指先で描く恋模様

三神 凜緒

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第二章

乙女たちの談義

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世界っていうのは、何事かとトラブルが起こってもある程度は予定調和のように物事は進む。ただそれは全体的な流れの事であり、個人レベルでの事となれば実際はもっと多様な結末を迎えるという事になる。
昨日、あたいの前に落ちてた子猫が死のうと死ぬまいと世界にはきっと何の影響も与えない。
人が必死になるのって、結局はそんな小さな出来事の積み重ねなのだろう…

「ボクさ…ずっと前から気になっていたんだけど、何で美桜って何回もフラれてるの?」
「猫について相談してるのに、何故にそこに話がいくかな!?」
「それは、私も気になるわ。だって、美桜って容姿だけを見れば普通にイケてる方だよね?」

次の日のHR後の空き時間、あたいは教室で三人で顔を合わせての雑談をしていた。
正直、翌朝起きたらあの子が死んでるんじゃないかと思ったんだけど、昨日の夜には元気にミルクを飲んでいたので多分大丈夫だよと、樹には言われていたんだけど怖くて仕方なかった。

「そりゃ~、あたいもさ…全く成功しなかった訳じゃないんだよ。たださ…付き合ってみると、イメージが違うって…毎回言われるんだよね…」
「イメージ? 美桜のイメージって…がさつでパワフルで、いかにもタフな感じな?」
「いや、ま~そうなんだけどさ……そうなんだけどもさ! 実は男の人の前では‥その…」
「あ~、猫被っていたって事ね?」
「グサッ!」

葵のするどいツッコミに思わず胸を抑えて蹲まってしまった。
遠慮なく笑ってくれる葵に、何とも言えない笑みを浮かべてる樹。そして、樹からは同情するように優しくポンポンと肩を叩き、優しい声色で…

「美桜の恋愛対象って大体が、真面目そうで優しい感じの人が多いよね? この前の実習でもそれっぽい感じの優しそうな先輩だった気がする」
「そりゃ、美桜みたいなガサツでパワフルな女は苦手だわな‥納得」
「しみじみと納得するな~~~!」
「あ~んっ!ギブギブ!」

じゃれつくように葵に抱き着き、スリーパーホールドをかけるフリをしながら笑っていると、傍らでは真剣な表情で何かを考えている樹がぼそりと呟く。

「最悪、氷雨先輩が強い女性が好きなM気質なのを期待するしかないか…」
「どういう希望的推測じゃ!」

樹のボケに間髪入れずにツッコミをし返す。しかしツッコミを受けた樹からは本気ともとれる驚愕の表情を浮かべ、両手で口元を覆い大げさに後ろに仰け反っている…オイオイ

「えっ! 真面目で優しい感じの虐められたら、悦ぶ感じの年上の男性が好きじゃなかったの!?」
「樹の中のあたいって、そんな感じのイメージだったのか! それってただの冗談…ボケだよね!?」
「あっはっは~♪ さ~どっちだろね?」

こいつは‥どっちとも取れない何とも言えない笑み。葵の首から手を離し、お返しとばかりにちょっと不機嫌そうな鼻息を上げながらドカっと椅子に座りなおす。
それを見て樹も、ゴメンゴメンと謝って来た。本気で怒っていた訳じゃないから別に良いのだけど…今はそれよりも猫の事だ…

「それで、猫の事なんだけど、エサとかはしばらくは猫用のミルクで良いと思うんだけど、離乳食とかは…」
「そうだね~ う~んっ‥ボクの感覚だけど男の人って、基本的には優しい母性的な女性を好む気がする」
「ヤッパリそうよね~、いたいけな子猫を保護して、必死に看病する所とかはポイント高いよね!」
「そりゃ同意するけどさ! 氷雨先輩にもこれで急接近で…! って、二人で何を話してるのさ!」
「そらあんた…子猫をダシに意中の男の心をゲットだぜ作戦の会議?」
「ちいいいがうう~~!」

あたいの心からの絶叫が教室に響き渡るのと同時にチャイムが鳴り響いていた。いや、周りも特にこちらに注意を向けている訳でもなく、ガラガラとイスの足が床を擦りつける音が響き渡り、教科書が机の上に並べられたタイミングで、教師が遅れて中に入ってきた。
田辺先生の「お前ら、今日は授業の後半にミニテストをやるからしっかりと授業内容をきいておくんだぞ?」という一言で皆の集中力が上がっていくのが分かる。
この先生の授業は、毎回その日の授業内容の復習のようなミニテストが多く出るせいか、集中力が皆凄いのだ。
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