指先で描く恋模様

三神 凜緒

文字の大きさ
76 / 88
第二章

美桜の母親の姿と考え方

しおりを挟む
樹たちがは戻ってきたのはそれから数分後だった。結局二人で何をしていたのか気になったんだけど、トイレの場所はやっぱり人目を避けたような場所が良いと、リビングの近くだけど、死角になるような場所が良いかもとか、エサ場は溢しても掃除しやすいように、耐水マットとかを敷いた方が良いとか…

「後は…この子が大きくなったらソファーは諦めた方が良いよね…」
「えっ?」
「確実に爪磨ぎの被害に遭うからね…家にあったソファーも穴だらけだし、後は…クリスマスツリーや、ひな人形とか五月人形も諦めた方が良い」
「……そうなの?」
「うん、ツリーに登られて倒れたり、雛壇に上がって人形を落とされたり…確実に全滅するね。あと毛玉を定期的に吐くから、高い絨毯とかも諦めた方が良い。大抵目の前で吐くらしいから、リビングや自室の絨毯は被害を受ける…」
「うわ~……ちょっとした破壊神だね…」
「結局は~猫を飼うには諦めと理解と、妥協とその他もろもろと…海よりも深い愛情で乗り越えていくしかないね!」

もう時刻も七時を過ぎていき、各々が子猫を見たり撫でたり、その軽さや可愛さを愛でたりと、楽しんでいると時間が過ぎるのが早い物で…七時を過ぎた辺りでそろそろ家に帰らないと親が心配すると…立ち上がりお開きとなっていた。

「東谷君は、氷雨先輩とどんな感じで話していたの?」
「俺か? 猫の話から、鰹節の話題からたこ焼きになって…その後自然と好きな食べ物の話とかになって…好きな食べ物が出てるアニメの話を最後にしてたね?」
「ロボットアニメで盛り上がってた訳じゃないの!? 連想ゲームみたいだね…」

氷雨先輩はあまり喋りたがるタイプではなかったけど、趣味とか好きなアニメの話とかしても、男子と女子じゃ一致する所も少ないかなとやっぱり悩んでしまう。
帰り支度をしてる間、母さんと二人で三人を見送っていたんだけど…その前に東谷君を呼び寄せて、色々訊こうと思ったら当たり前のように樹もついてくるわけで…

「とりあえず、勢いでグイグイ攻めれば良いんじゃない? やっぱり家庭的なスキルを身に着けた方が早い気がするけど…」
「そりゃ、ちょっと前の樹の状態でしょ?」
「ぐはっ!」
「それに今時家庭スキル持ってる男子も多いし、他に何かあるのかな?」
「男が求めてる物ね…人によって違うからな~でも…もしかしたら…」

東谷君ともそれなりに長い付き合いだけど、これほど真剣な表情で悩んでくれている
何か思いついたのか、含みを持たせるような言葉を続けた後に…東谷君は何度も何度も口の中で小さな言葉を呟いていたけど、ふと顔を上げてからこちらを見て…

「もしかしたら、氷雨先輩は…美桜ちゃんのおばさんのような母性的な女性が好みかもしれない…」
「思わせぶりな顔をしてそれかっ! って…まさか、あの時の様子を覗いてたの?」
「………という、冗談は置いておいてだ」
「あっ…冗談だったんだ~? はあ~東谷君の事だから本気かと思った…」
「――――妙に噛み合わない二人だな~」

大丈夫かこの二人は…とは思ったんだけど、東谷君って年齢詐称じゃないかって位大人だなと思ったんだが、お笑いのセンスはないのかな? それとも笑いのセンスがアタイたちと違うだけか…
チラチラと氷雨先輩の様子を見ると、やっぱり仲良さそうに母さんと談笑している姿が…いやいや…まさかね? 大体母さんは父さんと今でもラブラブだし…

「俺の見た感じ氷雨先輩の反応を見るに、美桜ちゃんに対して悪い反応を見せてないし、後は徐々に趣味の話とかしながら、距離を縮めていけばいいんじゃないかな?」
「っ? そっ…そうかな? そうなのかなっ?」
「――――うん、多分ねっ?」
「おおぉ~いぃ~」

そりゃないだろと、弱弱しい声でツッコミをするも、大丈夫だよと何か大人な笑顔でこちらの視線を受け止めて、ポンポンと肩を叩いてくれた。
その雰囲気に不思議と…不安だった心が落ち着きを取り戻して、少し自分の周りの状況を見ると…何か母さんが氷雨先輩に渡していた。

「あ~そうそう、これ良かったらご両親に持っていってあげて? 秋のギフトで主人の取引先から貰ったんだけど‥家じゃビールを飲む人がいなくてね~」
「ビールですか? 俺は未成年だから飲みませんけど…母さんは確かに夜飲んでる時もありますし…ありがとうございます‥って重っ!…これ5L位ありませんか!?」

数日前に家に届いた大きくて重い箱を氷雨先輩に持たせていた。確かに家だと、両親そろってワインとか日本酒は飲むんだけど、ビールはそろって苦手だった…しかし…
娘の友人の高校生にビールを渡す保護者…絵的にはかなり不味い状態に見えるんだけど、本当に良いのかな?
あんな重い物…大丈夫かなと思ったんだけど、氷雨先輩の家はここから徒歩で20分ほどみたいで、そこまで遠くないって聞いたし大丈夫かな?
ただ、何であんな物を氷雨先輩に渡したのか気になってしまった。カリカリのお返しだとは思ったけど、それともちょっと違うような…?
三人が帰った後にそれとなく母さんにそのあたりの事情を訊いてみたんだけど…

――――
――――――――
「あの子の制服を見て分かったわ。三年でもうすぐ卒業だっていうのに型崩れしてない。ちゃんと洗濯やクリーニングを出してるのね。それにワイシャツもアイロンをかけたりしてる。凄く大事にされてる…、親子の仲が良い証拠よ。それに、多分母子家庭」

もうすぐ卒業する…その言葉にドキっと心臓が動いてしまった。そうだ…もうすぐ氷雨先輩は卒業してしまう…それで焦ってしまっているのも確かに自分の心にあった。
樹がそれに気づいているか分からないけど、東谷君は何となくその焦りに気づいてる気がする… だからこそ、何度も焦るなと言っていたんだと思うけど…

「母子家庭なの?」
「ビールやコーヒーのような苦みを好む人ってのはストレスの強い人ほど飲むからね~、女が夜一人で飲むって事は仕事をしている可能性が高いし、父親の話が出ていなかったからね…アルコールは時に人を壊すけど、飲まなきゃやってられない事もあるからね…」
「つまり…氷雨先輩のお母さんに対しての応援みたいな感じ?」
「そういう事ね? 多分苦労してるんじゃないかなって思ったから…」

そう軽い口調で告げながら、胸元につけていた髪留めを手に取ると、作業をしやすいように髪をアップに整えながら、リビングの椅子に座り込みティーカップを手に取り、皆に出していたお茶を一口軽く啜っていた。
普段とは違う真面目な雰囲気の母の姿に…こんな人だったっけ? という疑問や困惑を抱いていたんだけど、次の瞬間には時計を見て硬直をしており…

「あ…いけない! お夕飯の準備していなかった! もうすぐあの人帰ってくるわよね?」
「ああ~~っ!」
「~不味ったわ…今日はコンビニ弁当で誤魔化すしかないわね」

やっぱり…家の母親は、いつも通りの母親だったな…とその時再確認した。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

【完結】あいしていると伝えたくて

ここ
恋愛
シファラは、生まれてからずっと、真っ暗な壁の中にいた。ジメジメした空間には明かり取りの窓すらない。こんなことは起きなかった。公爵の娘であるシファラが、身分の低い娼婦から生まれたのではなければ。 シファラの人生はその部屋で終わるはずだった。だが、想定外のことが起きて。 *恋愛要素は薄めです。これからって感じで終わります。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

処理中です...