指先で描く恋模様

三神 凜緒

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第二章

昼休み談義

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こちらの想いや悩みと関係なく時間は容赦なく過ぎていき、携帯には子猫の様子がどうなっているかとか、これを買ってきてとか色々なメールが母親から届いている。
この季節になると、もう学生たちは冬服に着替えており、それでも寒いなと感じる人は中にカーディガンを着込んでいたりもしている。

「東谷君やっと戻って来たんだね! マスクもまだ外せないようだけど…やっぱりまだ辛い?」
「いや…こいつは念のためだよ。厚着もしてるが…もう微熱程度だ。明後日には部活にも復帰できるさ」
「おお~やったね! それじゃ…今日は一緒に帰れるね!……ん? 美桜…何か言いたげだね?」
「いや…何でもない…うん…」

――――いや…あんたは部活あっても律儀に毎日待っていたような気がするぞ!
午前の授業を終えて、皆で学生食堂へ…結局女三人では何の結論も出すことが出来ずに、今日…四日ぶりに戻ってきた東谷君を昼食に誘い…

「それで…今度は俺の所に相談しに来たと?」
「そうなのよ、東谷君! どんな女の子に東谷君はトキめいたいするの?」
「それをココで言えってか…?」

チラチラと何故か知らないが樹の方へ視線を向ける。その視線を受けている樹は目線を横にずらし…ヘタな口笛を吹きながら素知らぬ顔をしていた。
実際…この話題を東谷君に相談しようと言ったのは、間違いなく隣で口笛を吹いている乙女なのだが…それは友として言うまい…

「弱ったな…何て言えば良いんだろう…俺はその氷雨先輩の事は知らないし…学生時代って大体彼女いれば勝ち組って思考もあるから…付き合うだけなら簡単に出来るんだけど…美桜の求めてる物ってそんな答えじゃないよね?」
「そういう、男は何人もいたけどさ…そういうタイプでもないみたいなんだよ…」

そういう男が多くて失恋が重なったとは言うまい…などという視線が‥樹からこっちへ向けられている気がする… いやそんな飽きれたようなっ目を向けられても~~
四人で各々持っている弁当を広げて、箸を動かしている間も東谷君は真剣な表情で首を傾げたり、天井を見上げたりと…ほとんど箸を動かさずにいた。

「一つ言えるのは…昔から男は柱で、女は土台だっていう言葉がある。氷雨先輩の悩みや不安を解消して、また相手にも支えられる… そんな関係を築けるのが良いんじゃないかな?」
「氷雨先輩の悩みや不安…? 何だろう…猫が好きそうだっていうのは分かってるけど‥あと何か…この前一緒にいた時にはちょっと指がインクで汚れてた位‥」
「指にインク? もしかして美術部なの?」
「いや、帰宅部のはずだよ」

周りを見ればすでに食事を終えてる他の学生たちが、‥ガタガタと椅子を鳴らしながら…各々で食器を持ったり、空になった弁当箱を持って立ち上がっていた。
アタイの今日の弁当箱はそんなに大きくはなくすぐに食べ終わったんだけど…、東谷君は未だに箸も動かさずに、真剣な表情でこちらを見ながら…

「聞いた限りだけどさ…その人…シャイな感じもするし、いきなり付き合うとかガンガン攻めるよりも、ゆっくりと時間をかけて近づいた方が良いと思うな? つまりは…焦らずに相手の気持ちを考えながら、ゆっくりと時間をかけてね?」
「うぐぅ…!? 確かに…そうかも…知れないね。考えてみたらあの人の気持ちとか、状態とか…あまり考えてなかった」

前々から想っていたが‥この東谷君という人…絶対に年齢が自分たちより上っていうか…年齢詐称をしてるんじゃないかって位に落ち着いてる。
実際、工藤先生が東谷君の事を気にしてるのもソコなんだろうな~と思いつつ…樹の方を見れば…東谷君の言葉をアタイ以上に真剣に考えこんでいる。

「つまり、これはどういう事だ? つまりは…東谷君は互いに分かり合っていたらもう後はGOしろって事か?」
「おい、恋する乙女よ‥お主、男口調に戻ってるぞ?」

澄ました顔で静かに音も立てずに自分の弁当箱を仕舞い、可愛らしいピンクのナプキンで包みながら葵は、こちらに視線を合わせず…今まで自分は関係ないなと会話に参加していなかった彼女の冷静なツッコミが…
東谷君もどこか…昔を懐かしむ様に微笑んでいるみたいだ。

「あっ‥いけないいけない…ボクは女の子だった…」
「樹はテンパると昔に戻っちゃうもんな…」
「東谷君ったら~もう~」

周りの生徒たちが各々残りの昼休みの時間をどこで過ごそうかと、それぞれの想いで足を運ぶ中、アタイはずっと…他の三人から意識を外し考え込んでいた。
そもそも…氷雨先輩って普段から食堂に顔を出してる様子もないし、昼休みにどこにいるのかも知らないんだよな…
そもそも、まともに声をかけたのだって…この前の研修の時が初めてで…その時も道に迷ったふりをしてちょっと一緒に行動しただけだったし…信じられないぐらい相手の事を知らないのに…そういえば…

「もしかして…グラウンドの…あの木の所に行ってるのかな? まだいるか分からないけど、ちょっと行ってみよっかな」

もう半分以上昼休みが終わっちゃってるけど…それでももしかしてまだ間に合うかもと、空になった弁当箱を持って…何かに急かされるように‥足を向けた。
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