イオの小さな大冒険

若涼

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バサバサとイオの

にいに、みーっけ!

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その声を聞いた瞬間、イオの胸がぎゅうって締めつけられる。
やさしくて、安心感のある声——

「に、にいにっ!」

気づけばイオは走り出していた。
たくさんの人のあいだをすり抜けて、にいにの声がしたほうへまっすぐ。

バサバサの「おい、待て!」って声が後ろで聞こえたけど、イオはもう止まれなかった。

ひじで、腕で、全身を使ってぐいぐい進む。
「イオっ!」
視界の先に、同じように群衆をかき分けてこっちへ向かうにいにが見えた。

その姿が見えた瞬間、イオは熱いものがこみ上げる。嬉しさで胸がいっぱい。
目の前が涙でゆらゆらと揺れた。

「にいにーっ!」

叫ぶようにして、イオはその胸に飛びこむ。
にいにがしっかりと抱きとめてくれた。

潮のにおいにまじって、ふわっとにいにのにおいがする。
あったかくてぽかぽかの、あのにおい。

「イオ……ほんとに、イオなのか……?」
にいにの声が震えてる。
イオは大きくうなずいた。

「うんっ……にいに、みーっけ!!」

顔をくしゃくしゃにしてイオは泣き笑う。
にいにが頭をそっと撫でてくれた。
その手はやっぱりあったかくて、すごく落ち着く。

「イオ、どうしてこんなところに——」
「おいガキ! 急に走んなっていつも言ってんだろ?」

にいにの言葉を遮るように、バサバサが後ろから声をかけてきた。頭をかきながら「やれやれ」って言ってる。

そっかあ。イオ、またバサバサを置いてけぼりにしちゃったんだ。
ごめんねって謝ろうとしたら、にいにの大きな声が響く。

「なっ……なんなんだ、お前は!」

にいにがバサバサを見て、こわい顔してる。
「オーケー、オーケー。いったん落ち着けって。なっ? にいにっ」
バサバサはいつもの調子で、ひらひらと手を振り笑った。

にいにが眉のあいだにしわを寄せてる。
どうしよう、このままじゃにいにとバサバサがケンカしちゃう……!

ええっと、バサバサのすごいところをにいににアピールしなきゃ。
「バサバサはね、イオを守ってくれるのー!」
胸を張り、イオはにいににそう伝える。

だけどにいには、目をまんまるにして一瞬イオを見ると、またバサバサに怖い顔を向けた。

あれえ、どうしてだろ。
イオはほっぺをふくらませる。
「バサバサは悪い人じゃないよう」

そう言った時、周りの人たちのざわざわがイオの耳に届く。
気づけばたくさんの人がイオたちを見てるみたい。
ざわざわはどんどん広がっていく。

「でも——」
にいにがなにか言いかける。
その時、にいにの後ろから凛とした声が響いた。

「おい、カイ。目立ちすぎではないか」
にいにを呼びかけたその人は、帽子と仮面をつけている。

帽子の下には金色の髪が見え、仮面からのぞく目は吸い込まれそうな青色——。

だれだろう。イオは見たことないけど、にいにのお友達なのかな?

「場所を変えよう、このままでは追っ手がきてもおかしくはない」
その人の提案で、イオたちは逃げるようにその場を離れる。

にいに、やっぱり何か大変なことに巻き込まれてるの?
おうちに帰ってこなかったのはそれのせい?

聞きたいことはたくさんあるけど、とにかくイオはにいにに手を引かれるまま走った。

前を行くバサバサが後ろを振り返る。
「おい、よかったな。兄貴が見つかってよ」

イオは笑顔で答えた。
「バサバサのおかげだよー!」

ありがとねって言ったら、バサバサは「まあ、ただの暇つぶしだがな」っていつもみたいに笑った。

にいには、またむずかしい顔をしてる。
だけど、イオはそれが照れ隠しだって知ってるよ、バサバサ。
だってとってもやさしい声だもん。

人の声も、太陽さんの光も、全部が遠ざかっていく。
だけどにいにのあったかい手は、イオをしっかり包み込んで離さなかった。

「ねえ、にいに!」
走りながら、イオは叫ぶ。
「イオ、すごいでしょ! にいにを見つけられたんだよ!」

にいにはイオを見るとほほえんでくれた。
「……ああ。イオは強い子だ」

風が二人の間を抜けていく。
イオの胸の中に、言葉にならないあたたかさが広がっていった。

潮のにおいが、ふっと香る。
あの海の底のような優しい世界に戻る道が、どこかに続いている気がした。

にいにと二人で過ごしたあの日々に戻る道。
だけどそれは今じゃないみたい。

——やっと会えたにいにと、バサバサ、そして仮面の人。

その間を抜ける風にのって、どこからか歌が聞こえた気がした。
ママが歌ってくれた子守唄のような、やさしい響き。

それはイオがまだ知らない、物語のはじまりを告げる歌。
イオたちの大冒険が始まる合図だった。


『イオの小さな大冒険』 —完—



イオの冒険を最後まで見守っていただき、ありがとうございました。
少しでもあなたの心に残る旅路になっていたら嬉しいです。

感想や応援の言葉をいただけたら、泣いて喜びますのでぜひ(´ー`)
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