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エピソード8-1
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「来週と再来週、どっちがいいのか、聞いておいてください。」
定例会議のあと自室へと戻る通路で高橋は唐突に話を振ってきた。
僕はきっとかなりの間抜けヅラで高橋の顔を見てしまった。幸か不幸か偶然二人きりになったタイミングだったから、その間抜けヅラは高橋にしか見せなくて済んだことくらいだけれど。
「え、なんのこと?」
よくわからないが、匡尋が知らないうちに家に招待されたといいだした。
しかも、よりによって森さんと二人で。
(高橋の勘違いかもしれないけどここは慎重に話をあわせておかないと、こじれたら面倒なのでは)
というよくわからない勘が働き、
「ああ、ちょっとどうだったかな…、明日までに聞いておくよ。」
とだけ言ってごまかした。
よくわからない話を総合すると、あのBBQの日僕の知らないところで、妻というか汐音というか二人と高橋たちがなんらかの約束したようだ。
あの日。
何回か二人から離れなければならないタイミングで接触があり、おそらく高橋主導で勝手に約束を取り付けたのだろう。
「しかしえらい、急じゃないか。じゅ、準備が必要だろ。」
と、牽制しながら回避策を考えつつ言葉を選ぶ。
「何の準備ですか、佐々木さんがする準備なんてたかが知れてますよ。奥さんの気が替わる前に、よろしくお願いしますよ。ね、佐々木さん。話進めておくねって、森さんに言っちゃったんで。」
結局の所、高橋の点数稼ぎなのだ。
そして、回避策なんて思いつきもしない僕は、そのことだけで頭の中が占領されてしまった。
戻った後は、案の定仕事にならなかった。その程度のチキン野郎で本当に不甲斐ない。
とは言いつつも一応それなりには、仕事としては色々と進んだのだが、出来は多分平常心の時の8割だろう。
今日は、内々の部分での資料作成がメインだから、ちょっと体調が悪かったと言い逃れられる体裁は保てるラインだ。
BBQの反省会のような仲間内での飲みに誘われていたのだが、すっかり忘れて急ぎ帰路についた。
家につく頃、そのことを思い出した。何件か留守電が入っていたが、今日は聞かずに明日、適当に謝ることにしよう。人数分で予約しているのなら、その程度の出費ならヤムを得ない。
それよりも、だ。
本当に気が重い。足取りは、今までの人生で一番重い足取りだ。そんな仕事帰りになった。
飲んで帰ると言っていた手前、早い帰りに千草は驚いていたようだが、言葉に出さずに用意していた夕食を用意してくれた。
玄関先で気がついていたが、今日はカレーのようだ。ワイシャツを汚したくないのでできるだけ外では食べないようにしている分、家で好きなカレーを食べられることが嬉しい。
いつもの僕の好きな辛みの強いカレー。
母が作るカレーとはまた少し違う、千草の作るカレーもまた旨い。
結婚したときに母と妹に言われたことがある。
絶対母親のと比べないこと。
将来子どもができたら尚更。
子ども合わせた食べ物と夫用に別々に作るのは大変なんだから、何出されても文句を言わないようにと釘をさされていた。
だから、いつしか食事の時間帯が別になったとしても、僕が一人で食べることになっても何とも思わなかったし、時に残り物で作ったのだろうというものでもなんとも思わなかった。
むしろ、感謝してもしつくせない。それなりに形のあるものを出してくれるからだ。
最近になってカレーの日だけは、3人とも同じ物を食べれるのが良かった。時間帯が違うことがあっても同じカレーを食べているという幸せ。
カレーの日がなくなったら、このテーブルに僕の居場所はなくなる気がしている。
そんな日が来ないように、残さずに僕は食べる。
おかわりもする。
その流しの向こうに、鍋が二つも用意されているなんで、思いもせずに。
その1つが、『僕』だけの鍋だとも知らずに。
定例会議のあと自室へと戻る通路で高橋は唐突に話を振ってきた。
僕はきっとかなりの間抜けヅラで高橋の顔を見てしまった。幸か不幸か偶然二人きりになったタイミングだったから、その間抜けヅラは高橋にしか見せなくて済んだことくらいだけれど。
「え、なんのこと?」
よくわからないが、匡尋が知らないうちに家に招待されたといいだした。
しかも、よりによって森さんと二人で。
(高橋の勘違いかもしれないけどここは慎重に話をあわせておかないと、こじれたら面倒なのでは)
というよくわからない勘が働き、
「ああ、ちょっとどうだったかな…、明日までに聞いておくよ。」
とだけ言ってごまかした。
よくわからない話を総合すると、あのBBQの日僕の知らないところで、妻というか汐音というか二人と高橋たちがなんらかの約束したようだ。
あの日。
何回か二人から離れなければならないタイミングで接触があり、おそらく高橋主導で勝手に約束を取り付けたのだろう。
「しかしえらい、急じゃないか。じゅ、準備が必要だろ。」
と、牽制しながら回避策を考えつつ言葉を選ぶ。
「何の準備ですか、佐々木さんがする準備なんてたかが知れてますよ。奥さんの気が替わる前に、よろしくお願いしますよ。ね、佐々木さん。話進めておくねって、森さんに言っちゃったんで。」
結局の所、高橋の点数稼ぎなのだ。
そして、回避策なんて思いつきもしない僕は、そのことだけで頭の中が占領されてしまった。
戻った後は、案の定仕事にならなかった。その程度のチキン野郎で本当に不甲斐ない。
とは言いつつも一応それなりには、仕事としては色々と進んだのだが、出来は多分平常心の時の8割だろう。
今日は、内々の部分での資料作成がメインだから、ちょっと体調が悪かったと言い逃れられる体裁は保てるラインだ。
BBQの反省会のような仲間内での飲みに誘われていたのだが、すっかり忘れて急ぎ帰路についた。
家につく頃、そのことを思い出した。何件か留守電が入っていたが、今日は聞かずに明日、適当に謝ることにしよう。人数分で予約しているのなら、その程度の出費ならヤムを得ない。
それよりも、だ。
本当に気が重い。足取りは、今までの人生で一番重い足取りだ。そんな仕事帰りになった。
飲んで帰ると言っていた手前、早い帰りに千草は驚いていたようだが、言葉に出さずに用意していた夕食を用意してくれた。
玄関先で気がついていたが、今日はカレーのようだ。ワイシャツを汚したくないのでできるだけ外では食べないようにしている分、家で好きなカレーを食べられることが嬉しい。
いつもの僕の好きな辛みの強いカレー。
母が作るカレーとはまた少し違う、千草の作るカレーもまた旨い。
結婚したときに母と妹に言われたことがある。
絶対母親のと比べないこと。
将来子どもができたら尚更。
子ども合わせた食べ物と夫用に別々に作るのは大変なんだから、何出されても文句を言わないようにと釘をさされていた。
だから、いつしか食事の時間帯が別になったとしても、僕が一人で食べることになっても何とも思わなかったし、時に残り物で作ったのだろうというものでもなんとも思わなかった。
むしろ、感謝してもしつくせない。それなりに形のあるものを出してくれるからだ。
最近になってカレーの日だけは、3人とも同じ物を食べれるのが良かった。時間帯が違うことがあっても同じカレーを食べているという幸せ。
カレーの日がなくなったら、このテーブルに僕の居場所はなくなる気がしている。
そんな日が来ないように、残さずに僕は食べる。
おかわりもする。
その流しの向こうに、鍋が二つも用意されているなんで、思いもせずに。
その1つが、『僕』だけの鍋だとも知らずに。
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