指先で描く恋模様

三神 凜緒

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短編小話 クリスマス?と卵の話

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冬の始まり、年の終わり、白い大地を、一歩一歩と歩く歩みは遅く、冷たい風に吹かれ、顔を伏せてしまう。
凍り付く息をゆっくりと吐きだし、己の体温が奪われていくのを感じる。
時間の流れはゆっくりで、目の前の景色はただ雪の粒が音も立てずに降り積もり、世界を白銀一色に染め上げる。

もうすぐクリスマスの日、あなたは誰と過ごしますか? と尋ねればきっとリアクションは二種類に分かれるのだろう。ボクは…ボクには一緒に過ごしてくれる家族も、好きな人もいる。だから今の瞬間はきっと幸せなんだと思う。
せっかくの御馳走が食べれる日、ボクは張り切ってケーキでも作ろうと、母に教わりながら、スポンジの材料である卵と、砂糖、小麦粉にバターを取り出し、一つずつ丁寧に分量を量りながら材料の準備をしつつ、オーブンに予熱をしすぐに焼き始めれる準備をしていた。

卵を四個、ボクは恐る恐る割ろうとすると、綺麗に真っ二つに割れず、楕円の尖った部分だけ割れてしまい、何か思うように割れない状況が続いた。
それは、母も同じだったようで、料理上手な母がどうしてそうなるのか首を傾げると、母は卵の殻が昔に比べて薄くなり、その代わり中の膜が厚くなって、割れにくくなってると言っていた。

昔の卵に触れた事もないボクは本当か実感は無かったんだけど、母の言葉に偽りは感じない。ボクはどうしてそんな事になったのか訊いたら…母は『恐らく』と付け加えて…

「親鳥に卵に対しての愛情が無くなったからでしょうね」
「愛情が無い?」
「何世代にも渡って、生まれた卵を全て人間に奪われていってるからね。そんなものに愛情を持ち続けたら辛いでしょ? だから…ウィルスに負けないような固い殻もなくなり、卵の中にある『気室』と呼ばれる空間も消滅しちゃったしね~」
「気室?」

聞き慣れない単語に首を傾げていると、母はサンドイッチに使おうとして余った殻を剥いた茹で卵を取り出し、ボクに手渡す。
それは綺麗な楕円形をしており、歪み一つない…そう歪みが一つもないんだ。

「昔の卵だったら、一部に凹みが出来ていたのよ。そこに気室があって、気室の大きさが卵の鮮度を表すみたいなんだけどね~」
「気室がなくて、凹みが出ないんなら…良い事じゃないの?」
「いや…確かにそうなんだけどね…気室が大きくならないって事は、卵の中の水分が蒸発してないって事みたいなんだけど、全くないという事は雛が空気を吸う為の穴が殻や、厚くなったうす皮にないって…事じゃないかな~って…まさかね」

あくまで素人だから、本当の処は分からないけどね~と言いながら、母は軽い鼻歌をしながら、手早くミキサーで卵を混ぜていく…ボクは見学をしながら、色々と勉強していくんだけど…
出来上がったケーキは何か…すごくボソボソになっていた! 何でだろうと首を傾げていると…母はああっ! っと絶叫してから……

「最後にバターを入れるのをすっかり忘れてたわ! 久しぶりだから不味ったわね…」
「そういえば、母さんがケーキ作るのは久しぶりだよね? 何で作らなくなったの…」
「そりゃ、お前……体重がね~~~」
「ああっ……なるほど(;^ω^)」

親子の愛って、こういうやり取りから生まれてくるのかな…? 鶏さん達には感じれない物だとしたら悲しいが…
お互い美味い物ほど、怖い敵はおらんなと言いながら、笑ってそのボソボソのスポンジにクリームを塗り込んでいく。混ぜ物がない分、純粋に美味い…と思う。
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