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美人なのに凶暴。それがレクスだ。それでこそレクスだ。アシュートは苦笑を漏らす。
「何笑ってんだ、あ゛?」
「…いや、可愛いな、と」
つい本音を漏らすと、レクスの視線がどんどん冷え切っていった。
□□□□□□□□
「頼むから俺と結婚してくれ」
ここ1ヶ月ほど毎日恒例になった求婚を今日もアシュートは繰り返す。レクスは呆れを隠さず嘆息するのみ。
軟禁騒ぎ以降、アシュートは隙あらば唇を近づけてくるようになった。その度に鳩尾を殴ったり、足を踏みつけたりと対応するレクスも忙しい。恥ずかしいのと仕事中なので拒絶するが、困ったことに、実はキスもハグも嫌ではない。きっとそれ以上の行為も受け入れられるのだろう。
「怒ってる…?」
子犬のように濡れた瞳で縋ってくるのはズルイ。緩みそうになる表情筋を引き締めるのが大変だ。何も言えず、ぷいっと顔を背ける。見えないところでアシュートが衝撃を受けた気配がする。
「レクス、もう無理強いしようなんて考えないから!無視するのだけは勘弁してくれ!!」
そもそも、想いを寄せられるのが嫌なら側近なんて辞めて爵位を貰い領地に引っ込んだだろう。今もまだここにいる、それが答えなのだとアシュートは気づかないのだろうか。気づいていて、敢えてなのだろうか。
「騒々しいですよ、殿下。口より手を動かして下さい」
「他人行儀、嫌だぁぁぁ!」
2人きりなのに!2人きりなのに!とアシュートが悶絶する。
ああもう、仕方の無い奴だ。
「なぁ、アシュート」
騒ぎつつ、いつも以上に時間をかけて書類の山を片付け、机に突っ伏す男の名を呼ぶ。
「ラクス」
「結婚したい理由は?身体だけが目当てなのか?」
「違、」
慌てるアシュートが可愛いと思う。思えてしまう。
「ちゃんと聞かせてくれ。そしたら、ちゃんと考えるから」
「考えるだけ!?そこは受け入れてくれよ!!そもそも言わなくたってわかるだろ!?」
カチンときた。
言わなくても分かる。確かに仕事をする上ではお互いに会話せずとも分かることも多い。それはある程度決まったパターンが存在するから外れなく処理できているだけ。
一定のパターンや手順の決まっていない、新しい関係性を築こうという時に手間を惜しむのは、まるで手間をかける価値もないと言外に示されているようで癪に障る。言葉を尽くす必要は無いと思い込む、その根底にある傲慢さに腹が立つ。
「どうやら私は思い上がっていたようですので、殿下のお傍を辞し、見合い結婚でもして男爵位を継ぎたいと存じます」
「あいしてる、いかないでくれ!」
脅しておいてなんだが、そこまでして漸く愛を叫ばれても正直響かない。
「それは勿論存じ上げております。殿下は王族ですから当然私を含む国民全てに対して慈愛のお心をお持ちでしょう」
王族ですもんね!生まれ持った資質でしょうね!と明るい笑顔で繰り返す。
「慈愛なんかじゃない!俺はお前を閉じ込めたい!四六時中撫で回したい、いや、全身舐め回したい!!常に俺の膝上に座ってて欲しい!なんなら常に下半身で繋がっていたいんだ!!」
本能に忠実な願望を叫ばれ、レクスはちょっと引いた。そんなことを聞きたかった訳では無い。共に生きたいとか、そういう類の未来への展望を聞きたかった。
「───喜べる要素がひとつも無い!!」
何でこんなバカ王子に絆されてしまったのだろう!頭痛を覚える程に嘆かわしい。
この一連の会話が実は廊下まで筒抜けになっており、アシュートに用のある文官達は入室できないまま聞き耳を立てていた。
その事実を知り、怒ったレクスがアシュートと口をきかなくなるまで後一日。
外堀を埋められ、気づいたらアシュートの伴侶として離宮に住むはめになるまで後1ヶ月。
そんな先のことなど知らずに、レクスはアシュートの頭を思い切り引っぱたいた。
[完]
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