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しおりを挟む遠く離れた人里に青年を放し、神は神域に閉じこもる。神殿の寝台には今も青年の気配が残っているような気がして横になる気にはなれない。どうせ眠る必要などない存在だ。何をすることもなく、ただ太陽の動きを眺めて過ごす。
「あ、いた!」
聞こえるはずのない声に、希薄になっていた神の存在が輪郭を帯びる。
神は瞬き、眉間を揉みつつ、侵入者に溜め息をつく。侵入者は壮年の男だ。年老いたくらいでその存在を間違えるはずがない。生まれ変わっても間違えようがないのだから。
「オッサンになりましたね…」
「そういう神様はお変わりないようで」
せっかく逃がしたのに、どうして戻ってきたのか。
「記憶は消したはずですが…」
「そうですね、貴方様の顔を見るまで確かに忘れてましたよ。ずっと心が落ち着かなくて、居場所を、貴方様を探してたんです」
花が開くように笑う様を見た神は、頭を抱えた。
「最初から貴方を拾うべきではなかったですね」
虐待されていた子供だった彼を放っておけなかった自身を恨んでも今更だ。
「神様、俺の願いを叶えてください」
───名前をください。
───神様の名前を呼ぶ権利をください。
「代わりにこの身を、魂を、心を、愛を、捧げます。だから───」
「貴方様を利用するだけの世界なんて捨てて、俺と一緒に死んでください」
世界にとって災厄でしかないそれは、甘美で、熱烈な、愛の言葉だ。
やがて世界は〝柱〟を失って。それでも危ういバランスの上、何とか続いていく。
巡り会った2人は危うい世界で笑い合う。
「次は世界の終わりを2人で見届けようか」
[完]
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