クズくずクズ

ひづき

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 ─────

 ───────

「─────────ん…、」

 口を塞がれる。薄い舌が口腔内を這い回る。寝惚けた頭で、マヒロは珍しいと思った。クズ野郎はキスが嫌いだと言って、滅多にしてくれなかったから。結局都合の良い財布としか、あるいは穴としか思われてなかったのだと思うと涙が滲む。

 マヒロはクズ野郎と出会うまで誰かと親密な付き合いというものをしたことがなかった。昔、父親だと思っていた人間に拒絶されたこと、母親が突然帰宅しなくなったこと、肝試しで親友だと思っていた奴に騙され置き去りにされたこと、祖父母に先立たれたことなどを思い出し、他人と深い関係になるのが怖くて、いつも逃げ回っていた。心を許したら最後、相手はいなくなる。力づくでマヒロの心に踏み込んでおきながら、結局彼もマヒロを捨てた。

 もう、傷付きたくない。

 マヒロは恐怖心から、這い回る舌に歯を立てた。痛みに驚いた相手が息を呑む。しかし唇は離れない。マヒロが押し返しても相手は動かない。眠気の中で必死に抵抗していると、顎を掴まれた。口を閉じるのは許さないとばかりに固定され、じゅるじゅると唾液を流し込まれる。その生ぬるさが気持ち悪くて呻くけれど、飲めとばかりに顎を掴む力が強まるばかり。あまりの息苦しさに諦めてマヒロは粘度のある液体を嚥下する。

「いい子ですね、先輩」

 聞き覚えのある声にようやく意識が浮上した。

「カツト…」

「はい」

 人懐っこい笑顔を見せる後輩に殺意が芽ばえる。だが今はそれよりも、何故自分が全裸で、やたら大きなベッドに転がされているのかの方が問題だ。

「何の、冗談だ?」

 今日はエイプリルフールでもなければ、ハロウィンでもない。

「僕は本気です。学生の頃から先輩のことが好きでした」

「これは、犯罪だ」

 後輩に確りと現実を突きつけてやらなくては。そんな先輩としての矜持すら可愛いとばかりに目を細めてくる後輩が、まるで知らない人物のようで怖い。野獣のように四つん這いで覆いかぶさり、マヒロを支配下に置いて、可愛いはずの後輩が雄の顔で舐めずりする。

「最終的に先輩が同意してくれれば問題ありません。───あの頃は子供だったし、踏み込もうとすると先輩が怯えを見せるから何も出来なかった。大人になって、チャンスが来て、必死に先輩を手元に留めたのに…!」

 ぽた、と、水滴が降ってきてマヒロは目を丸くする。

「これから篭絡しようってところでクズ野郎に先を越されて、どれだけ悔しかったか!!先輩も先輩で、結局裏切られて捨てられて!!どうして貴方は幸せになってくれないんですか!!」

「……………」

 なんでコイツは泣いてるんだろうか。呆然とする頭はどこか他人事のように考える。

「もう、いいです。少しづつ距離を詰めてとか、色々考えてましたけど、抵抗できないようにして一気に飛び込めば、先輩は失うのが怖くなって受け入れちゃうんですもんね?」

 ───例えそこに愛がなくても。

 そう呟く言葉でマヒロは後ろめたさに視線を逸らす。確かに、クズ彼氏とは付き合っていたが愛はなかったかもしれない。それでも情はあった。唐突に得た温もりを、誰かが傍にいる安心感を手放したくなくて、依存して尽くしてきた。

「安心して下さい。僕は先輩を愛していますから」





「や、いやだ、そんなとこ、くわえ───」

 イヤイヤと頭を振り乱し、後輩の頭を引きはなそうとする。ぎゅるぎゅると喉元で締め付けられると、あまりの快楽の強さにビクビク身体が跳ねるばかりで拒む手に力が入らない。ここぞとばかりに吸い上げられ、抵抗虚しく足先をピンと張ったままマヒロは後輩の口の中に射精した。ようやく離れたと安堵した途端に、足指を吊り、痛みに呻く。それも後輩が口の中のものを嚥下したせいで忘れてしまった。

「おま、吐き出しなさい!!ぺっ、ほら、ぺって!」

 後輩は腕で口元を拭う。

「ご馳走様でした」

「ば、ばか!ほんと、ばか!」

 顔を真っ赤にして怒るマヒロは最早涙目である。

「瞬殺でしたねぇ、先輩。あんまりフェラされたことないんですか?」

「生まれて初めてだよ!!」

 今まで一度もされたことはない。マヒロが生まれて初めて付き合ったクズ野郎は、他人のを咥えるなんて生理的に無理という男だった。その癖、マヒロには咥えることを繰り返し要求してきていた。

 未だこの状況が夢なのではないかと疑っているマヒロは、隠すことでもないと素直にその旨を伝えた。後輩の顔が引き攣る。これで嫌気がさしたなら逃げられるだろうとマヒロは後輩の顔色を伺った。

「わかりました。何年かかっても先輩が奴からの教えを忘れるまで、絶対フェラはさせません。先輩が自ら咥えてって僕にお強請りするようになるまで頑張ります」

「お前、相当拗らせてるなぁ…」

 他人事のようにマヒロは呟いた。その温度差に苛立ったように、後輩の手がマヒロの脚を再び大きく左右に開かせる。ずっと脚の間にいる後輩の身体が邪魔で脚を閉じられない。恥じらいも何も、最早今更だとマヒロは開き直る。

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