大正浪漫? 夫婦契約致しました ~暗闇の中、契約夫と密やかにはぐくむ愛~

佳乃こはる

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第1章

あとのまつり

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 ――最初に目覚めたのは僕です。

 それは、ひどく驚きました。
 父と母が、左右に倒れていたのですから。
 正面には、例の祈祷師が平然として立っています。
 
「あの、すみません、ちょっと手伝ってもらえませんか? 父と母の様子がおかしいのです」

 しかし彼は黙ったまま。依頼人クライアントが倒れているというのに、一向に動こうとしません。
 
「すみません、あの……」
 二度呼びかけてもだんまりのまま、男は前髪を分けて目を出すと、不躾に僕を見つめてきます。
 
 その時僕は、初めて彼のかおを見たのです。
 老婆かとも思えた祈祷師は、意外にも男で、何とも言えない不気味な笑みを湛えています。

 そうして、初めて口を開いたかと思えば、僕に意味不明なことを言いました。
 
「おめでとう、儀式は成功したよ」
 
(一体何を言っているんだ?)
 僕は、気味が悪くてなりません。
 
「ち、父上、母上!」
 堪らなくなり、父と母を必死に揺り起こそうとしましたが、ふたりが目覚める気配はありません。
 
「おのれ貴様、父と母に何をした!」
 とうとう僕は、男に向かって叫びました。
 
 しかし、奴は変わらずロープの外にしゃがみ込み、怒る僕を面白そうに眺めている。
 
「う~……ん」
 やがて、父の方が先に目覚めました。
「お父さん! 大丈夫でしたか。お母さんが……」
 
 嬉々として僕は、父の身体を起こそうとしました。
 
 ところが――。

「ぎ、ぎゃああああっ」
 父は僕を見るなり、叫び声を上げました。その顔が、恐怖に歪んでいます。
 
「どうしました、父上しっかりしてくださいっ」
 一瞬僕は、父が狂ってしまったのかと思いました。
 
 しかし、どうも様子がおかしい。

「うわっ、うわあ。た、助けてくれ。命ばかりは助けてくださいっ」
 何故か父は、僕を見てそう言っているのです。
「お父さん見てください! 僕のことが……分からないのですか?」
 
「……う~ん……」
 押し問答の最中に、ようやく母も目を覚ましました。
 
「母上聞いてください、お父上が!」
「きゃああーっ」
 母も父と同様に僕を見て金切り声を上げています。
 
「一体どうしたんです? 母上まで僕の顔を見忘れてしまったのですか」
「こ、来ないで化け物っ」
「化け……もの?」
 
 その時――ようやく、思い至りました。

 この儀式の間に何か、自分の身に良からぬことが起きたのだと。

「お前、僕らに一体何をしたんだ!」
 叫んだ僕に、男はふふんと鼻を鳴らしました。
 そうして突然、パン、パンと大きな音で手を打ちました。

「さあさあ皆さん落ちついて。これは慶事、悦ばしいことですぞ」

 僕ら3人の視線が集まると男は、まるで舞台上の司会者のように芝居がかった口調で話し始めます。
 
「つまり、こういうことです。このたびの祈祷は大成功。我がは、見事ご子息に移りました。その醜いかおとともにね」
 
「なん……だと?」
 
 父と母が改めて僕の方を見ます。
 母が震えながら僕を指差して言いました。
 
「で、ではあなた、が私の宿禰だとでも?」
「ご明察」
 
 父がそれに続きます。
「そ、そしてあの商売を見通す力が備わったのだと」
「ご名答」
 
「冗談じゃない!」
「やったあ!」
 母と父が叫んだのは、ほぼ同時でした。
 
 すぐに母が、キッと眉尻を吊り上げます。
「あなた、何を言ってらっしゃるの? こんなこと、赦されるわけがないじゃない。私の宿禰が……こんな姿に」
 
「い、いやミツ子。でもな? 宿禰にあの力が備わってみろ。うちの会社は安泰どころじゃない、何倍にも何十倍に拡大することが出来るぞ? その上、もうあのバカ高い占い料を納める必要も……」
 
「あなた! 商売さえ上手くいけば、宿禰がこのままでもいいっていうの?! そんなことになれば、この子の将来はどうなってしまうことか……。私は嫌、嫌ですからねっ」

「わ、分かった分かった! 無論、それはわしも同じ気持ちだとも。だからお前、少し落ち着いて」

 とうとう掴み合いを始めた両親を見て、祈祷師は不気味に嗤っています。
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