何度目かの求婚にて。

ひづき

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「それを?私とお前でやるって?」

「そうだ」

 アシュートは本気で言っているらしい。金色の目がレクスを射抜く。

「他の相手を探せ」

「何故」

「それをやったら、うちの血筋が絶えるからだよ」

 王家は第一王子もいるし、王弟殿下の血筋もいるから、第二王子に子供が出来なくても良いのだろう。しかし、男爵家の生き残りであるレクスは別だ。

「最もらしいことを言って逃げるな。お前自身は血筋に価値なんて感じてないだろ」

 さすが幼馴染。バレバレだ。レクスは容赦なく舌打ちする。

「ああそうだよ、血を残すことになんか興味無いね。私は女性と最高に気持ちいい性交がしたい」

 恥ずかしげもなく堂々と宣言する。変なところで男らしい。

「お前も結構アホだよな」

「お前がアホなことを言い出したからだろ。絶対に私はお前と呪術婚なんかしないからな!」

 レクスの宣言にアシュートが目を細めて席を立った。レクスはデスクの上を一瞥する。まだ日は高いが、決裁待ちの書類の山は綺麗に片付いている。許容範囲だなと判断し、頭の中で今週分の業務予定を組み立て直す。手が空いたなら前倒しで何かやらせよう、そんなことを考えていたレクスはアシュートに後ろから抱き締められた。

「おい、アシュート。いい加減にしろ」

「悪いな、レクス」

 ちくん、と首筋に痛みを感じると同時に、ガクッと身体が重力に逆らえなくなる。瞼が重い。

「あ─────」



 □□□□□□□□



 深い赤褐色の髪、紅玉のような瞳。凛とした佇まいで目を伏せれば、その様を目撃した有象無象が息を呑む程に艶やかで美しい。例えその身が男でも手篭めにしたいと望む者は後を絶たない。その湧き出る羽虫達を片っ端から潰しているのがアシュートである。

 見た目は美しいのに、口が悪い。そのギャップを知るのはレクスと本当に親しい人間だけ。最初は見た目に惹かれたが、中身を知るほど離れがたくて。

 レクスを手に入れる障害となるから王位なんて要らない。国王夫妻、第一王子ともその方向で取り引きが済んでいる。無能を演じて反国王派を寄せ付けつつ、暴走しないよう裏から手を回してコントロールする。それがアシュートの役目だ。

 腑抜けてみせ、弱音を吐いて、レクスに甘える。それもアシュートの一面だ。自分がついていなくてはダメだと思わせてレクスが離れないよう仕向けているのも事実。その一方、レクスがいなければ公務などやる価値は無いと本気で思っているのも事実であり、国王一家はそれを重々理解している。理解溢れる一家はレクスとの仲を反対すれば国を滅ぼすかもしれないと、そのくらいアシュートを危険視している。それを可能に出来る程の機密情報、その証拠を手にしているのを少年時代に見せつけて今の立場に落ち着いた。



 現在、アシュートの自室にレクスを滞在させている。正確にはアシュートがレクスを軟禁している。元から距離が近いと噂された2人が、何日も自室に篭もり、しかもレクスは一切姿を見せない。これはとうとう一線を越えたのだろうと城中盛り上がっている。その噂は爆発的に社交界に広がり、一大醜聞スキャンダルと化している。

 貴族にとって醜聞スキャンダルは致命的だ。真実か嘘かに関わらず、社交活動に、ひいては政治活動に差し障る。最早、レクスがアシュートの〝お手つき〟であることは誰も疑わない。

 疑わないが、残念ながら事実とは異なる。

「なぁ、いつまでここにいればいいんだ?」

 最初は意識のない隙に既成事実を作ろうとしたのだが、嫌われたらと思うと何も出来なかった。どうしてもレクス相手だと強気になれない。アシュートの悩みであり、弱点だ。

 女が夜這いに来ても、レクスが部屋にいれば頼もしいから一緒にいてくれという、よく分からない理由で留まることを強要している。半泣きで一緒にいてくれと言えば拒否されなかった。なんだかんだ言いつつアシュートに甘いのがレクスである。

「うーん、もう少し、俺達の噂が広まるまで、かな」

「…はぁ、まったく」

 世間的に恋人同士だと広まる。呪術などで縛ったわけではないので縁談が途絶えることはないだろう。

 むしろ、女の良さを教えてやる!という肉食系が暴走するのではないかとレクスは心配している。アシュートとしては、ますます変な輩がレクスを狙うかもしれないと懸念している。2人の気持ちは方向性こそ似ているし、お互いのことを考えてはいるが、どうにも噛み合わない。

「…レクスに嫌われるのは嫌だなぁ」

 一番の不安はそこである。ここ数日、自室に閉じ込めているのに、同じ寝台を使っているのに、それでも手を出さないのはその不安があるせいだ。理性などではアシュートの衝動を止められない。

「今更お前を嫌いになんてならないよ」

 ソファで優雅に茶を嗜みつつレクスは余裕を見せる。その慈愛に満ちた笑みに、アシュートはようやく気づいた。レクスの恋愛対象にアシュートは入っていない。意識されていない。

「レクス」

 レクスの肩を掴み、伸し掛る。

「ん?」

 この瞬間も心臓が弾けそうな程ドキドキしているのはアシュートだけ。何とも虚しい。レクスの額に口付けを落とす。何をされたか分かっていないのか、瞬きを繰り返している隙に、レクスの頬にも口づけをする。

「ん…っ」

 ちゅ、というリップ音に擽ったさを覚えたレクスが甘い吐息を漏らす。アシュートは身体が熱くなるのを覚えつつ、薄い唇に噛み付いた。

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