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「んんんんんんんんッ」

「野郎の身体なんて想像しただけで萎えるのに、ホント、何でだろうなぁ…」

 昂る自身の陰茎を、スリスリとユキの臀部に、股に擦り付ける。それだけで興奮して果てそう───なんて、アキラ自身信じられない。

「あきらぁ」

 縋るように、甘えるように、肩越しに振り向いたユキは、涙で滲む目をアキラへと向けた。その目に引き寄せられたアキラはユキの目尻にキスを落とす。不意に、ユキの白い手が縋るタイル張りの壁が気に食わなく思えたアキラは何度目かの舌打ちをして、ユキの身体を反転させた。向かい合う形で抱き締めるついでにユキの両手を自身の肩へしがみつくように導いて、アキラは満足気に微笑んだ。

「ゆき、かわいい。食べちゃいたい」

「ひゃうッ」

 舌で乳首を転がされ、その強い刺激に驚いたユキはアキラの肩を掴む腕を真っ直ぐに伸ばして目の前の身体を引き離そうとする。散々愛でられたユキの身体には抵抗するだけの力なんて残っておらず、結局しがみつくしかないのだけれど。





 学生時代の夢を見た。

 ユキの視線は常にアキラを追っていた。

 アキラの視線は常にユキを探していた。

 対極にいる存在が気になって。理由としてはそれだけだ。クラスも委員会も家の方向も違う。接点などない。互いにただ見ていただけだ。互いに見ていたものだから、よく目が合った。その度にお互い、素知らぬフリをした。

 卒業してからも、新しい環境の中で互いを探していた。居るはずの無い相手を。過ぎ去る車窓の風景に、横断歩道の人混みに。ただ一度キスしただけの相手で、連絡先すら知らない。あれは一時の夢だったと、忘れようと努めた。



 アキラは気づくと、ユキに似合うであろう服ばかりデザインしていた。合コンに行っても、仕事の取引相手でも、相手が男でも女でも、ユキに似ているところが少しでもないかを探していたらしい。無意識だったが振り返ると、歴代の彼女は全員、ユキと同じく、黒髪が綺麗で、眼鏡で、眼鏡を外すと泣きボクロがあった。我ながら最低だと思う。

 ユキは街中でアキラがモデルになっているポスターや雑誌を見る度に眉を顰めた。同僚にアキラのことを生理的に嫌っていると誤解されるほど、険しい表情をしていた。意識しないように努力しても、つい目に入ってしまう。彼を見つけ出す専用のセンサーが自身についているような気がして、毎日うんざりしていた。女性とお付き合いをしても、最初は楽しいのだが次第に相手がアキラでないことに違和感を覚えて別れた。我ながら最低だと思う。



 育たなかった苦い恋はもう忘れて、全く新しい恋をしたい。

 その一心で占いというフレーズに手を出したのは両者共に同じ。

「……………おはよう、アキラ」

「……………お、おう。おはよう」

 男同士のやり方なんて知らないし、慌ててネット検索しても一朝一夕にはどうにもならないことがわかり、ひたすら抜き合う───否、8割アキラが一方的にユキを愛でて、最後の最後に抜き合った。そして迎えた朝の気まずさは言葉にならない。全部酒のせいにしたい。アキラは酒に強い方なのに昨晩は異常なほど酔いが早かった。ユキは普段一滴もアルコールを口にしないのに、昨晩は衝動的に一気飲みして目を回した。───お互い、どうかしていた。

 距離を置きたい。

 冷静になりたい。

「取り敢えず…、服を着よう」

「いや、うん、あのな、着れるような状態じゃないから待ってろ」

 全裸のままベッドを抜け出したアキラの後ろ姿を思いがけず見てしまったユキは、平常心という単語を呪文のように繰り返す。俯いていると、自身の身体に散らばった鬱血が目に入って顔を真っ赤にした。

「ほら、やる」

 新品の下着を含めた一式を投げ渡されたユキは、顔を上げることなく袖を通す。そして今更ながら、自分のいる場所はホテルなどではなくアキラの自宅なのだと気づいた。

 服を身につけて一息をついたユキが顔を上げると、何故か未だに半裸のアキラが顔を両手で覆い隠して悶絶している。

「アキラ?」

「やば、鼻血出そう。かわいい。Vネックから覗く鎖骨えろい」

 変態がいる───ユキは真顔で掛け布団を引き寄せて頭から被り、枕をアキラに向けて投げつけ───、残念ながらアキラに届かず枕は床に転がった。それもこれも、アキラが退いたせい。ユキはアキラを睨みつけた。

「怒るぞ」

「投げてから言うことじゃなくね?───まぁ、いいけど」

「…避けやがって」

「そりゃ避けるでしょ。あー、かわいい。もう、何で俺、常識なんてものに縛られてたんだろう。好きだわ。めちゃくちゃ好き。気づいてる?あんまりにもユキが可愛いから勃起が収まらないんだけど」 

 アキラはユキを掛け布団ごと抱き締める。ユキはぎゅっと身を固くして息を潜めつつ、ついつい視線を泳がせた。

「あ、朝勃ちだろ?生理現象だろ?」

「その服さぁ、俺がユキの為にデザインして作った一点物だけなの。もちろん下着もね。もう、興奮する。俺のためのユキって感じがしてヤバい。あ、精液でデロデロになったスーツは俺が責任持ってクリーニングしておくね!」

 自ら墓穴を掘ったらしいと気づいたユキが慌てて服を脱ごうとする。その隙をついてアキラの手もまた裾の下からユキの肌を撫でた。

「あき…ッ」

「休みなんでしょ?もう開き直ってイチャイチャしようよ。ユキも俺の事好きでしょ?」

「お、俺もお前も男───」

「まだそんなこと言ってるの?」

 獰猛な光がアキラの目に浮かぶ。

「俺はもう観念したよ。ユキも諦めて」


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