生贄メリーの愛欲

ひづき

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 ぐじゅぶッ

「か、は───ッんあああ」

 唐突に突き立てられた凶器は躊躇いなくメリーを貫いた。

「ぐ、」

 リーベルが、神様と呼ばれる彼が、メリーの背後で余裕のない声を漏らす。あの、いつだって余裕しか見せない神様が!それに気づいた途端、メリーの全身はカッと燃えるように熱くなる。

「はぁ、あ、あ、あ、」

 指では届かず、拓かれることのなかった奥深くを硬く滾った男の欲望がヒダをかきわけて押し進む。押し開かれる圧迫感に腹が苦しい。異物を排除しようとする蠕動運動がぐりゅぐりゅと剛直を締め付け、絡め取って、離さない。

「てかげん───」

 手加減してくれ、なのか。できない、なのか。リーベルの言葉を聞き取ることも出来ず、揺さぶられるがままメリーは声帯を震わせて喘ぐ。その拍子に覚え込まされた一点を強くゴリッと擦り上げられると、あまりの衝撃に涎を零しながら一際大きな声を上げて絶頂を迎える。

「んゃあッ」

「いっ、」

 食いちぎる気かとリーベルは苦笑し、腰の動きを止め、メリーの纏うバスローブを剥ぎ取る。現れた肌に、背中に唇を落とす。吸い付いて、痕を残して。これは私のものだと刻みつける。そんな些細な刺激にもびくんびくんと甘イキして、小さな喘ぎを零す。

「ぁ、ぁ、ぁ、んぁ…、リーベルさまが…、いっぱい」

 圧迫感のある下腹部を撫でると、そこに自分のでは無い熱があるのだと実感して、メリーは思わず微笑んだ。嬉しい、と。

「……………そういうのは、私の顔を見ながら言って欲しいのですが」

 そのようなセリフを一体どのような表情で言うのか。メリーの負担を考えて後ろから貫いた自身の優しさがリーベルは憎たらしくなった。腹いせのように腰を動かし始める。

「ひ───ッ」

 腸壁が引きずり出される恐怖に怯えた傍から、より一層奥深くを抉られて、メリーは明らかな悦びを覚えて下腹部を痙攣させた。





 神は夢を見ない。代わりに過去を見る。

 かつて神に寄り添って生きた男との日々だ。世話係として人間共から一方的に寄越された彼は、明らかに異質で。厄介払いされたのだと知れる。神が願いを叶えるのを見届けるのが役目なのだと彼は本気で思っていたようだが。

 願いを叶えるも何も。神と呼ばれるリーベルは〝柱〟だ。ただ在るだけで大地の力を循環させることが出来る。循環さえ滞らなければ、日照りも天変地異も起こらない。

 人間の食事など摂る必要も無いが、彼がせっせと作るので娯楽程度に口にした。人間達は神が何を食すと思っているのだろう。気まぐれに問えば彼は『人間とか?』と物騒なことを言う。ならばお前が生贄なのか、と。顎を掴んで瞳を覗き込む。他の人間なら怯えてそれ以上会話にならなかっただろう。

 彼は笑う。

『生贄と言ったら普通は羊を代用するでしょ。俺より羊の方が美味しいよ』

 意味がわからない。何故羊が人間の代わりになれるのか。

『あれ?この世界じゃ違うのかな?生贄と言ったら羊、羊と言ったらメリー』

『……………』

 どこから出てきた、メリー。メリー、とは。異質な彼は時折不思議なことを言う。

『ねぇ、神様の名前は?』

『ある訳が無い』

『じゃあ、俺が神様に名前をあげる。そうだな…、リーベルなんてどう?』

『意味は?』

『え?音の響きが良い感じかなってだけで意味なんてないけど』

 頭が痛い。神という存在を縛る名をつけるなど、普通の人間なら畏怖の重圧に苛まれて出来やしないだろう。それを彼は容易にやってのける。

 名前により存在を縛られたことで、それまでモヤのような姿形しか持たなかった神が人型を成した。それまで無性だったのに、男性体として地に足をつけた。

『人型になれるならもっと早くなってよ』

『……………』

 お前がやったんだ、と。言おうとして、やめた。人間の身に背負わせるには重たい業となりかねない。





「お目覚めですか、リーベル様」

 リーベルの腕の中に閉じ込められ、身動きがとれなかったらしいメリーが安堵したように表情を緩める。

「メリー。私のメリー」

 かつての彼も、腕の中のメリーも、リーベルを連れて行ってはくれない。姿が変わらぬリーベルをよそに年老いて、儚くなる。

 メリーの中にあるリーベルと過ごした記憶を消し、人里に逃がしてやるべきだ。同じ時間を生きる者達の元に放してやるべきだ。

「お、重いです、リーベル様」

「愛してるよ、私のメリー」

 離したくない。

 そんな我儘を飲み込んで───



 リーベルは、メリーの記憶を食べた。



 気を失った青年の、血の気の引いた顔は、以前看取った年老いた彼を思い出させる。彼は皺だらけの手を伸ばし『生まれ変わって、また会いに来る』と言ってくれた。

 果たされないだろうと諦めていた約束が叶っただけでじゅうぶんだと、自身に言い聞かせ、再びリーベルという名を封印する。


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