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しおりを挟む「よく分からないが…、話しを聞く限り、君の知る物語とはだいぶ異なってきているんだろう?だから大丈夫だなんて、悪いことは起きないなんて言えないが、良くも悪くも変えることが出来るということは既に証明されているんじゃないかな」
ロバートは嗚咽混じりの拙い発言を聞いて、そう結論を出した。しかもルイーズと視線を合わせるために屈み込んで話を聞いてくれた。彼はこんな人だっただろうかと、ルイーズは原作にも記憶にもないロバートの行動に瞬きを繰り返す。
「そもそも僕は自分が子を望めない身体だと知っていたし、だからこそ、僕の生き写しのようなクラッドが悪魔だと気づいた。アメリアも特別言ったりはしなかったが、隠しもしていなかっただろう?」
「それは、まぁ、どうせ旦那様は私達母子に興味ないはずと予想していましたので。私が黙ってさえいればバレないだろうと踏んでいましたから。もしバレてもクラッドは旦那様に瓜ふたつ。所詮冷遇される程度、追い出されることはないという確信もありました」
アメリアもあっけらかんと言い放つ。妙な温度感を共有する夫婦だなとルイーズは思った。
原作のように、アメリアはクラッドの悪魔を抑圧しない。隠しもしない。どうせバレやしないと高を括って堂々としていた。だからクラッドは原作と異なり、快活な子供になっている。
ロバートがクラッドと遊ぶなんて、原作では有り得なかった。原作のロバートはアメリアとクラッドに興味を示さず、いないものとして扱っていたと描写されていた。それなのに、目の前のロバートは家族に関心を向け、関わりを持ち、クラッドが悪魔だと気付いた上で受けいれている。気味が悪いと避ける様子もない。
ここは現実で。物語とは違う。
実感し、納得すると、ルイーズの身体から力が抜けた。
「君が望むなら施設や里親を探そう」
ロバートの手がわしゃわしゃとルイーズの頭を撫でて髪を掻き乱す。それを今度はアメリアの手がルイーズの髪を梳くように頭を撫でた。
「もちろん、ここにいても良いのよ。クラッドの姉として遊び相手になってくれたら嬉しいわ」
「すぐに結論を出せとは言わない。クラッドのやんちゃぶりに疲れて逃げ出しても怒らないよ」
どこかゲンナリとした様子でロバートが言い添えるのを不思議に思いつつ、ルイーズは頷いた。破滅はしたくない。アメリアがクラッドに殺される未来も見たくない。でも、叶うならここにいたい。
「おねぇちゃん!本、よんで!」
クラッド本人は元気いっぱいで、今すぐにでも庭を走り回りたいようだ。しかし、医師に止められているし、乳母も侍女も目を光らせており、ベッドから抜け出せそうにない。
ルイーズが部屋を訪ねるとクラッドは嬉しそうに破顔して「あそぼ!」と強請る。しかしベッドの上で出来る遊びは限られる。カード遊びなどはクラッドの集中力が続かない。仕方なく本を読み聞かせると意外と気に入ったらしく、毎日聞きたがる。
もちろん、クラッドがただ本の内容を聞くだけで済むわけがなく、「うみってなに?」「おおかみってなに?」と質問攻撃が入るので本の内容は一向に進まない。ルイーズは答えられる範囲で精一杯答えようと頑張るのだが、言葉にするのは難しい。ついには辞書を持ち出すのだが、今度は辞書の解説文章に対しても質問が入る。
家庭教師の授業も難しいと感じることがあったが、それ以上にクラッドの質問攻撃は頭を使う。頭を使うとお腹が減る。
食事は家族で食べるものだとロバートが言い出し、テーブルをクラッドの部屋に持ち込んで、ロバート、アメリア、ルイーズで食卓を囲む。安静にしなくてはいけないクラッドは寝台の上に置かれた簡易テーブルで食べる。
「お前達、随分とたくさん食べるようになったな…」
毎食のように驚くロバートの隣でアメリアが微笑む。
「むしろ今までの食事量が少なすぎたんですよ」
クラッドは食事中も集中力が続かず、すぐに食べ飽きてしまっていたらしい。それが今は一心不乱に食べている。
一方のルイーズは、満腹になるまで食べようとすると母ヴァネッサが卑しい子だと言って嫌がるので、食事量を制限するのが当たり前だった。身体を作る大切な時期に食事量を制限するのはルイーズの為にならない、そうアメリアが言ってくれた。確かにそうだと、納得すると同時に、前世の記憶があってもルイーズの精神年齢は身体に引き摺られるのだと実感した瞬間でもある。
ルイーズの生母ヴァネッサは修道院に送られた。ただの修道院ではなく、治療院を兼ねた修道院だ。他の収容者達と軽作業をして過ごし、定期的に医師の診察を受ける。元気になって本人が望めば運営側に回って働くことも可能。もちろん寛解して退院する人もいる。
多額の寄付金をロバートは母ヴァネッサの為に支払ったはず。その金額を尋ねてもルイーズには決して教えてはくれなかった。
ロバートはヴァネッサに申し訳無さを感じているようだ。子供の父親を偽り、脅迫して、無理やりロバートを縛り付けてくるような女を。お人好しなのか馬鹿なのかと呆れてしまう。その結果ルイーズは衣食住に困らないのだから何も言えないのも事実。
恩返しをしたい。その為に何が出来るか。
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