召喚したのは『男体 Ω(オメガ)』の幽霊でした

ひづき

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 俺の人生、ここまでか………。



 そう悟りを開き、アルクは目を閉じる。指先ひとつ動かせない。

 冒険者としてダンジョンや盗賊を相手にする危険な仕事をしてきたため、いつだって死は身近にあった。それでも、俺なら大丈夫、という慢心がどこかにあったのだろう。村人が拐かされているという報告があるから調査をして欲しいという依頼だった。どうせいつもの身代金目当ての盗賊だろうと───

 実際は盗賊などという可愛いモノではなく、違法である合成獣キメラの製造研究に手を出した大規模な犯罪組織で。

 嗅ぎ回っていることを敵に見つかったアルクは、散々痛めつけられて、牢の床に転がされている。殺されないのは恐らく、アルクをも人体実験の素材とするつもりなのだ。

「流石に、人間として死にてぇな…」

『ふぅん…、助けてあげよっか?』

「は?」

 死にかけているアルクが気力で目をこじ開けると、身体の透き通った少年がふわふわと宙に浮きながら、腰を屈めてアルクを覗き込んでいた。少年の服装は奇っ怪としか言えない、見た事もないデザインをしている。スーツにも似ているが、それにしてはやけに素材が柔らかそうでハリがない。成長すれば精悍さを伴ってさぞ女にモテるだろう、そんな未来を連想させる幼い容貌。黒髪に、黒目。

 どこかで、見た覚えが───

「あ!お前、あの時の!」





 それは5年前のこと。

 冒険者は、ギルドから発行されるクエストをこなして生計を立てるのが一般的だ。クエストには報奨金の他にボーナスポイントがついており、ポイントを一定数貯めると全国各地にある神殿で召喚を行える。

 召喚で何が出てくるかは完全に運任せだ。強い召喚獣や召喚神が出て来れば頼もしい相棒となり、一躍有名になるのも夢ではない。火の高位精霊サラマンダーなどは特に人気だ。

 そもそも、そう簡単に強力な召喚体を引き当てられるわけがない。

 アルクは軽い気持ちで、神殿に赴き、ポイントを消費した。

 どこからともなく無数の光が集まり、形を成す。それは人形だった。黒髪の、妙な格好の、少年の形をしている。

「は?」

 わけがわからない。召喚主の特権を使い、召喚体のステータスを覗き込む。

「は??」

 攻撃力も防御力も、近所の5歳児より少ない。

 体力は一桁。

 魔力に至っては項目すら見当たらない。

 なのに、レア度は最高であることを示す赤い星印。

「は???」

 一般庶民の子供より弱いのに、レア度の高さが規格外過ぎて意味がわからない。

 種族に『男体Ωオメガ』と書かれているが、アルクにはサッパリ意味がわからない。なんだそれ、という感想だ。

 しかも、その説明文や個体名などはシークレット扱いになっており、閲覧できない。

 高位の召喚体は、召喚後、しばらく召喚したまま共に時間を過ごすなどして信頼度を高めないと、安易にその力を利用することは出来ない。せっかく召喚しても召喚体に気に入られなければ消えてしまう。シークレットは、召喚体側が、お前はまだ信用ならないと、召喚主に閲覧制限を課しているということである。

 終わりましたか?、と締め切った扉の向こうから声を掛けられ。何となくコレを見られたくないと思ったアルクは慌てて「姿を消せ!」と召喚体に命じたのだ。召喚体は掻き消え、召喚できたかを問う神殿の職員には「今ひとつでした」と誤魔化したのである。





 それ以降、一度も思い出さなかった謎の召喚体がそこに居た。

「え、何でいんの?俺、召喚石は全部取り上げられて───」

 呼び出したい召喚体の召喚石を握り魔力を込めることで、一度召喚した召喚体の再召喚が可能になる。召喚したままだと召喚主の魔力を削り続けるので、必要な時以外は召喚石として持ち歩く。

 武器を取り上げるのは当然だが、必ず召喚石も取り上げる。それが冒険者を捕縛する際の常識だ。

『だって、アンタ、召喚石に送還しなかったじゃん』

 指摘されて思い出す。確かに、送還する、などと一言も口にしなかった。なんなら目の前の召喚体の召喚石を手にしたこともない。

「え、じゃあ、5年間ずっと召喚してたってことか!?」

『魔力消費ゼロだから気づかなかっただろ』

「いや、もっと早く姿を見せろよ!」

『姿を消せとは言われたけど、それっきり特に命令されなかったし、面倒くさかったから』

 平然と答えられるとイラッとする。とはいえ、確かにアルクの落ち度なので何も言えない。

「お前って、何が出来るんだ?」

『子供を産める』

「男は子供を産めないんだぞ???」

 何故こんなところで常識を教えなくてはいけないのだろう。期待するんじゃなかったとアルクは床に顔を埋めて悶える。

『あと、今は幽体だから姿を消して動き回れるね。諜報活動とか、鍵を盗んでくるとか、そんなカンジ』

「あ、それでお願いします…」

 万事休す、絶体絶命のタイミングで都合良く降って湧いた幸運に、思わず敬語だ。

『おっけー』

 幽霊にしか見えない召喚体は、気負うことも無く緩く片手を当てて、鉄格子を難無く透けていく。


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