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後日談
天の采配・2
しおりを挟む朝陽に隠していることなど幾らでもある。サザードは減りそうで減らないそれらを思い浮かべつつ、気を失った朝陽の身体を魔法で清め、寝間着を着せてやる。温もりが、重みが愛しいと、抱き締める。
「陛下、目的を達したとの伝言でございます」
万が一朝陽の耳に入っても誤魔化せる範囲のことしか背後の侍女は口にしない。サザードも「そうか」とだけ呟く。事前に取り決めた手順から変更はないのだと理解して侍女は退出していった。
朝陽はこの世界に来てから、基本的にサザードの膝上で、サザードが先に味見をした物しか口にしていない。恐らく朝陽はそれを単なる溺愛だと認識している。サザードが敢えて説明しないことと、侍女達の生温かい視線が誤解の原因なのだろう。都合が良いので別に構わない。
実際は、味見ではなく、毒味をしているのだ。サザードは神の依代なので毒は効かない。しかし、伴侶にまでその恩恵は及ばない。朝陽は不老になっただけ。毒など喰らえば呆気なくサザードを残して逝くだろう。
朝陽を殺そうとした者を捕らえたのはこれで何人目だったか。朝陽を抱き締めつつ寝台に転がり、目を閉じ、頭の中で生首を数えながら眠りにつく。
過去に伴侶を迎えた王は皆十年以内に道を踏み外している。それまで国に尽くす生き方しか知らず、そのことに疑問も持たなかった王は、伴侶を得ると己が孤独だったことに気づき、国の幸福よりも自分自身の幸福に目を向けるようになってしまう。私利私欲の為に権力を震えば、神によって断罪される。
そうなる前に伴侶を殺し、王に正気に戻って貰おう───という過激な思考の者達が朝陽の命を狙っているのだ。
他にも伴侶を王配または王妃としてお披露目をしろと要求する者達がいる。こちらは三百年以上独り身だった王が選んだ伴侶とやらを見てみたいという好奇心から。あるいは王妃として立たせ、反対意見が多く進まない公共事業の旗印として利用したいと目論む者達。
あとは、何故か王太子が朝陽に面会を求めている。これに関しては意図が読めない。
「───誰にも見せたくない」
「………おはよ、サザード。朝から重いんだけど!!」
寝台の上でサザードに抱き締められて目覚めた朝陽は息苦しさに「潰れる!」と騒ぐ。
「俺は重い男なんだ」
「現在進行形で体感してるよ」
抵抗するほど腕に力を込められて苦しさが増すので、朝陽は諦めて全身の力を抜く。触れ合う素肌が心地良くて、ふふふと笑う。大型のネコ科の動物に甘えられているようで悪い気はしないと朝陽はサザードの髪を撫でる。
「閉じ込めて、誰にも見せたくない」
「…うん、現在進行形で軟禁されてる。でもさ、俺、それを嫌だって言ったことないだろ?そもそも思ってないし」
目を見開いたサザードの頬に唇を寄せる。ビクッと身体を震わせ、サザードは目を見開いたまま固まってしまった。
「俺が悲観してないのにサザードが凹む必要、ある?」
朝陽の問いかけに、サザードは目が覚める思いだった。
よく考えれば、朝陽をお披露目しないのも、王配などの地位と権力を与えて働かせないのも、全てサザードのワガママで。それこそ職権乱用だろう。しかし、今の所天罰が下る様子は無い。神に許容されているということだろうか。許容されているとしたら、それは他ならぬ当事者の朝陽が受け入れているからか。
神と当事者が良しとしているのだ。第三者でしかない者達の訴えに心を割く必要など確かにないなと納得する。もちろんこれが政治なら誤りだろうが、あくまでサザードの私的な部分なのだ。
王として神の依代として。常に立場と責任に支配されてきたサザードの、サザード個人としての幸福。泣きたくなるほど甘くて温かい。───なるほど、これは下手に追い求めれば自滅すると言われても溺れたくなるな、と。晩節を汚してきた過去の王達を思い浮かべる。
「アサヒはそんなに俺を甘やかしてどうするつもりなんだ」
「サザードに絆されちゃったから仕方ない。退屈を紛らわす方法だけ一緒に考えてよ」
「それは責任重大だ」
手始めに、とサザードの手が朝陽の脚を意図的に撫でる。まるでその先に退屈しのぎの答えがあるかのように。
朝陽はすかさずサザードの手の甲を抓る。
「仕事だろ、王サマ」
「………しっかりした嫁で助かる」
「そりゃ歴史に残るような傾国の原因になる気はねぇよ。やるべき事をさっさと終わらせて来い。昼食も夕食もサザードが来るまで待ってるからさ」
自分に出来ることはそれくらいだと朝陽は自覚している。かといって卑下するわけでもなく、ただの事実として受け入れていた。
何故朝陽がサザードの元に降ってきたのか。何となくわかったような気がして、サザードは心の中で神に感謝を捧げたのである。
[完]
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