指先で描く恋模様

三神 凜緒

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第二章

氷雨家の日常

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「ちょっと…いや、かなり重い…はぁはぁ~」

そのおかげで寒さをあまり感じなかったりもするんだけど…それにしても重い…
プラモの塗装や切断をする時の為にある程度筋肉を鍛えていたりはするけど、自衛隊みたいな訓練をしてる訳じゃないから、やっぱり重い…
しかも缶の重量を加算すれば絶対に5Lを超えてる…これも筋トレの一環だと思って頑張るか~

「この程度で筋肉痛になるんじゃないぞ‥俺の腕…!」

家の前に着き、肩でビールの箱を持ちながらポケットから玄関のカギを取り出し、扉を開ける。他所の家に行くと何とも言えない匂いを感じたりするんだけど…
玄関に重いビールの箱をやっと下ろすと、少し息継ぎを…その間に母さんが軽い足音を立てて玄関へとやって来てくれた。
背筋を伸ばし、息を整えると平気な顔をして

「あらあら…どうしたのこれ?」
「ちょっと…猫を飼い始めたっていう友達の家にカリカリフードをあげたら、お返しにってこれを貰った~て…あれ?」
「どうしたの?」
「いや…何でもない」

汚れ一つないリスの絵柄のエプロンに、ブラウスにタイトスカート…いつもこんな格好だったかなと思ってしまった。普段から全く気にしてなかったのかな…
しきりに首を傾げながら、とりあえず制服を脱いで着替えないと…ああその前にビールを冷蔵庫にしまわないと…、まずは靴を脱ぎ家にあがり、またビール箱を持って台所へ行こうとすると…母さんが後ろから声をかけてくる。

「外寒かったでしょう? ビールはあたしが片付けておくから、まずはお風呂沸かしてるから入ってあったまりなさい」
「わかった~ありがと」

階段を上り自室に入ると…また今朝仕上げたばかりの組み立てたロボットが机の真ん中で仁王立ちをしていた。しっかりと二本の足で立ちライフルを構えてる様はまた格好良いのだけど…上着を脱ぐと、持ち上げてデカールの張り具合に、表面の凹凸がどれぐらい残ってるのかチェックをしていく。

「昨日はツヤ消しまでやらなかったからな…今日仕上げる兵士の方と合わせてスプレーかけておくか…」

今日仕上げるのは、ロボットアニメに出てくる兵士の方の塗装だった…とはいえ、兵士だけを取り扱った専用のキットはなかったので別会社の兵士のプラモを、それっぽく塗装してセットにしようとしているんだけど…果たして売れるのだろうか…

「とはいっても考えても分からないし…、さっさと風呂入るか…」

制服の上着をハンガーにかけて壁にぶら下げると…ワイシャツを脱ごうとして…手を止める。苦笑いをしながら頭を掻いていると…おもむろに、机の上にある鏡を手に取り、寝ぐせをチェックしていく。
どこか変な箇所がないか自分の頭を入念にチェックを終えると軽く一息。

「―――ってっ~! 今更何をチェックしてるんだ~俺は~! 寝ぐせが分かった所で後の祭りだろうに」

頭をもう一度左右に振ると、タンスから着替えを持って下へ。母さんを見ると台所ではもう料理が終わってるみたいで…食べずに待っていてくれたようだ。
横目に今日の食卓に上がるんだろうなっていう…マグロとか、ハマチの刺身…あれはタチウオかな? 色が銀色ぽいしメタリック塗料でやるのも‥ああいう、銀色のボディのロボットも塗装したら面白いかな?

「あ~お風呂急がなくていいから、ゆっくり入ってらっしゃい。お母さんちょっと夕飯前にやる事あるからさ」
「ああ…うん…わかった」

ビールをいくつか冷蔵庫へと入れる様子と、コンロに置かれた鍋…中身はみそ汁かな?
もしかして、俺が寒さと疲れでぐったりしてるのがバレたのかな…平気なふりをしていたんだけど…やっぱりごまかし切れないか…
正直、湯船に浸かって体を温めないと体がきつかったのでありがたい…
脱衣所に行き、服を脱いだらまずはシャワーで体の汚れを落とす。そうしたら、湯船に浸かり足を伸ばしてリラックスすると、頭の中を空っぽの状態に…出来るだけ何も考えないように…考えないように……

「………グハッ…だめだ…何か余計な事を思い出す!!」

何を思い出したかは敢えて具体的には言わないけど…ほんのりと良い香りがして、柔らかそうだった気がする…もう少し強く抱きしめても良かったか…って何を考えてる!
こんな煩悩塗れの頭じゃ良い物は作れない…もっとしっかりしないと…!!


――――
――――――――
「あら? 思ったより早くあがったのね?」
「ちょっと…色々あってさ…あっ…そういう事か…」
「本当にどうしたの? 今日は色々ヘンね…」

いま改めてみて気づいたんだけど…母さんが着てる服って仕事で着てる奴だ。
こんな事に気づかないなんて…普通に頭がぼんやりしてる…フラフラとした頭を頭で抱えながら居間に昔ちゃぶ台の前に座ると、二人で揃って手を合わせから箸を持つ。
お互いに最初は汁物から飲むものだと…同時にお椀を持ち中身を啜ると…

「あれ…今日はちょっとみそ汁が薄いわね…白菜を入れたからその水分で薄まったかしら?」
「そう? 俺はこれでもいけるけど…」

タチウオやハマチから箸を伸ばし、最後にマグロへと箸を伸ばし、三種類の刺身を順番に食べていっては、またみそ汁を啜る。
まるでローテーションのような食べ方をしながら、真剣な表情でいたのが気になったのか…母さんが怪訝な表情でこちらを見ている…

「何か悩みでもあったの? 変な顔してるわね?」
「ええっ!そっ…そうかな? そんな事はないと思うけど…」

いつもなら湯船に浸かって頭の中をリフレッシュしてから、プラモ作成作業に入るっていうのに…今日はすこぶる調子が出ない…いや調子は凄く良いんだけどさ…
色々な事を考えすぎて、正直自分が何を食べているのかなんてよく分からない~
最近ずっと、頭がぼんやりしてるような感じも…頭が疲れているような気もする…

「ごちそうさまっと~今日もまた作業するの?」
「うん、今日中に塗りを終わらせて、明日艶消しして…出品しようと思ってるから」

俺の加工した物を好んでくれてる固定客もいるみたいだし、もうすぐ給料日の人も多い。出品のタイミングとしては…出来れば月末にまとめて出す方が売れやすいと経験で分かっている。その為にも急がないと不味い…
何か最近休むのが下手になってるような気がするんだけど、それって彼女の事を考えすぎて寝不足なのかな?
……などという事は、決して誰にも悟られるわけにもいかず…

「俺もご馳走様、食器片づけるね」
「うん…お願いね?」

台所を覗けば‥洗い場には料理に使ったであろうまな板や刺身包丁、それにお玉や、味見用に使った小皿。お刺身を入れてたであろう発砲スチロールの皿…今日は煮込み料理とかしたわけじゃないから、思ったより洗いものが少ない。
まだ頭の中がすっきりしてないし、少し考えをスッキリさせたいのもあって黙々と洗い物を片付けていく。
掃除をすると心が綺麗になるとか言った人がいるけど、洗い物をしていても少しだけ心が整理されているような気分になる。

「~♪ ~~♪ ~~~♪」
「懐かしい歌ね…母さんが若い頃によく父さんが観てたアニメじゃなかったかしら?」
「世界中の財宝を探す、トレジャーハンターのアニメだったかな~? あれリメイクしてくれたら面白いんだけど…これはすぐに終わるかな」

作業そのものは5分ほどで終わり、俺はビールを片手に動画配信サイトで出されてる刑事ドラマを観ている母に軽く声をかけてから二階にある自室へと向かっていった。
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