指先で描く恋模様

三神 凜緒

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帰宅 その一

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玄関先で彼と別れ、カギの掛かっている家の扉を開ける…
玄関には風水の一つである鏡が置かれており、その下の靴箱には革靴とパンプス以外に、古ぼけたモノと新しい子供用の靴が並べられており、高校生が履きそうな動きやすい白と赤のスニーカーが見える…

「もう履く事もないのに、どうして残しちゃうのかな…ボクって…」

履き潰した靴の数は、歩き回った夢の数だと誰かが言っていたな…
未来へ、明日へ、駆けずり回った証であると、故に常に真新しい靴を求めるなと。
子供の頃、成長と共に小さくなり履き潰した靴を見る度に、自分が大きくなるのが嬉しかった。
それが高校に入ってからだろうか…足の大きさが変わらなくなり買い替えが減ると、それに比例して、未来へ夢を描く回数が減っていったのも…
サッカーをしている彼はきっと、ボクよりも履き潰す回数は多いのだろうか? 
でもボクは、普段から彼の二倍歩数が多いからきっと同じように歩めている筈だ…

「何をバカな事を考えてるんだろう…靴一つで…はあ~」

恋は人をドキドキさせるというが、最近はそれよりも落ち込む事が多い気がする…
溜息を吐きながら、少し古くなったスニーカーを脱ぎ脇に寄せると、居間に向かって歩き出す。居間では明かりが灯っているので誰かいる筈だが…
居間では母が一人で裁縫をしていた…布地の色、大きさを見るに、恐らく歳の離れた妹の服を作っているのだろう。

「あら…おかえり樹…今日は遅かったわね?」
「ただいま~母さん、うん~今日はちょっと東谷君に付き合って遅れちゃった」
「あらあら…相変わらず仲がイイわね?」
「そうなのかな~? あまり自信がないよ~(;^ω^)」

母の言う仲の良いと、ボクの思う仲の良いはかなり意味が違う気がする…
彼にはどうせ、ボクは男友達としか思われないんじゃないかな? 
って、今さら仕方ない事なんだけどさ…呑気に裁縫の続きをしている母の姿を見ると、何ともモヤモヤとしたものを感じちゃう…!
だが、それは結局自分が戦わなければいけない…! 恋の悩みを母親に相談するなんて別に変な事じゃないと思うが…思うんだけど…

「やっぱり制服は肩がこってダメだ~ 部屋に戻るね」

制服を理由に二階へと駆け上がり、ちょっと足音が大きかったのか、隣の部屋にいる妹から「お姉ちゃん、おかえり~~~!!」と元気よく声をかけて貰えた…

「今日は『お姉ちゃん』なのか~ふふふ」

その日の気分で呼び方を変えてくるのだが、何だか妹はこちらの気分を察して呼び方を変えてる気がする…特に最近は『お姉ちゃん』呼ばわりが多いかな?
そんな理解のある妹に「ただいま~」と声をかけ扉を潜ると、自分の部屋へ…
部屋の模様はどう見ても、男の部屋って感じの部屋。青いベッドに、飾り気のない机。白い壁紙が素朴さを感じる綺麗に片づけられた部屋。
今風の女の子みたいに人形を並べる事も、デコったりはした事が無い…
真っ白なガラケーを机の上に置き、学ランを脱ぎ捨て壁のフックに掛ける。となりには女性モノの制服もあるのだが、これに袖を通した事は数えるほどしかない…

「いつか、これが似合う子になれるのかな? う~~ん」

本当はもっと遠慮なく着てみたい…が、着ればきっと彼の前で何も喋れなくなりそう…
この性格…ほんと何とかしないとマズイ…いつまでも男友達のままじゃ前に進めない!

「ああ~~~~、もう~~~何でこんな性格なのかな~~ボクって…」

最近買い始めたピンク色のスカートに、白いカッターシャツを着て、手鏡を手に髪が跳ねていないか確認。そして東谷君が気に入ってくれそうな笑顔の練習をし始める…
軽くピースしたり、ウィンクしたり、色々と可愛くなる角度を研究してみたのだが…

「うん…自分の作り笑顔ほど、わざとらしいものはないな…(-_-;)」
「お姉ちゃん何をしてるの?」

扉がちゃんと閉まっていなかったのか、廊下から妹がじっとこちらを見ていた…!
腰ほどの高さの目線で、ポーズを決めているボクを上から下までじっくりと見てるよ…

「凛香《りんか》……っ! ………見てたの?」
「何も見てないよ~お姉ちゃんが自分の姿に悦に入って、ナルシストになったなんて思ってないよ♪」
「うわ~~~んっ!!」

夕暮れの教室では誰にも見られなかったのに…まさか、ここで妹に見られるとは…
まあ凛香は人に言いふらすタイプの子じゃないから、大丈夫だとは思うけど…思うけど…
頭を抱えて恥ずかしさで悶絶していると、凛香はとても冷静に廊下から見つめている。

「ああ~~もう~~恥ずかしいよ~~~!!」
「お姉ちゃんはいつまで経っても、恥ずかしがり屋な所治らないよね? あたしは違うのに~誰に似たんだろ?」
「あんたは母さんに似たんでしょ? ボクは多分父さん似だよ…はあ~」

そもそも、ボクが生まれた直後は本当にお父さん似だったらしい…父さんはそれを見て、『こいつは俺の子供だ!』と、遺伝子検査しなくても確信したという…
まあ…今のボクは女性的な顔立ちになっているんだけど…父さんとは全然似てない…

「姉妹でこうも、遺伝子が分かりやすく二分するものなのかな?」
「さあ~? 単純に最初は男を立てて母の遺伝子は遠慮したのかもね…表に出るのを。二人とも古風な所あるから…」
「遺伝子まで、夫を立てるのっ!!」
「二人目の生産では、一度立てたから遠慮なく男の遺伝子を蹂躙したのかもね…」
「おおおっ!!」

もしかしたら、一人目をこさえる時と、二人目の時では夫婦関係に変化があったのかも知れない…もしかしたらだけどね…
大袈裟にびっくりしてくれる凛香に笑みを浮かべながら、ふと時計を確認する…

「って、いけない…そろそろ漫才の動画配信をしてるよね」
「おおおっ! そうだった…一緒に見ようと思って来たんだった」
「ほら、凛香♪ 一緒に並んで観よ?」
「うんっ!(^^)!」
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