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しおりを挟む「諦めたら何かが終わる気がする!」
「いやいや、散々喘いでたくせに何を今更。もう観念しなよー」
一週間後には、お詫びという名目でアキラからスーツ一式がユキの元に届いた。サイズなんて測られた覚えは無いのに、ピッタリ過ぎて怖かった。貰ってばかりというのも気が引けたが、どうしていいかわからないユキは狼狽えるばかり。
一ヶ月後、アキラが風邪で寝込んでいるとユキが看病しに来た。風邪を移したら申し訳ないと抵抗を試みるも、寝ていろと静かに圧力の篭った目で睨まれ、アキラは断念した。その上、冷蔵庫が空であることをユキに叱られた。
半年後、ユキがアキラの食生活を気にして、作り置きの食品を置いていくことが当たり前になった。
「なんか、単身赴任中の夫の気分なんだけど」
食器洗いなどロクにしたことのないアキラは最初こそ油汚れが云々ユキに怒られたが、今ではようやく信頼して任せて貰えるようになった。
ノートパソコンに向かって手を動かしているユキは、画面から目を離さず、口元に笑みを浮かべる。
「へぇ…、世話を焼いてくれる女性が見つかったのか、良かったな」
ユキにしてみれば冗談のつもりだった。アキラにとっては笑えない冗談だった。
アキラはカツカツとユキに歩み寄ると、ユキの腕をひねり揚げた。痛みと驚きに、ユキが息を呑む。ユキの面白みのない眼鏡越しに戸惑いを見て、アキラは舌打ちする。
「来い」
ベッドへと身体を突き飛ばされたユキは、以前の行為を思い出して顔を羞恥に染めた。一人用にしては大きいセミダブルのベッド。アキラは寝相が悪くてシングルベッドだと落ちるのだと言っていた。そのベッドの持ち主は、ユキの前に立ちはだかっている。腕組みをして、ユキを睥睨している。
「脱げよ」
ユキが今着ている私服も、アキラがデザインして作ったもの、ユキのためだけの服だ。元々服装に頓着しないユキは自身の服を選ぶのも億劫で、貰えるのは都合が良かった。そのお返しのつもりで、ユキは作り置きのお惣菜を提供していたのだが。
アキラは自身の作った服をユキに着せておきたくないくらい怒っているのだろうか。そう思い至ったユキは、震える手で自身の身体を抱き締める。
「い、嫌だ」
「………あっそ」
これから何が行われるのかをユキはわかっていて拒絶しているのだと、アキラは解釈した。アキラばかりが一方的に渇望しているようで忌々しい。手早くトップスを脱ぎ捨て、ユキに覆い被さると、顔を背けようとするユキの顎を掴んで無理やり唇を奪う。口を開くのを拒むので、顎を掴む手に力を入れ、アキラはユキを脅した。おずおずと開かれた口へ舌を潜り込ませ、ユキの口腔内を舐め回す。アキラがユキの身体で触れていない場所など、1ミリ足りとも許せないとばかりに、歯列を舐め、舌を撫で回し、貪る。
「ふ、んんんんんッ」
「……………はぁ」
アキラが唇を離すと、ユキはぐったりとしていた。唾液を口端から垂れ流し、虚ろな目でアキラを見ている。
あと触れていない場所はどこだろう、アキラは迷わずにユキの下半身の衣類を剥ぎ取った。まるでそこにしか用がないかのように上半身は服を着たまま触れられないことにユキは屈辱を覚えて唇を噛み締める。とはいえ、最初に脱ぐことを拒否したのはユキなので何も言えなかった。
キスだけで頭を擡げたユキの陰茎には触れず、ユキの身体を反転させ、目的の臀部へとアキラは手を伸ばした。孔へと指を差し入れ、違和感にアキラは目を見開く。
「前より、柔らかくなってない?てか、なんか、ぬるってするんだけど…」
あの、占いによる再会以降、アキラとユキは性的な接触をしていない。それなのに、何故、まさか───と、アキラは血の気が引くのを覚えた。
「じ、自分で、その、色々特訓したんだよ。───いつアキラがその気になってもいいように、最近は会う度に、ローション、仕込んである…」
「……………」
背中を震わせながら、アキラにとって青天の霹靂としか表現出来ない告白をユキは絞り出した。アキラが何も言わないので、引かれただろうかと怖くなり、恐る恐る振り返ると、アキラは両目からボロボロと涙を零していた。これにはユキも驚いて飛び起きる。
「あ、アキラ?どうした?俺が気持ち悪いか?」
「いや、嬉しい。別に挿入出来なくても、ユキの気持ちが俺にあればいいって思ってたけど、そこまで覚悟してくれてたのが嬉しい」
俺ばかりが好きなのかと思っていた、そんな呟きを拾って、ユキは嘆息する。
「アキラ………」
「てか、そんなエロい状態で、あんなストイックに仕事してたの!?やば…、滾る!!」
「うるさいな!俺だって色々いっぱいいっぱいなんだ!騒ぐな!その…、お前なかなか手を出して来ないし、俺から…なんて言っていいかもわからなくて、ずっと悶々としてたんだ。そのせいで素っ気ない態度しかとれなくて、その、悪かった」
謝りつつ、ちらりとアキラを見遣ると、アキラは涙を流しながら合掌していた。
「やめろ、拝むな」
「いやぁもう、なんか、尊くて、つい」
「……………」
「……………その、改めて、付き合って、下さい」
「あ、はい。その…、お願いします」
いつの間にか二人で正座して向き合い、深々とお辞儀をし合う。改めて気恥ずかしくなり、二人揃って身悶えた。
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