。
おそらくこれ以上積めないだろうというくらいで、むしろすごいと誰かに写真でも撮って送りたいくらいの状態だ。

まあ、友達もなく夫にも内緒で訪れた場所で見たこの情景を送る相手なんていないけど。

とにかく眼の前にあることでどうにも仕方なく目を奪われている。
なんせ、初めて訪れた場所だからむやみにあちこちに視線を送って値踏みしているように見えたら失礼だし。

ただ
(私はなんてこんな場違いな場所にいるんだろう。)
などと自分の足でここまで来ておいて、そんなことを佐々木千草は思っていた。

まあ、この時間帯にに夫がジェットコースターのような心境を送っているなんて、思いもしないけれど。

ここはあるビルの一室。
表通りから一つ次の通りにこのビルへと入る階段があるので、企業で働いていた頃ならともかく、普通の専業主婦が用事もなく立ち入らないような少し寂れた場所にあった。

ここの部屋の家主。
名前は、御幸 来夢みゆきらいむという人の事務所。

自分から望んでここには来たが、最初からここを目的地にしてたわけじゃない。

ほんの小一時間前に渡された名刺にあった住所を検索し最寄りの駅まで来て、交番でよく分からずに聞いてたどり着いたのがここだ。

交番にあえて寄ったのは
(まあ、なんかあって事件に巻き込まれたら、思い出してくれるかも…)
という保険も兼ねてだ。

そんなこと、忙しい警察官は多分覚えているはずがないのに。

ビルの前を何度か行き来したが、表通りと違いそんなに人の姿はないから不審がられるということも多分ないと思う。

意を決して何事もないように、中に入りとりあえず郵便受けを流し見る。
きっとこういう仕草は誰かに見られたら、不審者に見えたかもしれない。

郵便受けは、どの面にも部屋番号は貼られてはいるが、会社名とかそういうのはなかった。
空き家と思われるところは、ガムテで塞がれている。

このビルが本当に目的地か自信がないのもあり、目的の部屋の郵便受けを覗くとDMが何通か見えた。

投入口から少しはみ出るように入れてあったDMをハンカチごしに少しだけ引っ張り出す。全部引っ張り出さないのは誰かに万が一見られたとしても、探している場所を確認したくてと言い訳するためだったが、ハンカチを取り出して触っている時点で不審者だったと思うが、そんなこと気づきもしなかった。

受取人名に御幸という文字を見つけた。おそらくここで間違いないようだ。

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