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しおりを挟む集まっていた人達は皆下がって行き、柚花が滞在する部屋に毛玉と二人切りとなった。
「───ねぇ、そろそろ戻ったら?」
わふ!と答えて、毛玉の姿が一瞬で肌色に───
「きゃあああッ!!」
毛玉がいたところには全裸の男が蹲っている。そうだ、そうだった!どうして忘れていたのか!!咄嗟に両手で視界を覆って悲鳴を上げると、聞きつけた人達が声を上げながら部屋に舞い戻って来ようとする。それはそれでアカン!とあわてて柚花はドアノブに飛びつき、開けられないようにと引っ張る。
「なんでもない!なんでもありませんから!大丈夫です!!」
「あー…、ほんと、すまん」
「もう!さっさと服を着てよ!!」
柚花は振り返らずに叫んだ。
ドアの外の人々は柚花の声を聞き、取り敢えずジークが人間の姿に戻ったのだなということだけは理解した。
「聖女様、ジーク様の呪いが完全に解けるまで滞在して下さいますよね?」
「……………」
呪いが解けるまでも何も。ジークの自作自演なのに、どうしろと言うのか。縋るような視線を向けられても返事が出来ないまま顔を背ける。
元の世界に帰りたいか、と聞かれたら、正直返答に困る。3食欠かさず提供され、規則正しい生活をし、聖女としてジークの執務を補助する。この生活に慣れてしまった以上、戻って社畜をやる、というのは耐えられる気がしない。
「なぁ、ユノ。このままここにいてよ」
もうすぐ正式に国王となる予定のジークが甘い声で囁きながら柚花を抱き締める。
甘い、甘い。悪魔の囁きだ。
「貴方は何がしたいの?」
視界の端で気を利かせた人達が静かに退室していく。それがあからさまで少し腹立たしい。
「この国には愛着があるし、王様として人間の一生分くらいは真面目にやる気だよ。でも途中で飽きたら滅ぼすかもしれないし、ユノに見張ってて貰えたら嬉しいかな」
デカい図体で、目をキラキラさせて、まるで大型犬のよう。そんな目で、至近距離で覗き込まないで欲しい。王族には良い思い出がないのだから。いやでも、ジークは偽の王族だから、別?だろうか。
「そんな、そんな目で見ても絆されないからね!」
背後から抱きしめたまま顔を近付けてくるジークを必死に押し退けようとするがビクともしない。くそう、そういうところがカッコイイ…と思ってしまうあたり、認めたくはないが色々と手遅れだ。
「ユノ、ユノカ。例え君が死んでも、あちらの世界に戻れないように、俺がしっかり捕まえていてあげるから、ね?一緒にいよう」
それは、召喚される度に巻き戻りと生き直しを強制されてきた柚花にとって魅力的な囁きだった。
どうせ今までも裏切られてきたのだ。また裏切られたら、またやり直すだけ。
柚花は諦めて肩の力を抜いた。
先王国王の庶子だとされるジークフリードは、異世界の聖女を妻に迎え、聖女の存在という後ろ盾と、多くの家臣達からの後押しを持って新王として即位した。
老いを知らないかのような国王夫妻に、国民は畏怖の念を抱いたが、国が豊かで、自分達の生活が満たされている以上、そんな違和感など些細なことでしかない。人々はジークフリードを賢王と称えた。
やがて代替わりした後、各地で賢王の肖像画によく似た青年が、黒髪の妻と共に旅をする姿が目撃された。
「確かに元の世界に戻りたくないとは思ったけど、何で私まで不老不死になってんのよ!!!!!」
「───わふぅ」
「毛玉になって誤魔化すなー!!」
[完]
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