イオの小さな大冒険

若涼

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にいにとイオの

イオもいっしょにいくー!

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にいにが十五の儀に行っちゃう。
そのまま帰ってこなかったらどうしよう。

「イオもいっしょにいくー!」
毎日そう言って、にいにの腕にしがみついた。

「十五の儀は兄ちゃんだけが行くんだ」
「やだ! イオも行くの!」
イオが駄々をこねるたび、にいには困った顔をしてイオをなだめた。

「……よし。じゃあ今日は、保育園を休んで二人でおでかけしよう」
出発の前の日。
にいにがそう言ってくれた。

イオはぱっと顔を上げて、両手を広げる。
「やったー! にいにとおでかけ!」

泳いで泳いで、この前にいにが印をつけた、海の外れまで行った。光が水の上から差しこんできらきらしてる。
そこにはイルカさんたちも遊びに来てた。

「わー! イルカさん!」
イオが手を振ると、イルカさんがひとり近づいてきた。
(あそぼうよ、イオ)
頭の中に声がひびいてくる。

「イオのこと知ってるの?」
(うん。海はつながってるからね。ぼくらはみんなを知ってるよ)
イルカさんがくるくるイオのまわりを泳ぐ。

「にいにがね、いなくなっちゃうの」
イオが言うと、イルカさんは泳ぎながら教えてくれた。
(だいじょうぶ。十五の儀は、ほとんどみんな一日で帰ってくるよ)

「そうなの? じゃあイオが保育園に行ってる間だけ?」
イルカさんがうなずく。
なーんだそれなら安心だね。

イオは小さく笑う。
にいにがこちらを見て首をかしげていた。
「どうした?」
「なんでもないよー!」

イルカさんとおしゃべりしてるの、にいには気づかなかったのかな。
「イオはイルカと仲良しだなー!」
そう言って、小さな背鰭をひらひらと動かした。

そのあとはにいにと二人で、お魚さんを追いかけたり、貝さんをひろったりした。

おっきいカニさんも見つけたんだよ。
カニさんのハサミに、にいにが挟まれそうになって二人で大笑いしたの。

おやつには、「今日は特別だからな」って海ぶどうを食べたんだ。
つぶつぶがぷちってはじけて、とってもおいしかった。
また食べたいなあ。

にいにとおでかけするのは、やっぱり楽しい。
この時間がずっと続けばいいのに。

でも……。
あっという間に夜はやってきた。
にいにとおふとんに入る。

イルカさんはああ言ったけど、イオはあの日見た夢を思い出して、涙がとまらなくなっちゃった。
「にいに、行かないで……」

にいにがイオをぎゅってする。
「大丈夫だよ、イオ。兄ちゃん、すぐ帰ってくるから」
「でも……」
イオはしゃくりあげながら、にいにの胸に顔をうずめた。

にいにの匂いがする。
あったかくてぽかぽかの。

その日はすっごく安心してよく眠れた。
でも、朝になったらやっぱり不安。

にいにはわくわくしてるみたいだけど……。

「サニさんにもらった食べる用の貝、まだ余ってるなー」
お昼に持っていこうって楽しそうにポッケに詰めこんでる。

イオはにいにとずっと一緒がいい。
朝ごはんのときも、保育園に向かうときも、イオはにいにに甘えた。

きっとにいには困ってる。
でも、いってほしくないんだもん。

「じゃあね、イオ。兄ちゃん、いってくるよ」
「やだやだ! だってにいに、あの『えっへんの人』に会いに行くんでしょ?こわーいお顔だったよ?」

イオが図鑑を思い出して言うと、にいには少し笑ってうなずいた。
「なるほど、王様は『えっへんの人』か。大丈夫だよ、兄ちゃんは強いからな」

門の前でにいにを引き止めてたら、先生がやってきた。「お預かりしますね」ってイオをにいにから引きはがす。

イオは涙目のまま、「バイバーイ」って手をふるにいにを見送った。

園庭に入ると、にやにやのラノくんがいた。
「イオの兄ちゃんも今日なんかよ」
「えっ……ラノくんのお兄ちゃんも?」

「そうだよ。兄ちゃんはきっと"えいゆう"になって帰ってくるんだ! 王様に選ばれて、競争で勝つんだぞ」
ラノくんは、自分のことのように胸を張って言う。

「そもそもイオの兄ちゃんってちゃんとたどり着けるのかよ。トンネルって大変らしいぜ? 暗くて、冷たくて、ながーい道を出口までずっと泳がなきゃなんねえんだ」

イオは胸がどきんとした。
トンネル……ってそんなに大変なの?
「にいに、大丈夫かな……」

ラノくんは得意げに言った。
「俺の兄ちゃんはぜってえ大丈夫だけど、イオの兄ちゃんはどうだかな? 最近は、帰ってこない人もいるみたいだぜ」

「にいにはすごいもん!」
イオは言い返したけど、心の中はざわざわしてる。

にいには帰ってくる……よね?

先生が、お部屋の中に入りましょうってみんなに言った。
イオはやっぱり落ち着かない。

にいにが遠くに行っちゃう。
今ならまだにいにに追いつけるかも……。

でも先生に見つかったら、きっとダメだよね。
先生はお部屋の入口の前に立って、みんなを数えてる。

行くなら……今しかない。

どきどきで心臓がはじけちゃいそう。
門のほうに一歩踏み出す。
「兄ちゃんは……って。おい、イオ?」

ラノくんのお話は、どきどきでなんにも聞こえてなかった。ごめんね、ラノくん。

イオは砂を蹴ると、一生懸命門の外に向かって泳ぎ出す。

先生に見つかっちゃうかな。
怒られちゃうかな。
不安だったけど、イオはちょっとだけ自信があった。

この前、先生に勝ったんだもん。
きっと大丈夫。

門のワカメさんをかきわける。
潮の匂いがいつもとちょっと違う気がした。

待っててね、にいに。
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