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しおりを挟む「待ちなさい。馬車に長時間揺られるのは止めたほうがいい」
そんなドワーフの医者の言葉にベルンは頷いて同意する。
「ワープポータルを使用します」
「わーぷ…?」
「…あぁ、なるほど。なら一瞬だ。念の為ミナトには眠っていて貰った方がいいね」
ワープとは、あのワープだろうか。この世界にはそんなものまであるのか!
わけの分からぬまま話が進む。怠くて暴れる気力もなく、ベルンに抱えられたままなのもミナトは面白くない。
「そう言えば忘れていた。私は貴族ではない。平民でもないが」
「…?」
何が言いたいと問い返すより先にミナトの意識は深く深く沈んだ。
───なるほど、確かに。
ベルンは貴族ではなかった。平民でもなかったが。
「何で王族が騎士なんてやってんの???」
王族お抱えの医師達が1日3回も様子を見に来る状況にミナトは居た堪れない。ミナトが滞在しているのは城ではなく、近くにある離宮らしい。ミナトから見れば城にしか見えないのに、離れにある倉庫のような物だとか言われても反応に困る。
「次男坊だからな。兄上が優秀なので私に出番はない。身分ではなく実力で身を立てられるのが騎士の利点だ」
そう答えるベルンは現在産休中らしい。この国の産休は夫も妊娠者と同期間取得できるとのこと。身分に関係なく取得が推奨されており、その為の生活支援制度も充実しているのだとか。むしろ産休をとらずに妊娠者を一人にするなど有り得ないと非難されるという。
他人が四六時中自身の世話をやくために待機しているという非日常に耐えられないミナトの為、最低限の使用人のみを残して基本的な世話はベルンが行っている。その為の産休だとベルンは笑い、楽しそうに世話をやくのだ。
「やばい、絆されそう」
見た目はミナトの好みドンピシャ。そこに来て中身も自立心があるとか、カッコ良すぎる。
「頼むから素直に絆されてくれ…!」
子もベルンを応援するようにミナトのお腹を蹴る。
「でもなぁ、王族かぁ…」
庶民にはハードル高過ぎて遠慮したい。
「結婚と同時に王族を抜けて臣下となることは確定している。騎士爵なら平民とほぼ変わらない」
王族が一気にそこまで下ったら周囲の方が気を遣って大変だろう。番狂いのαというのは頭のネジが外れるものです、って今朝会った医者が言っていた。ネジの外れたベルンを説得するのは大変そうだが、ひとまず他人事として流しておく。
「その辺は別に何でもいいよ。分かんないし。ただ、出来れば出産後も女将さんの雑貨屋で働きたいかな」
保育園とかあるのだろうか。
「…あの領地を手に入れるか」
そんな不穏なことをベルンが呟く。何をするつもりなのか、怖くて聞けない。
数少ない使用人達に聞き取りを行ったところ、この世界で最初に会ったセクハラ領主は横領の罪で告発されて捕まったらしい。誰が暗躍したかなんて聞きたくもないから、へーそうなんだぁと流しておいた。
「あー…、逃げ出したくなるほど幸せだなぁ…」
「いや、頼むから逃げないでくれ」
ベルンに賛同するかのように、お腹の子も弾んだようだった。
[完]
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