指先で描く恋模様

三神 凜緒

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女子?高校生の校外学習 その1

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俳句や短歌の良い所は、あまりに短く、言葉を選ぶからこそ、読み手に想像力を掻き立てるモノがある…という事だ。
緻密な計算を元に書く人もいれば、直感で出来ちゃう人もいる。ボクは多分~前者なのかな?
頭の動きが悪くて、色々発案しては悩んで決定と却下を繰り返して、試行錯誤しながら短歌を作る。
その日の朝も、ボクはこれからの事を考えてずっと悩み続けていた。

「結局…何も出来そうにないよ~~~!! 何をすればイイのか、さっぱりのままじゃにか~~!!」

校外学習の日、目覚め一発目でベッドの上で吠える。吠えた所で何かが変わる訳じゃないけど、とりあえず吠える……

「でも結局は……結局はなるようになれ…だよね…うんっ!」

ひとしきり吠えてから、秋になり少し厚くなった掛布団をどけて、肌寒い空気に身を震わせながら寝間着を脱ぎ、学生服に着替える。
吐く息はまだ白くなく、昨日の天気予報では晴れのち曇りだと言っていた。
携帯を取り出し、学校からのSNSを確認すると特に予定の変更もなく、校外学習を執り行うと書いていた。

「はあ~~、やっぱりこのままやるのかな?」

ちょっとだけ…そう、本当にちょっとだけ、大雨でも降って中止にならないかな~? とか考えちゃってる自分がいた…などと、恥ずかしくて誰にも言えない…
どんな名作を見て参考にして短歌を作っても、世界で一番面白くない作品とは何か? と言われば、自分で作った作品に他ならない。
自画自賛する趣味がないだけなのだが、やはり自分の作品ほど遠慮なく酷評しちゃうんだよね…なんて…うううぅ…

「はあ~~、どうすればイイ作品って出来るのかな?」

溜息を吐きながら、足音を立てつつ階段を下りる。同時に、後ろから同じようにドアが開かれ、頭を悩ませているボクに近づき、そっと背中をバシっと叩かれ気合を入れられる…

「お姉ちゃん! な~にを悶絶してるの!!」
「あいたた‥‥もう少しソフトにお願い~でも、目は覚めたかな?」

振り向けばそこにはまだ寝間着姿の妹の姿が。登校までまだ時間あるし、ボクは料理の為に早起きしたけど、この子は一体何の為に…?
寝ぼけてる様子もなく、元気一杯…どこからこの元気が生まれるんだろう?

「悶絶じゃなくて、悩んでるの~あんたはいいよね…気楽そのもので…はあ~~」
「気楽じゃないよ~。お姉ちゃんがまた料理で自爆しないか不安で早起きしたんだからね!」
「その真心に背中が痛くてたまらないよ…あはは…」

まだ短歌を作った訳じゃないのに。このプレッシャーは一体なんだ? 今までずっと準備していたのに、いざその場に立つと逃げ出したくてたまらない…

「凛香~、あんたはまだ短歌を作った事ないから、そんな事を言えるのよ~。結構恥ずかしいのよ?」
「あっはっはっは…そんな事を言ったら、告白も何も前に進む事も出来ないんじゃない? お姉ちゃんは勝負すると決めたんだから、後は頑張って前に進むだけ!」

いきなり妹殿とは思えない格言を述べる…どっかで聞いたセリフだろうか?
ここ数日、料理の特訓をしながら短歌の勉強もしたけど、どれを作っても自信なんて浮かば

「おっ…おう…そうだな…うん…」
「そうそう! 大丈夫~骨は拾ってあげるから!」
「お…! おおっ!…ありがとう? う~ん…って…こら~~!」
「きゃ~~~怒った怒った~~♪」

ない…ただ、料理に関しては少しずつ腕前が上がってるのは実感している。
味に関しては味見すれば美味くなったかどうか、分かりやすいもんね。

「こいつは~っ! もう……あんたと話してると緊張してるのがバカみたいだわ…まったく…はあ~~~」

東谷君に食べて貰ったのは最初の一日だけで、翌日以降は一人で作ったりもしていたんだけど、どうしても上手くいかなくて、母さんに手伝って貰いながら必死に頑張った。

「お弁当作るんでしょ? 頑張ってね!!」
「うん…頑張ってみる!」

いつもそうだ…ボクが意気地なしで何も出来ないでいる。東谷君と仲良くなったのも結局は恋をしていなかったから…出会った頃は…

「朝ご飯もついでに作るけど~? そうめんでイイかな?」
「そうめんはイヤ~! あれすぐに伸びて不味いんだもん!」
「細麺だもんね~あれ…ふふふ」

出会った時の記憶が実は曖昧で覚えていないんだけど、何か…何かあったような気がする。
その時ボクは完全に男として生きていたから、トキメキイベントなんて無かったと思うけど~

「大体、そうめんなんて夏の食べ物じゃない~ 秋に食べるものじゃないよ~?」
「大丈夫よ~、スーパーには年中あるから~季節感なんてもうこの日本にはないもん」
「うわ~(;^ω^) 身も蓋もない…」

そんな他愛無い会話と、世の中の真理を話しながらお弁当を張り切って作り、朝食ものりで作り、皆で談笑しながら食べ始める。

「樹さ…一度でイイから、辛子とかショウガとか入れられないの?」
「ぐぐぅ…だって~、ちょっとしたトラウマなんだもん~」
「もう何て言えばいいのか…分からないわ」
「あははは…お母さんが匙を投げた~!」

何が楽しいのか、キャッキャと笑い遊ぶ凛香。それを穏やかな顔で眺める母さんに、コーヒーを飲みながら愛想笑いをする父さん。
東谷君に合わせて早起きするようになってから、毎日見ている光景。
別にお泊りしに行くわけじゃないのに、妙に…哀愁を感じるのは緊張してるから?

――――
――――――――
「おばさんの話じゃないけど、まだそんな事を引きずってるの?」
「だって、だって~~!! まさか自分の料理で失神するとか思わないじゃない~!」
「トラウマになったのは、料理を食べた東谷君じゃなくて、その作り手にあったか…意外なオチよね?」

何事もない登校に、何事もなかったその日のクラス。
違うのはホームルームでの説明が、校外学習に関しての事である。

「オチって何だ? オチって…そりゃ、他人から見れば喜劇に見えるかも知れないけど、本人は真剣なんだよ~~!!」

バスに乗っての遠出という事で、皆もやや緊張と不安と、興奮を感じる面持ち。
周りのクラスメイトがその話でもちきりの頃、ボクたちはちょっとだけ違う事で騒いでいた。

「樹は何事においても全力投球で、加減が出来ないからそうなっちゃうのよ? 人生ほどほどが一番」
「何か…緊張しちゃって…思いっきりやっちゃうんだよね…ダメだよね~それじゃ」

緊張しやすいからか、0か100か、そのどちらかしか出来ない。
条件さえ満たせば、そんな事もないんだと思うけど、その条件を満たすのは難しい。

「そういえば、ボクはお弁当を用意しておいたけど、二人は用意したの?」
「用意しないと飢え死にしてしまう…ちゃんと自作よ?」
「ええっ!? 葵だけじゃなくて、美桜も? 思いっきり…意外~!」
「おい! どういう意味やねん!!」
「そのまんまの意味でございます~」
「こらっ~~!!」

相変わらず気づけば続くのは漫才的な会話ばかり。
周りのクラスメイトも、仲の良い人たち同士で同じようなバカ騒ぎをしている。
それを冷静にいなし、捌くのが担任の一声。騒いでいた声が静かになる。

「皆さん、校外学習で浮足立っているのは分かりますが、あまり騒ぐようだと、自由行動をナシにしますよ~?」
「は~い!」

渋い感じの声に、落ち着いた面持ち。初老に差し掛かってる先生だけど、ダンディーな感じがして、男子よりも女子から人気があったりする。
怒るとちょっと怖いけど~、滅多な事では怒らないしね。

「安藤先生は向こうで誰と一緒に歌を作るんですか~~?」
「誰か困っている生徒がいないか巡回するだけだよ。ほらほら、皆他のクラスの迷惑になるから、さくっとバスに乗って乗って~」
「は~い」

軽く手を打ちながら皆を促し、廊下へと並び始める。…ぱっと見では担任って、羊飼いみたいだ…(;^ω^) その手早さは熟練の腕を感じますな…

「さすがにやりますな…安藤殿は…ふふふ…」

どこかの三流探偵みたいな訳知り顔で、担任の先生を評価する人が隣におる…(-_-;)
ああいう人をいじると楽しいのはすご~く理解出来るから、黙って皆と一緒に歩き続けた。

「美桜…まだそのノリ続いてるんだね…」
「葵はもうちょっと、アタイ達のノリに付き合いなさいよ~」
「いや~見てるだけでお腹一杯です」
「相変わらずの冷静ちゃんね~もう~」

いや~ボクたちと一緒に漫才をしてくれる葵はちょっと想像できないわ…だってね…
年上好きで、大人っぽい男性に釣り合う為にって、普段から自分を必死に律しているからね。
そうこうしている内にバスの前に辿り着き、順番に並んで乗車していく…

「って…そういえば…、ボクは向こうで東谷君と一緒に行動するけど~二人はどうするの?」
「アタイも…ちょっと一緒にいたい人がいてさ…その人とちょっと…ね」
「なんだと~~!!」

「騒ぎすぎだよ…もう…」
「美桜…まさか恋人でも出来たのか!!」
「そんなんじゃないってば…ただ、新しい友達…友達よ…うん」

『友達』って……その照れて頬を染めながらも、何かに心をときめかせながらも、憂いている様子。この娘は…!!

「ボクがまだ東谷君とそういう関係じゃないのに~~裏切り者~!!」
「ちょ、ちょ、ちょ…ちょっと~~!!」

バスに並んでいる間、ボクは隣の裏切り者の首を掴み振り回そうとすると、それをそっと葵が止めてくれた。

「大丈夫だよ。美桜の性格上、恋人が出来たらもっと自慢する筈だから…まだ片思いの段階の筈だよ?」
「どういう判断基準だ? おい……」
「なっ…なるほど…それならまだ安心か…うん…」

そうだった…何か最近疲れる事ばかりで、冷静な判断能力が欠如していたみたい…
ダメだ、ダメだと、首を何度も振り、冷静になれと己に何度も言い聞かす。

「そうだよね、ボクたち何があっても親友だよねっ♪」
「樹にとっての親友とは何か、一度問いただしたいわね~まったく…」

その様子を他のクラスメイトがちょっと…変な奴らを見るようなまなざしになってる気もするが、気のせいであろう…多分!
そんな自己暗示をかけている間も列は進み、いよいよボクたちの番になった。
バスに入れば、そこは消毒液と人の体臭と、真新しい布地の臭いが立ち込めていた。
その臭いにも数分すれば慣れ、隣の美桜と後ろ側の席へと周り、出発するまでは前にいる葵と三人で立ちながら会話して過ごす。

「とりあえず~山奥で迷子になるのだけは勘弁だよね~ほんと」
「それ…完璧にフラグになってない? 大丈夫かな~」
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