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迷いは晴れど、霧は立ち込める…
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その空間に温もりを感じるかどうかは、きっと他の人の気配があるかどうか…何だと思う。
ボクにはいつだって家族がいた。こんな自分を変わって欲しいとも言わずいつだってありのままでいる事を許してくれた。
「それじゃ、皆の所に戻ろうか…!」
「ああ、皆心配しているだろうしな…」
この山にはいろいろな物があった。全部を回った訳じゃないけど、どこもしっかりと手入れされていて、きっとお坊さんたちがやっているのかなと思ったんだけど…これも修行なのかな?
…もしかしたら、二度と脚を踏み入れないかも知れない小屋をもう一度見回し、そっと小さく、『ありがとう』と、声をかけてから扉を潜る…
外に出れば、先程よりも深い霧が目の前を覆い、見通しがどんどん悪くなっていく。
もしかしたら、一雨来るかも?という怪しいじっとりと湿った空気を感じる。
「早くみんなの所に戻ろう…もしかしたら、予定を早めて帰る事になるかも知れない」
「うん…さすがに濡れるのは勘弁だよ~」
はぐれないように東谷君の手を握り、先程の果樹園を目指して道なりに歩いていく。
足元をたよりに、こういう道で迷った事って実はあんまりないんだよね。
昔は男の子そのものだったせいか、知らない街や防風林なんかと平気で歩いていたけど、その頃の経験が影響してるのかな?
「あっ…皆集まってるね…良かった…迷子になってる人いないのか…」
「大丈夫だと思うが…お~い中西~高山。二人ともいるか?」
「葵~~と美桜…は…こっちに来てる!」
さすがに人前に来たら手を繋ぐのも恥ずかしくて、ちょっと離れるけど東谷君は気にしていなかった。
東谷君がのんびりとした足取りで、二人の友人に向かうのと入れ違いで、美桜と葵がこちらにやってきて…いきなり襟首を捕まえられるとナイショ話をするように顔を寄せて来た。
「アハハハ…この姿勢好きだよね~」
「おい、この幸せ者め! ちゃんと彼のハートをキャッチしてきたのか?」
「へっ?」
いきなり捕まえられて何かと思ったら…そんな事気にしていたのか!
周りでは急に立ち込めた濃霧に皆で集まって、点呼をして、いない人はクラスのチャットグループなどで呼びかけや合流を促していた。
「美桜…直球過ぎだよ…もうちょっと遠回しに…」
「何言ってるの! 葵だって話を聞いて思いっきり気になっていたじゃない」
「私はただ樹が心配だっただけ。美桜みたいな下世話な趣味はないよ?」
「おのれ…裏切りおったな…同志よ!」
「はいはい…それは良いから~真面目な話、何とかなった訳?」
「うん……一応はね…何とかなったと思う」
少なくとも心のモヤモヤは晴れたと思う。苦笑いで、二人の心配そうな表情に答えると、その様子にまだゴールはしてないのか~っと、深いため息を吐かれた。
「そんな盛大に残念がらないでよ~?」
「そりゃ残念がるよ~ ああいうトラブルの後は二人の距離がグっと近くなるのが定番でしょ?」
周りでは生徒たちの他に、普段着のおじさんたちが生徒たちを駐車場までへの道から逸れないように、一定間隔で道に立っていた。
先程落としたアケビは…どこに行ったんだろう? 視界が悪いせいでよく見えない…
妙に協力的というか、何で校長先生の言う事を聞いてるのかな? その人たちがお坊さん?って訳じゃないと思うけど…髪の毛だって生えているし…
「皆~迷子になる前にバスに戻りなさい。これからの天気次第だが…予定を早めて帰る事になるかも知れないからな~」
「「「は~~~い」」」
東谷君の方も何か楽しそうに話していたみたいだけど、先生の呼びかけに、それぞれのクラスに別れてバスへと向かう事になった。
普通なら担任に案内される筈なんだけど…あれ? 工藤先生がいないな…そういえば、どこにいったんだろう?
「工藤先生はどうしたの?」
「えっ!? 工藤先生なら…東谷君の後を追っていたよ? 途中で会わなかったの…」
「いや…もしかして、東谷君の後を追って来たのかな?」
「みたいだよ? 何か東谷君に樹が女性だと知らされて…結構ショックを受けてたみたいでね…その後焦って様子で森の中へ入って…それっきり…」
「…………大丈夫なのかな?」
さっきの様子から、彼女はこの山に何度も通った事があったみたいだし、例え濃霧でも道に迷わないと思うんだけど…本当に大丈夫なのか…でもスマホとかあれGPSで位置情報も分かるし、迷子になっても大丈夫…だよね?
とはいえ、ボクが心配しても出来る事はないし…東谷君もそれに気づいたみたいだ。二人の友人に詰め寄って、事情を確認しているみたい…
「心配するな…工藤先生にとってこの山は庭のような物だからな…一応捜索はするが…樹ちゃんはバスに戻って待っていなさい…」
「校長先生……分かりました」
工藤先生の事は正直、分からない事が多い。ただ、ボクよりも工藤先生を理解していそうな東谷君が少し…いや、かなり焦ってるように見えたんだ。その横顔が目に焼き付いたまま、ボクはまたモヤモヤした気持ちのままバスへと向かっていったんだ。
ボクにはいつだって家族がいた。こんな自分を変わって欲しいとも言わずいつだってありのままでいる事を許してくれた。
「それじゃ、皆の所に戻ろうか…!」
「ああ、皆心配しているだろうしな…」
この山にはいろいろな物があった。全部を回った訳じゃないけど、どこもしっかりと手入れされていて、きっとお坊さんたちがやっているのかなと思ったんだけど…これも修行なのかな?
…もしかしたら、二度と脚を踏み入れないかも知れない小屋をもう一度見回し、そっと小さく、『ありがとう』と、声をかけてから扉を潜る…
外に出れば、先程よりも深い霧が目の前を覆い、見通しがどんどん悪くなっていく。
もしかしたら、一雨来るかも?という怪しいじっとりと湿った空気を感じる。
「早くみんなの所に戻ろう…もしかしたら、予定を早めて帰る事になるかも知れない」
「うん…さすがに濡れるのは勘弁だよ~」
はぐれないように東谷君の手を握り、先程の果樹園を目指して道なりに歩いていく。
足元をたよりに、こういう道で迷った事って実はあんまりないんだよね。
昔は男の子そのものだったせいか、知らない街や防風林なんかと平気で歩いていたけど、その頃の経験が影響してるのかな?
「あっ…皆集まってるね…良かった…迷子になってる人いないのか…」
「大丈夫だと思うが…お~い中西~高山。二人ともいるか?」
「葵~~と美桜…は…こっちに来てる!」
さすがに人前に来たら手を繋ぐのも恥ずかしくて、ちょっと離れるけど東谷君は気にしていなかった。
東谷君がのんびりとした足取りで、二人の友人に向かうのと入れ違いで、美桜と葵がこちらにやってきて…いきなり襟首を捕まえられるとナイショ話をするように顔を寄せて来た。
「アハハハ…この姿勢好きだよね~」
「おい、この幸せ者め! ちゃんと彼のハートをキャッチしてきたのか?」
「へっ?」
いきなり捕まえられて何かと思ったら…そんな事気にしていたのか!
周りでは急に立ち込めた濃霧に皆で集まって、点呼をして、いない人はクラスのチャットグループなどで呼びかけや合流を促していた。
「美桜…直球過ぎだよ…もうちょっと遠回しに…」
「何言ってるの! 葵だって話を聞いて思いっきり気になっていたじゃない」
「私はただ樹が心配だっただけ。美桜みたいな下世話な趣味はないよ?」
「おのれ…裏切りおったな…同志よ!」
「はいはい…それは良いから~真面目な話、何とかなった訳?」
「うん……一応はね…何とかなったと思う」
少なくとも心のモヤモヤは晴れたと思う。苦笑いで、二人の心配そうな表情に答えると、その様子にまだゴールはしてないのか~っと、深いため息を吐かれた。
「そんな盛大に残念がらないでよ~?」
「そりゃ残念がるよ~ ああいうトラブルの後は二人の距離がグっと近くなるのが定番でしょ?」
周りでは生徒たちの他に、普段着のおじさんたちが生徒たちを駐車場までへの道から逸れないように、一定間隔で道に立っていた。
先程落としたアケビは…どこに行ったんだろう? 視界が悪いせいでよく見えない…
妙に協力的というか、何で校長先生の言う事を聞いてるのかな? その人たちがお坊さん?って訳じゃないと思うけど…髪の毛だって生えているし…
「皆~迷子になる前にバスに戻りなさい。これからの天気次第だが…予定を早めて帰る事になるかも知れないからな~」
「「「は~~~い」」」
東谷君の方も何か楽しそうに話していたみたいだけど、先生の呼びかけに、それぞれのクラスに別れてバスへと向かう事になった。
普通なら担任に案内される筈なんだけど…あれ? 工藤先生がいないな…そういえば、どこにいったんだろう?
「工藤先生はどうしたの?」
「えっ!? 工藤先生なら…東谷君の後を追っていたよ? 途中で会わなかったの…」
「いや…もしかして、東谷君の後を追って来たのかな?」
「みたいだよ? 何か東谷君に樹が女性だと知らされて…結構ショックを受けてたみたいでね…その後焦って様子で森の中へ入って…それっきり…」
「…………大丈夫なのかな?」
さっきの様子から、彼女はこの山に何度も通った事があったみたいだし、例え濃霧でも道に迷わないと思うんだけど…本当に大丈夫なのか…でもスマホとかあれGPSで位置情報も分かるし、迷子になっても大丈夫…だよね?
とはいえ、ボクが心配しても出来る事はないし…東谷君もそれに気づいたみたいだ。二人の友人に詰め寄って、事情を確認しているみたい…
「心配するな…工藤先生にとってこの山は庭のような物だからな…一応捜索はするが…樹ちゃんはバスに戻って待っていなさい…」
「校長先生……分かりました」
工藤先生の事は正直、分からない事が多い。ただ、ボクよりも工藤先生を理解していそうな東谷君が少し…いや、かなり焦ってるように見えたんだ。その横顔が目に焼き付いたまま、ボクはまたモヤモヤした気持ちのままバスへと向かっていったんだ。
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