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しおりを挟む轟音が耳を劈き、爆音が肌を撫ぜる。騎士ランスは重たい全身鎧の下で荒い呼吸を繰り返しつつ、狭い視野の中で周囲を確認すべく眼球を動かす。
聖女は身に纏っていたローブの元の色が分からなくなるほど汚れ果て腹臥位で倒れている。長く美しかった金髪が焼け焦げざんばらに乱れている様が痛々しい。
勇者は見るも無残な有様で、形容し難い。神の御業を持ってしても蘇生は無理だろう。そもそも神の御業を使える唯一の聖女が倒れているので不可能に挑むことすら最早許されない。パーティー内で唯一魔王の真相を知るランスとしては当然の結果だろうなと納得していた。
魔法使いは吹き飛ばされた先におり、そこまで視線も意識も向けることは出来ない。なにせランスの目の前には魔王が立ち塞がっている。武闘家の姿も把握できる範囲には見当たらない。
深呼吸をして剣を構え直す。既に刀身は折れており、武器とは呼べない。それでも剣先を魔王に向ける。魔王は虎と蛇と鷲と何かを混ぜたような姿をしており、全体的に紫色でツヤツヤしている。傷一つついていない輝きに奥歯を噛み締めた。
魔王がいると魔獣達が活性化して人間達に被害が出る。だから魔王を倒す必要がある。しかし歴代勇者は魔王を倒せず、封印するのが精一杯だった。封印が綻びをみせる度に王族から勇者が立ち上がり、仲間と共に旅立ち、改めて封印を行う。
そんな歴史の大元である魔王は、魔族達は何故誕生したのか。
魔獣達の力を人間の肉体に取り入れて人造兵器を作ろうとした、当時の王家による人体実験の結果、作られたのが魔族だ。王家への恨みから魔族は王城を狙って魔獣達を扇動する。その道中にある市井で被害が出る。それを逆手に取り、民を守る為という大義名分を掲げて王家は兵を挙げ、勇者を祭り上げ、魔族を悪だと人々に信じ込ませているのだ。
勇者が王族から選ばれるのは、魔族に恨まれている王族が前線に立つことで魔族の敵意がそこに集中するからである。結果、周囲に平穏が訪れ、それが勇者が奮闘した恩恵であるかのように誤解させる、という詐欺。
騎士ランスは道中で立ち寄った遺跡内で偶然見つけた書物で真相を知ってしまった。書いたのは何代か前の勇者。その勇者は、勇者とする為だけに引き取られた妾の子だったらしい。
魔王を憐れむ気持ちはある。だが、殺さないと自分が殺される。それに、最早理性があるのか分からない魔族の王となった人物を生かし続けることが救いになるとは思えなかった。叶うなら楽にしてやりたい。そのようにランスは考えていたのである。
太い蛇のような尾に弾かれ、吹き飛ばされる中、ランスは自嘲した。魔王を救えたらなんて身の程知らずだったと、声を挙げて笑う。笑い、まだ諦めず武器を奮う。倒せるとは思っていないし、自分はここで死ぬだろう。それでも、掠り傷ぐらいはつけてやると決心していた。
魔王は緋色の眼球を炎のように煌めかせ、咆哮を上げる。
ランスは薄れる意識の片隅でその咆哮を聞きつつ、無心で剣を魔王に向けていた。
深い紫色の天蓋。金色の飾り紐。肌触りの良い掛け布。
ランスは呆然としていた。自分がいつ目覚めたのか、どのくらい呆けていたのか、判断がつかない。ランスは全裸で、負っていたはずの怪我は見当たらない。見覚えのない翡翠色の腕輪、足輪が両手両足についている。枷かと思ったが、ついているだけで繋がれてはいない。見えないが恐らく首にも同じ材質のものがついているのだろう、重い。
「…生きてる」
声に出すと実感が湧く。頭が冴えていくようだ。
「目覚めたか」
天蓋から垂れ下がるドレープの向こう側から声がした。ランスは驚き振り返った。応えるようにドレープを捲る手が見えた。ゴツゴツとした男の手だ。褐色の肌、深い紫色が黒く見える髪の男。その目は緋色。
伸ばされた手にランスは身構えた。頭を守ろうと腕輪のついた両腕を揃えて掲げ、首を竦める。相手が敵か味方か分からない上に、身を守るものは何もない。
のしかかってきた身体の重みに押されてランスは寝台に仰向けに倒れた。両腕で遮られた視界の先で男の手がランスの下半身に触れた。
「やめろ!触るな!」
萎えたままの陰茎を捕まれ、ランスは恐怖で暴れる。両手両足を動かし、男を押し退けようと努力した。
「あぁ、いいな。いい」
男の高揚した声が興奮を隠さずランスの肌を撫でた。ぞわりとした身体を悪寒が走り、更にランスは暴れた。だが容易に抑え込まれてしまう。両手をまとめて固定され、割り込まれた身体に脚を開かれてしまい閉じられない。
「俺に何をする気だ!」
「何…、犯す気だが?」
男はキョトンとして首を傾げ、何を当たり前のことをと呟いた。
「ふざけ…!」
相手を罵倒しようとした口が塞がれる。入り込んできた軟体の物質を噛み切るべくランスは歯を立てた。立てたが、表面を滑るだけで傷をつけられない。驚いている隙に口の中の形状を確認するように、丹念に撫でられる。同時進行で男の手がランスの身体を撫で回す。胸筋を大きな手に包まれて優しく揉まれ。乳輪を辿られ、乳首を弾かれる。
「ん、んん、ん、」
もし口を塞がれていなかったら、きっとはしたない喘ぎ声を漏らしていただろう。そんなことを考えてランスは目尻に涙を浮かべた。
犯す宣言が本気なのだと悟ってしまい、全身が強張る。今まで味わったことのない種類の恐怖だ。同性からそういう目で見られたことなんて今までなかった。
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