追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第三十四話 中編 武術大会

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武術大会の本戦がもうすぐ始まります。
本戦は宝取りです。
自分の陣地にある宝を守りながら敵の宝を奪います。宝が壊れたら失格です。場外に出た選手も失格です。殺し以外はどんなことも許されてます。
私の仕事は試合直前に魔道具の眼鏡をかけて自身で作成した物以外の持ち込みがないか確認して送り出すことです。控え室にも魔道具の鏡があるので、試合の様子を見られます。直接見学できないのは残念ですが生徒会の仕事なので仕方ありません。

私は初戦のチームを送り出しました。
上級生の戦いは迫力が凄いです。煙が撒り、見えません。気づくと勝負が終わってました。
次のチームを送り出す準備をします。本戦が始まれば勝ったチームは控え室で待機です。初戦の直前だけ眼鏡で不正な持ち込みがないか確認します。
選手の顔色が悪いです。

「失礼します」

手を当てて治癒魔法をかけると顔色が良くなりました。眼鏡で確認もおえたので送り出します。顔色が悪い選手ばかりなので治癒魔法をかけてまわります。珍しくソート様やエイベルも顔色が悪いです。

「エイベル、緊張してるんですか?」
「悪い。」

具合が悪いのは仕方ありません。調子の悪そうなエイベルの手を握って魔法をかけます。

「私の力はお兄様のものです。存分に力を発揮してください。怪我は治しますが、できるだけ気をつけてください」

エイベルに頭を撫でられました。今の私の魔法はビアード公爵家のためのものです。今世の私を支えてくれているのはビアード公爵家です。リオのいない世界は寂しくても、あたたかく優しいんです。

「俺にはないのか?」

ふざけているソート様に肩を軽く叩かれました。

「ソート様、兄をお願いします。悔しいですが、兄との連携はソート様が一番です」
「お前の世界はエイベルが中心すぎないか?」
「ビアード公爵令嬢ですから。嫡男のお兄様が一番なのは仕方ありません」

入学するときにビアード公爵よりもエイベルを優先にしなさいと言われました。いずれビアード公爵家を継ぐエイベルの支え方を学びなさいと。エイベルは生前ほどポンコツではありません。たぶん。
ソート様は先ほどまで、からかうお顔をしてたのに、呆れた顔に変わりました。

「お前さ婚姻したらどうするんだよ・・」
「ビアード公爵が一番なのは仕方ありません。妻として精一杯仕えますが、不服なら仮面夫婦で構いません。エイベルのお友達の中からお父様が選んでほしいんですが・・・。フィルが嫡男なのが残念です」
「フィルがいいのか?」
「お兄様も両親もフィルを気に入っていますし、うちの家門にも好かれています。努力家ですし、扱いやすく最高だと思います。でも大事なお友達なので、幸せになってほしいので諦めましたわ」
「淡々と語るなよ。もう少し、可愛らしくお願いすれば受けてくれるかもよ」

フィルは嫡男として家を率いる覚悟を決めています。私はそんなフィルが好きです。当主として、強くなり相応しくなるため努力する姿はエイベルと同じで尊敬してます。

「私が願って家を捨てるフィルは嫌です。信頼できません。私情で家を捨てる者などお兄様の傍にはおけません」
「恋愛結婚全否定だな」
「私はビアード公爵家のためが一番です。ソート様でも構いませんよ。いざとなれば、うちの騎士にもらってもらいます。いってらっしゃいませ」

笑顔でエイベル達を送り出し、ポケットのカードを出します。

「ディーネ、これをレオ様に渡してきてくれる?」
「わかったわ。」

手元のカードが消えました。ディーネが上手くやってくれるでしょう。
なんでこんなに調子の悪い方が多いんですが・・。コクーン様達にも治癒魔法をかけました。全然見学できないんですけど・・・。
顔色の悪いサイラス様に近づきます。

「サイラス様、本戦って選手はこんなに体調不良になるものなのでしょうか。」
「こんなの初めてだよ。ごめん」
「いえ、殿下が私をここに配置した理由がわかりました」

申し訳ない顔をしているサイラス様の手を取り、治癒魔法をかけました。
顔色の悪いリオに手を伸ばすと、首を横に振られました。

「魔法はいらないよ」
「え?」
「魔力厳しいだろ」
「私は魔力が多いので大丈夫です。」
「分けようか?」
「いりません。大事な試合前です。それに手配してありますので大丈夫です」

にっこり笑って強引にリオの手を取り、治癒魔法をかけます。
やせ我慢してたようです。魔法をかければ体の調子は簡単です。昔もよくありましたわ。
心配した顔で見られます。リオは心配性です。傍にいてくれれば何も怖くないんです。冒険者の頃のように、依頼に出かけたリオの無事を祈って待っていた頃とは違います。側にいるならどんな怪我も治してあげられます。

「大丈夫ですよ。リオがいるなら怖いことはないんです。安心して行ってらっしゃいませ」

「レティ」

ディーネが戻ってきました。

「リオ兄様、ご武運を」

リオの手を離して控え室の廊下に出ます。レオ様には内緒で猫を飼っているとお話してあります。

「レオ様、お呼び出ししてすみません」

レオ様が肩に手を当てて魔力を送ってくれます。今世はレオ様の魔力によくお世話になってますわ。

「使い過ぎだな」
「魔力ありがとうございます。選手の体調が優れないんです。フィル達は平気なのに。他の選手は皆・・」
「エイベルも?」
「はい。顔色が悪く。調子の悪いエイベルは初めて見ましたわ」
「なにか仕掛けられてないか?」
「まさか・・」
「調べようか?」
「いいんですか?」
「ああ。」

レオ様が瞳と髪の色を変えました。念のため控え室の中を調べてもらいましょう。
私は仕事に戻らないといけないので余裕がありません。

「レティシア、飲め」

エイベルに渡された飲み物を口に含みます。
ん?この味って…。

「エイベル、これどこで」
「あらかじめ選手用の飲料と補助食が用意してあるだろうが」

なんで気付かなかったんでしょうか。

「マナ、20人分のコップを用意して。今すぐ」

マナに任せれば大丈夫です。マナを連れてきてよかったです。
用意してある飲物を舐めるとこれは私が愛用している毒薬と同じ風味がします。私は毒の耐性があるので舐めるくらいで効果はありません。
フィルはレモン水が欲しいと言うので、作って渡しました。フィル達だけ顔色が良いのはこれを飲んでないからですか・・。
レオ様に囁くとグラスを手に取り止めるまもなく躊躇なく飲まれました。

「レオ様!?」
「耐性あるから。遅効性の毒だな。徐々に体に回って、嘔気と腹痛に襲われる」

悪気の欠片もないいつものお顔のレオ様とはあとでゆっくりと話しましょう。

「あとで、ゆっくりお話しましょう。これ以上、服用したら怒ります」
「は?」

補助食に手を出そうとする手を掴みます。後では遅い、駄目ですわ。

「耐性があっても、見逃すことはできません。大事なお友達に何かあったら許しません」

睨むとレオ様がしぶしぶ頷いたので手をはなしました。
マナが戻ってきて用意したコップに水魔法で冷水を注ぎます。

「マナ、紙とペンを」

用意された飲み物と補助食に、接触禁止と書いて貼りつけます。

「レオ様、私、治癒魔法をかけに回るので、毒を飲む選手がいないようにお願いできますか?レオ様が服用したら許しませんよ。」
「わかった」
「ありがとうございます」

レオ様は嘘をつかないから大丈夫ですわ。
いつの間にか準決勝ですが眉間に皺のあるエイベルに睨まれてます。

「エイベル、ここは私に任せて集中してください。飲物は冷水で我慢してください。マナ、私の部屋にあるおやつをここの方に配れるだけ持ってきてください」
「わかりました」
「まさか」

真顔のエイベルに笑いかけます。エイベルがビアードとして心置きなく戦えるように送り出すのも私の務めです。笑みを浮かべたまま圧力をかけます。

「ここを任されているのは私です。信じてくださいませ。」
「無理はするなよ」
「もちろん。試合を見れないのは残念ですが、仕方ありません。頑張ってくださいませ」
「行ってくる」

ため息をついたエイベルに手を振って見送ります。

「負けた」
「フィル、お疲れ様です。」

傷だらけの悔しそうなフィルに治癒魔法をかけます。

「体力も回復しましたね。手伝ってください」
「は?」
「好物作ります。」

マナがお菓子を並べてます。フィルが早速お菓子を食べ始めました。悔しそうな顔が笑顔に変わりました。まだまだ子供ですわね。
マナから紙とペンをから受け取り、クロード殿下に報告書を書きます。毒物の混入と治癒魔法をかけ対処したことを。
肩に手を置かれて顔をあげると全身が汚れているリオがいました。

「何があった?」
「試合は?」
「負けた」
「お疲れ様でした。」

気まずい顔をするリオの肩に触れて治癒魔法をかけながら、説明します。

「報告は俺が行く。サイラス、ここの出入りを禁止してくれ。穏便に」
「彼は?」

サイラス様にレオ様が見られ、にっこり笑ってごまかします。

「私のお友達です。」
「お友達は俺が借りるよ」

リオはたぶんレオ様って気付いてます。クロード殿下と会えば面倒ですものね。クロード殿下はレオ様を嫌ってます。

「お願いします」

ポケットからおやつのクッキーを渡します。

「移動しながら二人で召し上がってください」
「ありがとう」

報告書をリオに預けて、二人が去っていくのを見送りました。いつの間にか決勝戦です。エイベル達と最上級生の戦いです。
出て行こうとする生徒にお菓子を持って近づきます。

「お疲れ様でした。よければ召し上がってかれませんか?」
「ビアード嬢?」
「ビアード家の者として、実力ある騎士様の心ばかりのおもてなしをさせてください」

にっこり笑って椅子を勧めて、お菓子を渡します。マナがお茶を差し出しました。
マナ、いつの間にお茶を用意しましたの・・。私の侍女が優秀すぎます。
フィルにも控え室から人が出ないように協力してもらってます。

リオがカトリーヌ様と戻ってきました。

「カトリーヌ様」
「レティシア、今は何も起っていないわ。私は後輩の様子を見にきたのよ」

カトリーヌ様に綺麗な笑みを浮かべられ、内密にということですね。

「マール様、カトリーヌ様、ご心配ありがとうございます。滞りなく」
「もうひと頑張りね」

鏡を見ると、試合は終わっていました。エイベルは負けてしまいましたが準優勝でもすごいですわ。
悔しそうな顔で戻ってきました。勝ったチームは残って、表彰されます。

「お疲れ様でした」
「悪い」

悔しそうな顔に笑いたいのは我慢して、穏やかな顔を作ります。

「お兄様は手を抜いたんですか?」
「違う」
「なら謝ることなどありません。私はエイベルが本気で戦ったのなら、ビアード公爵家嫡男として相応しい姿と知ってます。卒業までには優勝を私達に捧げてくださいませ」
「卒業までか」

声に元気が戻りましたわ。

「まだまだ強い方はいます。3年の経験差は騎士の世界では大きいです。個人で勝利を捧げたい方がいらっしゃったら、紹介してくださいませ。譲ってさしあげますわ」
「バカ。」

眉間の皺が消え、いつもの顔に戻りました。

「何があった?」
「明日の準備に入ってください。ここは生徒会にお任せを」
「おい」
「今は詳しいことは話せません。殿下の命令ですわ」

表彰式が終わると、クロード殿下がこられました。
殿下が控え室の選手達に労りの言葉をかけて帰しました。
控え室は関係者以外立ち入り禁止になり、報告すると空気が冷たくなりました。

「武術大会で不正か」
「気付くのが遅れて申しわけありません」
「毒物の混入は予想できない。よくやった」

冷たい空気ですが、初めて褒められました。

「ありがとうございます」
「誰が、仕込んだのか・・。一番怪しいのは、唯一、飲用しなかった」

フィル達が疑われる理由がわかります。でもフィルは絶対に不正はしません。そして名誉のためにも殿下に疑われるのは避けたいです。文門より武門一族はシビアです。

「恐れながら殿下、友人の希望で飲物を用意し渡したのは私です。また友人は私を良く知っています。私を欺きたいなら、こんなにわかりやすい毒を使ったりしません。」
「彼らではないと」
「はい」
「カトリーヌ、任せるよ。レティシアは明日も控え室を。選手達の差し入れの準備は任せられるか?」
「手が足りません。生徒会役員ではない友人を傍におくことをお許しいただけますか?」
「友人が主犯なら、レティシアに責任を問う」
「構いません。」
「わかった。レティシアは控え室の管理を徹底的に。」
「お任せくださいませ。二度と許しません」

明日も忙しそうです。明日は部屋に置いてある水の魔石を持っていきましょう。
ステラとレオ様に手伝ってもらいましょう。
マナに飲物と補助食の手配をお願いします。エイベルの侍従も借りて毒物の混入がないように見張ってもらいます。
武術大会に卑劣な事をする者など許せません。強い騎士に嫉妬して嫌がらせでしょうか。戦いに狡さも必要なことはわかりますがやり方があります。騎士を目指すのに正々堂々戦えないなんて許せませんわ。
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