砂糖とスパイスと素敵な何かで作られた夫婦

ひづき

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砂糖とスパイスと素敵な何かで作られた夫婦

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 商家に生まれたバーバラは16歳の時、5歳年上のクラウスと結婚させられた・・・・・。バーバラの父は貴族の伝手を欲しており、貴族であるクラウスの実家は資金援助が欲しかった。よくある利害の一致であり、このご時世珍しくもない。

 軍人で体格も良いクラウスは必要以上にバーバラに触れようとはしない。子作りも作業に過ぎない。大きいだけの、つまらない男というのが結婚一年目の正直な感想である。



 バーバラは娘を産んだ。義両親には男児じゃないのかと口煩く言われたが、クラウスは何も言わなかった。

 何も言わないが、無言でフリル、レース、リボンが大量に使われている子供服を大量に買ってきたので、どうやら喜んでいる、らしい。分かりにくい男というのが結婚二年目の正直な感想である。



 一応貴族なので乳母がいるが、バーバラは自身の手で子供を育てたかった。自身がそうやって育てられたからかもしれない。

 子育ては乳母に任せて早く男児を産めと義両親の圧力が凄い。その挙げ句、娘に向かって要らなかっただの何だのと聞くに耐えない暴言を吐かれ、これは流石にない!とバーバラはブチ切れそうになったが…、それより先に夫のクラウスが無言でティーカップを床に投げつけた。バーバラは驚いて泣く娘を抱き上げてあやす。そんなバーバラは娘ごと夫に抱き上げられ、目を白黒させた。

 そのまま義実家から連れ出され、そのまま新居とやらに案内された。新居はどこを見ても少女趣味だった。全体的にパステルカラーで、レースがたっぷり使われている。小花柄の壁紙、クリーム色の家具。一体いつから準備していた新居なのか。準備が良過ぎるだろうと呆れるほど可愛い家具が揃っていた。

 結婚三年目にしてバーバラは夫に興味を持った。



「是非娘とお揃いでこの服を着て欲しい」

 そう言って夫が差し出してきたドレスは、やはりフリルとレースがたっぷり使われており、絵に描いたように超絶可愛いドレスだ。自分では絶対に選ばない。すぐに汚しそうで怖い。娘の分はリボンが多めだ。

「あなた、可愛い物がお好きなんですね」

 その強面で、とは流石に言わなかった。バーバラの指摘にクラウスは目を逸らし、頬を紅潮させる。何かを言おうと口を開き、声を出せないまま、両手で真っ赤な顔を覆い隠して蹲ってしまった。

 ───強面なのに。

 ───熊のような外見なのに。

 バーバラの心臓はきゅうううんっと締め付けられた。

 ─────か、かわいい!!!!!

 結婚四年目にしてバーバラは恋に落ちた。



「貴方に着て欲しいの」

 結婚五年目。バーバラは手作りのプレゼントを夫に差し出す。

 夫は箱から取り出したそれを、恐る恐る慎重に取り出し、凝視したまま固まった。その顔がじわじわ赤く染まるのを、バーバラは幸せな気持ちで眺めていた。



 □ □ □ □ □



 幼い頃からクラウスはリボンが好きだった。その裾がひらひらと風に揺れる様にときめいた。

 好きな物を聞かれ、素直に答えたら、父に殴られた。軟弱だと否定された。

 リボン、フリル、レース、ぬいぐるみ、小花柄、パステルカラー…。抑圧されると尚更可愛い物への憧れは加速していき、密かに買い集め、密かに別邸を購入して、コツコツと理想の家を作り上げていた。



 親から婚姻を命じられ、クラウスはバーバラと出会った。バーバラは、小柄で、可愛らしい容貌の、大きな双眸が特徴的な女性だった。

 バーバラと生活を始めてすぐ、クラウスは嫉妬を覚えた。自分がバーバラのような容姿だったなら、思う存分可愛い物を身に着けるだろう。周囲から否定されることなく、自由に可愛い物を身につける権利があるのに、バーバラは飾り気のないデザインを好む。つまらない女だというのが結婚一年目の感想だ。



 娘が産まれた。娘である。小さくて、潰しそうで怖い。怖くて触れない。ふにゃふにゃだ。ころころ表情を変え、クラウスの指を掴み、キャッキャと笑う赤子。そんな赤子を優しく微笑んで見つめるバーバラ。

 こんなにも可愛いもの、美しいものがこの世にあったのか!

 クラウスは雷に打たれるような衝撃を覚えた。仕事中も妻と娘のことばかり考え、ついつい大量の可愛い衣類や玩具を買い込んでしまう。秘密の別邸にも相変わらず好きな物を詰め込んでいたけれど、次第にその家に妻と娘がいる様を夢想するようになった。現実にはならないだろうと落ち込んだ。これが結婚二年目のことである。



「跡取りを産めないクズ嫁が」

 珍しく仕事が早く終わり帰宅したクラウスの耳に届いたのは母の汚い言葉だった。ソファに座る両親の前に、バーバラは立たされている。傍らにある乳母車に娘はいるようだ。いつかの悪夢を思い出させる光景に目眩を覚えつつ、無言で入室するが、母の罵倒は止まらない。父も同意するように頷いている。ローテーブルにあるティーカップは二人分だけ。バーバラの分はないらしい。

 クラウスに気づいた3人の視線が向けられる。

「おい、帰宅の挨拶もないのか」

 父が苦言を呈する。クラウスはそんな父を見下ろす。いくらソファに座っているとはいえ、父が酷く小さく見えた。幼少期はもっと大きくて、厳つくて、絶対的な壁のように思えたものだが、不思議なものである。

 ───そうだ、もう、大きな壁ではない。

 メイドがクラウスの分のティーカップをお盆に乗せて傍らに控えた。クラウスがソファに腰掛けるのを待っているのだろう。クラウスはちょうどいいとばかりにお盆に乗っているティーカップを奪い取り、床へと投げつけた。

 娘が泣き出す。バーバラが慌てて娘を抱きかかえた。ちょうどいいとばかりにクラウスは2人をそのまま抱え上げた。

 理想の家に、可愛い妻と娘。使っていた乳母車を実家に置いてきてしまったが、デザインもサイズも気に入らなかったのでちょうどいい。使うことはないだろうと思っていたフリルたっぷりの乳母車を差し出した。バーバラは目を丸くしていたが、戸惑いつつ、そこに娘を寝かせる。

 ───うむ、可愛い。

 叶うはずがないと思い込んでいた理想が叶ったことに感動した結婚三年目である。



「可愛い物が好きなんですね」

 妻の言葉に、肝が冷えた。また否定されるのだろうか。彼女に否定され、軽蔑されるのは怖い。

 が。

 バーバラは、おかしそうに笑ったのだ。冷たい目ではなく。笑っている。

 その瞬間、クラウスは、顔に熱が上るのを止められず。羞恥と動悸で耐え切れず。両手で顔を覆って蹲った。

 結婚四年目にしてクラウスは恋に落ちた。



 結婚五年目。

 妻がプレゼントだと華奢な箱を差し出した。黒の滑らかな布地で包まれ、ピンクのレースリボンが結ばれた箱である。夫婦の寝室で、夜に差し出すというシチュエーションが、その箱の可愛らしさを淫靡なものにする。

 目で問うが、妻は朗らかに微笑むだけ。クラウスは諦めてリボンを解き始めた。ドキドキして、緊張で手が震える。初めて戦場に立った時より、未亡人の手解きで童貞を卒業した時よりも心臓がうるさい。

 中に入っていたのは、ピンクのサテン生地に、ピンクのフリルと赤いレース、赤いリボンのついた華奢な下着だった。ただの下着ではない。ブラジャーとショーツだ。しかも布の面積が少なく、何も隠せそうにない。

「可愛いでしょう?貴方の為に作ったのよ」

 妻の言葉にクラウスは口を戦慄かせる。バカな、と。その言葉は声にならなかった。デザインだけみれば女性物だが、明らかにサイズが異常なのだ。

「愛しているわ、私の可愛いひと。もっと可愛い貴方を私に見せて」

 可愛いリボンを身に着けて見たかった。フリルたっぷりのスカートを着てくるくる回ってみたかった。クラウスの心の中で泣いていた子供が驚いている。内側から突き動かされるまま、クラウスは小さく頷いた。



 鍛え上げた胸筋が寄せあげられ、レースの縁から柔らかな乳房を覗かせている。ブラジャーというよりナイトドレスに近かったようで、下側のワイヤーからは繊細なレース編みのドレープが垂れ下がり、クラウスの腹筋を覆い隠す。下は不格好な陰茎が収まりきれず、三角の当て布からはみ出してしまう。

 恥ずかしさから、クラウスはハーハーと浅い呼吸を繰り返し、必死に両腕で胸と股間を隠していた。隠したところで隠しきれない欲望が生温い匂いを漂わせている。たかが下着に着替えただけなのに、もう陰茎が硬く張り詰めて先端からだらだらとはしたない液が止まらない。

 バーバラはうっとりと目を細めて笑う。

「泣いちゃったの?まだダメよ。お洒落は我慢なんだから」

 淡いブルーのマニキュアが塗られた爪が、バーバラの指が、包装に使われていたレースリボンを手に取る。どうするのかとクラウスが緊張していると、バーバラが手招きした。

「可愛い可愛い、私の子猫ちゃん」

 こんなに大きくて、筋肉隆々とした男が可愛いはずない。子猫に喩えられるはずがない。そう思うのに、良い子だと褒められたくて、素直にベッドに乗り上げ、バーバラの前に腰を下ろした。バーバラの手にあるリボンがしゅるりとクラウスの敏感な部分を撫でる。

「…んッ」

「我慢しないでいいのよ。貴方の声は私だけのものなんだから。───でも、こっちはまだダメ」

 陰茎の根本にリボンが巻き付けられる。吐き出せない痛みに顔を歪めるが、最終的にリボンが可愛らしく結ばれてしまうと、クラウスは何も言えなかった。まるで自分が彼女の為のプレゼントになったようだと、熱い息を吐き出す。

 バーバラの手は迷い無く、クラウスの胸を揉み始めた。そこだけ見れば本当に自身が巨乳の女性になったようでぞわぞわした。

「ひっあああああッ」

 何か、クラウスの知らない、強烈な電撃のようなものが全身を駆け巡り、その衝撃に甲高い声を上げ、イヤイヤと首を振る。全身を暴れさせることは出来なかった、まるで魔法にかかったかのように、非力な女の子にそんなことは出来ないとでもいうかのように動けなかった。

「あら。ふふ、脳イキしちゃった?」

「?、???」

 バーバラが羽織っていたナイトガウンを床に放る。バーバラは、黒と赤を主体とした、色違いの、同じベビードールを身に着けていた。視線に気づいた彼女は笑う。

「お揃い。可愛いでしょ?」

 クラウスは歓喜から頬を緩める。

「かわいい」

 バーバラの手が、トン、と押すので。されるがままクラウスは仰向けに倒れた。

「あら、嬉しい。お礼に、何もかも考えられないくらいイカせてあげる」

 バーバラのショーツはクラウスのものとは異なり、ショーツの布地に切れ目が入っていた。指で広げた陰部に、根本を戒められたままの男根が咥えられていく。

「ああ、あ゙あ゙あぁーッ」



 □ □ □ □ □



 バーバラは可愛い可愛い夫との間に、2人目の子供を身篭った。

 夫婦生活は順調で、バーバラが密かに始めた男性用の可憐な下着の店の経営も驚くほど上手く行っている。最近義両親から金の無心が煩かったが、怒ったクラウスが絶縁状を叩きつけたらしい。まだ少し揉めそうだが、放っておいても問題ないだろう。

「貴方、そこ、違うわ」

「ん、んん?難しいな」

 今は夫にレース編みを教えているところだ。太い指でちまちまと格闘する様に、バーバラは笑う。娘の方がレース編みの上達が早いのも笑ってしまう理由だ。

 クラウスと結婚させてくれた両親に、バーバラは初めて感謝した。



[完]
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