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第二章 華燭
43 その夜
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*
その夜。
「え、凛麗のことをどう思ってるかって?」
小蘭の唐突な問いに、蒼龍は目を瞬かせた。
(……聞かなきゃ。聞きたくないけど、知らないまま、想像するよりずっとマシだわ)
小蘭は平静を装い、蒼龍を見た。
「何だよ、どうして急にそんなこと聞くんだ。まさか小蘭、凛麗に何かされたのか?」
怖い顔をした蒼龍に、小蘭は慌てて首を振った。
「ううん、違う。そうじゃない。蒼龍の許嫁だとか聞いたから……。実際どうなのかな、なんて」
小蘭は慌てて意図を誤魔化した。
彼の様子を見ると、やはり過去に何かあったらしい。
と、彼は急に口元を緩めた。
「はは~ん、もしかして小蘭、"許嫁"って言葉に妬いちゃってるんだろ? 安心しろよ、俺は凛麗を娶る気はないぞ。何せ君に一途だからな」
蒼龍は、艶っぽい視線を横に流すと、羽根布団ごと小蘭に迫った。
「……」
「……な、何だよ。いつものように逃げないのか」
じっと見上げている小蘭の視線に、今度は、蒼龍のほうがのけぞった。
「あ、ううん。……どうせいつもの冗談でしょ。いちいち、話の腰を折らないでくれる?」
「ちぇっ、なんだよ、つれない事言うなよな。まあいいや、なに?」
蒼龍はいつものように笑った。
けれど、その笑みはいつも、ふとした寂しさを感じさせるから、小蘭の胸はまたざわつく。
(ほらね、やっぱり。甘くなりかけたらすぐに手を引っ込める)
小蘭は何気ない風を装うと、ポンポンと羽根布団を叩きながら、言葉を紡いだ。
「あ、うん。その……」
一瞬、声が詰まってしまうも、小蘭は、あらかじめ考えておいた前置きを、早口で紡いだ。
「私は、この国の身分制度とか、あまり知らないから。ええっと、蒼龍と凛麗は幼なじみだと聞いたわ。彼女は許婚だと言ってたけれど、しきたりで決まっているの? それとも――蒼龍が凛麗を選んだ?」
途端、蒼龍は渋い顔をした。
「……何だよ、やっぱり気になってるんじゃないか。俺的には向こうの親が言ってるだけ、って認識なんだけど。最後の質問は、どういう意味?」
小蘭は、いかにも不貞腐れているように、頬を膨らませた。
「——だって彼女、美人じゃない。蒼龍って女の子好きだし」
「何だよ、失礼な奴だな。……別に俺だって、女なら誰でもいいってわけじゃない」
ふと見せた影に、また黎貴妃様を思い浮かべ、小蘭の胸はきゅっと痛んだ。
「……。ええっと……ならさ、親の事を抜きで考えたらどう? 凛麗は幼なじみなんでしょう。蒼龍は彼女をどう思ってるの? 好き、それとも嫌い?」
「う~ん、好き嫌いって言われても……そうだなあ」
蒼龍は、からかいに乗ってこない小蘭を諦めたように身を離すと、どさっと仰向けに寝転んだ。
「親の関係を取っ払って、凛麗をひとりの女として見た場合——別に嫌いではない。ただ……」
寝台の天蓋に描かれた龍と蘭花のモチーフを目で追いながら、蒼龍は過去に思いを馳せた。その表情に、一瞬の影が差す。
「……そうだな。凛麗とは小さい頃から一緒に育ってきたから。色恋とか結婚とか、そういう対象にならない。もっと深い因縁があるというか」
彼はふと難しい顔をして、一点を見つめた。
真剣な目つきに、小蘭はどきりとする。
「実のところ凛麗は、俺のことを嫌っているんじゃないかとさえ感じる時がある」
蒼龍の声は静かだったが、言葉の奥に潜ませた影が、小蘭にははっきりとわかった。
(……やっぱり、何かあったんだ)
その夜。
「え、凛麗のことをどう思ってるかって?」
小蘭の唐突な問いに、蒼龍は目を瞬かせた。
(……聞かなきゃ。聞きたくないけど、知らないまま、想像するよりずっとマシだわ)
小蘭は平静を装い、蒼龍を見た。
「何だよ、どうして急にそんなこと聞くんだ。まさか小蘭、凛麗に何かされたのか?」
怖い顔をした蒼龍に、小蘭は慌てて首を振った。
「ううん、違う。そうじゃない。蒼龍の許嫁だとか聞いたから……。実際どうなのかな、なんて」
小蘭は慌てて意図を誤魔化した。
彼の様子を見ると、やはり過去に何かあったらしい。
と、彼は急に口元を緩めた。
「はは~ん、もしかして小蘭、"許嫁"って言葉に妬いちゃってるんだろ? 安心しろよ、俺は凛麗を娶る気はないぞ。何せ君に一途だからな」
蒼龍は、艶っぽい視線を横に流すと、羽根布団ごと小蘭に迫った。
「……」
「……な、何だよ。いつものように逃げないのか」
じっと見上げている小蘭の視線に、今度は、蒼龍のほうがのけぞった。
「あ、ううん。……どうせいつもの冗談でしょ。いちいち、話の腰を折らないでくれる?」
「ちぇっ、なんだよ、つれない事言うなよな。まあいいや、なに?」
蒼龍はいつものように笑った。
けれど、その笑みはいつも、ふとした寂しさを感じさせるから、小蘭の胸はまたざわつく。
(ほらね、やっぱり。甘くなりかけたらすぐに手を引っ込める)
小蘭は何気ない風を装うと、ポンポンと羽根布団を叩きながら、言葉を紡いだ。
「あ、うん。その……」
一瞬、声が詰まってしまうも、小蘭は、あらかじめ考えておいた前置きを、早口で紡いだ。
「私は、この国の身分制度とか、あまり知らないから。ええっと、蒼龍と凛麗は幼なじみだと聞いたわ。彼女は許婚だと言ってたけれど、しきたりで決まっているの? それとも――蒼龍が凛麗を選んだ?」
途端、蒼龍は渋い顔をした。
「……何だよ、やっぱり気になってるんじゃないか。俺的には向こうの親が言ってるだけ、って認識なんだけど。最後の質問は、どういう意味?」
小蘭は、いかにも不貞腐れているように、頬を膨らませた。
「——だって彼女、美人じゃない。蒼龍って女の子好きだし」
「何だよ、失礼な奴だな。……別に俺だって、女なら誰でもいいってわけじゃない」
ふと見せた影に、また黎貴妃様を思い浮かべ、小蘭の胸はきゅっと痛んだ。
「……。ええっと……ならさ、親の事を抜きで考えたらどう? 凛麗は幼なじみなんでしょう。蒼龍は彼女をどう思ってるの? 好き、それとも嫌い?」
「う~ん、好き嫌いって言われても……そうだなあ」
蒼龍は、からかいに乗ってこない小蘭を諦めたように身を離すと、どさっと仰向けに寝転んだ。
「親の関係を取っ払って、凛麗をひとりの女として見た場合——別に嫌いではない。ただ……」
寝台の天蓋に描かれた龍と蘭花のモチーフを目で追いながら、蒼龍は過去に思いを馳せた。その表情に、一瞬の影が差す。
「……そうだな。凛麗とは小さい頃から一緒に育ってきたから。色恋とか結婚とか、そういう対象にならない。もっと深い因縁があるというか」
彼はふと難しい顔をして、一点を見つめた。
真剣な目つきに、小蘭はどきりとする。
「実のところ凛麗は、俺のことを嫌っているんじゃないかとさえ感じる時がある」
蒼龍の声は静かだったが、言葉の奥に潜ませた影が、小蘭にははっきりとわかった。
(……やっぱり、何かあったんだ)
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