タチバナ

ルン

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 店を出た二人は今度こそ依頼所に向かった。

 ニット帽・サングラス・マスクの三点セットを装備した人間の隣を一緒に歩いていたこともあってか、途中周りから奇異の目で見られることもありながらも、なんとか依頼所まで到着した。

「中は酒場になってる。依頼を受ける気がないやつも飲みたいってだけで中には入れる。公共の場ってやつだな」

「そう」

 アズサは店に入る扉の上部に書かれた『トウサカヤ』という店名を見ながら殆ど興味なさそうに頷く。

「入るぞ」

 扉を開けるとすぐにタバコの煙と油染みの古木の匂いが立ちこめた。中では酒をあおっている男たちが数人と奥にあるカウンターでグラスを整理している男1人ぐらいしかいなかった。

「よお、ナオトか。元気だったか?」

 カウンターの中に立っていた男がナオトに気づいて声をかける。

「そこそこかな。あんたの方は………まあ、相変わらず景気の悪そうな酒場を切り盛りしているんだな」

 ナオトは辺りを少し見渡しながら言った。そこにはナオト達以外にニ人の客しかおらず閑散としていた。

「酒場ってのは夜賑わうもんなんだよ。お前が来るのがいつもその時間帯じゃないだけだ」

「はいはい」

 ナオトはてきとうに二回返事をした。

「絶対信じてないだろお前…まあ、別にいいんだけどよ。それで今日はなんのようだ。依頼か?飯か?酒か?」

「酒は飲まないっていつも言ってるだろ。ってか未成年に飲ませようとするなよな」

「はっはっは。ちっとは飲んだりしてけよ。ここなら少しくらい飲んでもバレねーぞ。んで今回はどんな依頼が御所望だ」

「んーそうだな………やっぱり楽で報酬が高額なやつがいいな」

「いや、俺もいつも言ってるが、そんな依頼があったらもうとっくに他のやつらにとられてるよ」

カウンター内の男はほとほと呆れ顔で言う。

「では、逆にどんな依頼があるのかしら」

 ずっと隣で二人の話し合いを聞いていたアズサがカウンター内の男に声をかける。

「えっとお嬢さん...だよな? その前に一つ聞きたいんだが、ナオトの仲間って言う認識でいいのか?ここは一応こんな場所でも王族様の管轄下だから見ず知らずのやつに仕事は紹介できない事になっててな………」

 アズサのその格好に多少驚きつつカウンターの男は応じる。

「仲間なんていう概念が当てはまるかどうかわからないけれど、とりあえずそんなところかしら」

「あっ、あははは、そうなんだ………」

 カウンター内の男はアズサの言葉に不信感を抱きつつも大いに苦笑いをした。

「………おいナオト! 何者なんだアイツ!」

 カウンター内の男は小さい声でナオトに耳打ちするように言った。

そしてナオトはアズサが先ほど購入した変装用の装備類の一点一点に目をやる。

「何者って、そんなの見てわかるだろ……………強盗団の一員だよ」

「えーーー!!! やっぱそうなの!? うちの店狙いに来たの!? 格好がすげーあからさますぎるから逆に違うかなーって思ってたけどやっぱ見た目通りなの!?」

 カウンター内の男の顔はえらくひきつった。

「あなたたち、聞こえているのだけれど」

 アズサはヒソヒソと話をしていたニ人に視線を当てながら言う。

「とまあ、冗談はさておき素性は訳あって話せない。とりあえず俺の仲間ってことで頼む。ライセンスは俺が持ってるから大丈夫だろ?」

 一応王族の管轄下であるこの依頼所は、依頼を受けるにあたりライセンスが必要という決まりがある。ただ、ほぼ拘束力のないルールだった。基本的にこのライセンスはライセンス取得の試験を合格できれば誰でも手に入れられるが、合格率は30%とそれほど高くない。

 そのため、一人の人間がライセンスを持っていればその仲間は同士として認められ一緒に依頼をこなすことが出来るという本末転倒のような抜け穴がある。

 ただ、もちろん依頼の報酬を受け取れるのはライセンス持ちだけではあるので、ライセンスを持っているにこしたことはない。

「なんだよ訳ありってやつか。まあ、ここに来るやつの詮索はしないっていう暗黙のルールがあるからな。それは別にいいが、大丈夫か? ここに来る依頼ってのは基本的にモンスターの討伐ばかりだ」

 チラッとアズサの方に目配せしてマスターが言う。

「知ってるよ、大丈夫だ。けど、念のため今回は報酬の額より安全性を取るかな」

「ちょっと待ちなさい。もしかして私が足手まといと言いたいのかしら」

ナオトの言葉を聞いたアズサがナオトに詰め寄る。

「言いたいんじゃない、そう言ってるんだ。負けず嫌いもいいけど今回は本当の実戦だからな。ヘタ打って――」

「ねぇ、あなたここのマスターよね? 今ある依頼の中で一番高額な報酬のものはどれかしら?」

「えーっと、お嬢さん本気で言ってんのか」

 マスターは額に冷や汗を流した。

「ええ、もちろん」

「お嬢さん、そいつはやめといた方がいいと思ーーーー」

「は・や・く・だ・し・な・さ・い」

「...はい」

 マスターはアズサのその迫力に押し負けて一つの紙を見せた。

「おい、人の話を聞けよ。っていうか、一番高額の報酬? 何言ってんだお前! それがどんな意味かわかってるのか!ってか、あんたも簡単に頷くなよ!」

「だってー、怖かったんだもんー」

「怖かったんだもんー。じゃねーよ! マスクにサングラスかけて表情わからないだろ! そんなやつに威圧されるなよ!」

「ええ、わかっているわ。一番に危険ということでしょう」

「だったら尚更だ。そんなもの俺は受けない」

「あら、自分の実力の無さに腰が引けたのかしら。でもいいわ、あなたが引き受けなくても私だけで行くわ」

「なっ!本気で言ってるのかよ!」

「ええ、本気よ」

「お前ライセンス持ってないだろ!」

「あなたが受けたことにすれば? 私はお金が欲しいわけじゃないから報酬は全てあなたに譲るわ」

 アズサのその言葉にナオトは怯んだ。アズサの言葉には嘘偽りはなく、本気で一人でも依頼をこなしそうだった。

「...依頼内容は?」

 ナオトはマスターに問いかける。

「………本当にいいのか?」

 マスターが心配そうに声をかける。

「仕方ないだろ。このままほっとく訳にもいかないし」

「なんか険悪なムードでやりづらいが、まず報酬は50万ベル」

「50万!一般的な依頼の額だとだいたい10万~20万ベルぐらいだろ。普段の倍以上じゃねーか」

「50万!随分と安い値段ね。私の家にある宝石一つの方がよっぽど高いわ」

 ナオトとアズサは同時に喋り同時に驚いた。

「な、なんか意見が分かれてるきがするんだが、とりあえずの報酬額はそうだ。けどな討伐依頼モンスターがここらじゃあんまりお目にかかれない凶暴なやつでな。マウントゴリラって知ってるか?」

「マウントゴリラ?」

「ああ。この辺に生息地はないはずなんだが、なぜか最近マウントゴリラの目撃情報が何件も上がっていて、実際に調査をしたところ、この街の近くにいるとのことがわかった」

「そいつが今回の討伐依頼か」

「ああ、そうだ。それでそいつの特徴なんだが、人型ではあるんだが、通常の人間よりも1.5倍ぐらいの体格があるらしい。そして体の表面は灰色の剛毛で覆われている」

「なるほどな。場所は?」

「『枯れ木の街道』って知ってるか?この街から西の方角にある街道で、そこの木にはなぜか葉っぱが茂らないんで、そう呼ばれてる」

「その『枯れ木の街道』ってとこに行けばいいのか?」

「ああ、その辺りがやつの出没地らしい」

「なるほど、わかった。ありがとな」

「………ナオトわかってると思うが、報酬が高額ってことはそれほど危険が伴うってことだ。くれぐれも無茶すんなよ」

「ああ、わかってるよ」

 ナオトはそう言ってその依頼を受けることを決意して席を立つ。

「あら結局受けるのかしら。さっきまで腰が抜けていた割にはずいぶん早い立ち直りね」

 アズサは悪態をつくように言う。

「ああそうだな。近くにガキみたいな駄々っ子がいたせいで、そいつのお守りをやんないといけなくなったからな」

 ナオトも負けじと反抗する。

「誰のことかよくわからないけど、それじゃ行きましょうか。腰抜け魔道士さん」

「そうだな。実戦経験ゼロの負けず嫌いやろー様」

 そう言って彼らは店を後にした。
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