追憶令嬢のやり直し

夕鈴

文字の大きさ
65 / 286

閑話 武門貴族の認識

しおりを挟む
武門貴族の令嬢で一番人気なのはビアード公爵令嬢である。
常に嫡男である兄を立てて、家門関係なく騎士達にいたわりの言葉をかける。
深窓のまがいものの公爵令嬢と彼女を蔑むのは文官一族達である。
いつの間にか同世代の武門貴族の間で文官一族であり、令嬢に人気のリオ・マールに彼女が目をつけられたと噂になっていた。


騎士を排出する一族の中でも、ビアード家門の訓練は人気がある。
身元が保証され、やる気がありビアード公爵家に危害を加えなければ誰でも受け入れられる。
ビアード公爵夫人とビアード公爵令嬢に危害を加えたら制裁を受けることに了承さえすればだが……。
そんなビアードの訓練場だけで見られる光景がある。
ビアード公爵令嬢が頻繁に訓練場に顔を見せ、差し入れを配り、愛らしい笑顔で激励の声をかけることだ。
俺は初めて見たときに驚いたが、しばらくしてビアードの日常であると気づいた。
そして彼女が訓練に参加する日に出会えるのは運が良いと言われている。
訓練相手は彼女の指導騎士やフィル・カーソン、エイベルの友人ばかりであるが。
とはいえ俺もエイベルの友人として数えられている。フィル達との訓練を終えたレティシアを中心に同世代の男達が集まり話しかけている。

「もうすぐ学園に入学だな」
「はい。ビアード公爵令嬢として頑張ります」

得意なおしとやかな顔で微笑み返答するレティシアに数人の男が顔を赤くしている。


「ビアードと違ってろくでなしがいるから気をつけろよ」
「ろくでなし?」

きょとんと不思議そうな顔で首を傾けるレティシアは言葉の意味がわかっていない。ある意味箱入りのお嬢様は言葉に疎い。

「常に女に囲まれて、何人も恋人を作るやつもいるからな。特にマールには気をつけろ。学園屈指のモテ男だ」
「マール様は私など相手にしませんわ」

男達の言葉を冗談と受け取り、ありえないと笑っている。訓練の後で頬や服が砂で汚れているが、白い肌に日の光を浴びてキラキラ輝く銀髪、華奢で兄とは正反対の小柄な体の少女は美少女である。

「付き纏われたら助けを求めろよ」
「ありえませんが、ご心配ありがとうございます。後輩としてご指導よろしくお願いします」
「ああ。フィル達と同じクラスになれるといいな」
「お勉強はしっかり教えたのできっと大丈夫ですわ」

すでにリオ・マールに目をつけられている自覚はないらしい。
リオ・マールが定期的にビアードに訓練に来る理由がレティシア目当てだろうと察している奴は多い。
俺は実際に二人が一緒にいるところを見たことがないから周りが危惧するほどリオ・マールへの妨害に参加しない。
レティシアは妹分だから嫌がるなら保護してもいいくらいの認識ではあるが。
男達はレティシアがモテる男に全く興味を持たないことに喜びながら、近づかないように忠告している。
フィルがレティシアの手を引いて終わりの見えない話から連れ出した。手を振っているステラを見つけてレティシアは名残惜しげに見る男の視線など気づく欠片もなく駆け出した。
おしとやかな見た目に反して好奇心旺盛なレティシアはフィル達と遊んでいるほうが楽しそうだ。
レティシアの特別になりたい男は多いが相手にされていないのは自分も同じと気づかないのはいかがなものか。俺には関係ないから言わないけど。

***

入学したレティシアは偶然会うとよくお菓子をくれる。
レティシアのポケットからはいつもお菓子が出てくる。お菓子をもらって、別れた後に肩を掴まれ、振り向くと目の据わったリオ・マールがいる。
クラスメイトでもほとんど話したことはない。

「どうして親しいんだ」
「親しいというほどでは……。サイラスも懐かれてますよ」
「ビアード嬢はサイラスにはあんな無邪気な顔を向けない」

無邪気?
レティシアに恋して目が曇ってるんだろうか。普通に笑ってただけだけど。

「気の所為でしょう」
「リオ、絡まない。何してるんだよ」
「俺は挨拶しかされないのに……」
「ごめん。せっかく接点ができたのに全く相手にされないから荒れてるんだよ」
「はぁ……。失礼します」

サイラスに任せて退散した。
ただその後もしつこく話しかけられた。敬語もいらず、リオでいいと言われいつの間にか友人枠に入っているらしい。顔に似合わず強引な人間とは知らなかった。
偶然会ったレティシアにリオが嬉しそうに笑って声を掛けに行く。
レティシアは立ち止まり礼をして、自然な流れで立ち去り、フィル達と楽しそうに話す様子をリオが羨ましそうに見ている。仕方ないか。楽しそうなレティシアの頭に手を置くと、きょとんと見つめられる。

「レティシア、リオともう少し会話を」
「マール様は同じ生徒会ですが何も関係ありません。話すことなどありません。失礼します」

全く興味がなく、関わりたくなさそうだ。レティシアはモテる男が苦手だから仕方ないか。礼をして立ち去りステラに笑いかけ、フィルの頬を引っ張ってるから何か余計なこと言ったんだろうな。あの3人は物凄く仲がいい。リオはいつの間にか令嬢に囲まれている。あんなに令嬢に囲まれているのに本命に相手にされない姿が滑稽に思えてきた。俺はサイラスほど面倒見はよくないから愉快に見守るか。

***
武術大会はリオに誘われ共に組んだ。
いつもは参加しないリオと組むのは初めてだが、風使いは万能だからいいかと思い軽い気持ちで了承した。
最近はリオはサイラスに稽古をつけられている。武術に興味なさそうだったが、何か心境の変化があったんだろうか。
サイラスに一段落したら手合わせしてもらうか。
剣はサイラスが上だ。魔法の手合わせはエイベルに頼むけど。
予選の宝探しの難易度は今年が一番高く初めて本気で探した。
予選を突破し昼食をすませ控え室にいくと担当はレティシアだった。
毎年恒例の道具の検査に回っている。
激励の言葉を笑顔で伝えるレティシアに見惚れる奴が多い。
レティシアは天然で、思わせぶりな言葉に耐性ない奴は勘違いする。

「ビアード様、応援してくれますか!?」
「頑張ってください。ご武運を」
「勝利を捧げます」

笑みを浮かべて去っていく様子を見ながらまたファンが増えることがわかった。控室にはレティシアを知らない奴もいる。レティシアは強さを求める奴には惜しみない笑顔と激励の言葉を贈る。
フィルとレティシアの親しそうな様子を羨ましそうに見ているリオの肩を叩く。

「あいつらはあれが平常だ。特別ではない」
「フォローになってないから。」

俺達はなんでレティシアの観察をしているんだろうか。対戦相手も決まってないし暇だからいいか。
レティシアの話に耳を傾けている奴が多いけど本人は全く気付いてないんだろうな。耳を傾けてもレティシアは笑顔でふざけるから、本気と冗談の見分けがつかない奴は勘違いするから言葉を聞くのは危険だ。言っても信じないだろうから余計なことは口にしないけど。
まさかこの場でもレティシアに婚約を申し込む奴がいるとは思わなかった。
レティシアは笑顔でいつも通り即答で断り、デートの誘いに、サイラスが割り込んだ。
優勝したらビアード領を案内してもらいたいと願うやつが他にも出ないようにサイラスがこっちに連れてきた。別にレティシアが同世代の子息にビアード領を案内するのはそこまで珍しくない。ビアード公爵夫人はレティシアの婿選びに積極的だし、ビアード公爵家の客人の接待はエイベルではなくレティシアが任されるから余計に。サイラスはあまりビアードに顔を出さないから知らないか。
流れ作業で確認をおえて、ご武運をと礼をして立ち去り、リオは全く相手にされていない。

しばらくして吐き気に襲われ、座り込んでいると手を握られ体が軽くなり吐き気がおさまった。

「大丈夫ですか?」
「助かったよ。ありがとう」
「いえ、また具合が悪ければ言ってください。ご武運を」

レティシアは笑みを浮かべて他の奴の治療に回っていた。無詠唱で治癒魔法をかけ、激励の言葉をかける様子に赤面している奴が多い。手を握られて笑いかけられたら免疫ないやつは仕方ないか。
対戦相手がわかっても作戦会議もせずレティシアを見ている選手は多い。
レティシアの好みの男の話に真剣に耳を傾けてる。レティシアがフィルを婿に欲しいという話は俺達の間では有名だ。
ふざけてソートにも婚姻を申し込んでいる。美少女の冗談はたちが悪い。
リオは調子が悪そうだからレティシアの求婚は耳に入ってないらしい。
レティシアがリオに近づいて伸ばす手をリオが断っていたが、強引にリオの手を握り治癒魔法をかけてにっこり笑っている。

「大丈夫ですよ。リオがいるなら怖いことはないんです。安心して行ってらっしゃいませ。リオ兄様、ご武運を」

礼をして離れるレティシアにリオが赤面している。
遊ばれてんな。

「これって脈あり?」
「ないな。あの程度序の口だ。ふざけてるのか励ましてるのかは判断つかない」

サイラスがため息をついた。本当にリオに対して面倒見が良いよな。
俺の周りでリオの応援をしているのはサイラスだけ。
団体戦は上級生は強く2戦目で負けた。
試合から戻るとレティシア達が真顔で話し合っている。
リオが混ざったけど何かあったんだろうか。
用があれば普通に会話はできるのか。リオが出て行ったあと突然レティシアが選手達の接待を始め、餌食になった男がいた。
モテる人間が苦手と言うのに自分がモテることは平気なんだろうか。
自分が美少女とそろそろ認識してほしい。レティシアを美少女と認めないのは当人とエイベルだけである。
リオがレティシアに相手にされず落ち込むのはよくあることだ。
正直、リオがレティシアを落とすのは難しいだろう。
でもサイラスしか味方のいない状況でレティシアの心を手に入れられたらビアードへの婿入りは叶うかもしれない。ビアード公爵は根性のある人間が好きだから。
友人のよしみで、レティシアの婚約者はリオに賭けた。
これでリオが勝てば俺は大儲けだ。協力はしないけど、情報くらいは渡してもいいかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に

ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。 幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。 だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。 特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。 余計に私が頑張らなければならない。 王妃となり国を支える。 そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。 学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。 なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。 何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。 なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。 はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか? まぁいいわ。 国外追放喜んでお受けいたします。 けれどどうかお忘れにならないでくださいな? 全ての責はあなたにあると言うことを。 後悔しても知りませんわよ。 そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。 ふふっ、これからが楽しみだわ。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない

千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。 失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。 ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。 公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。 ※毎午前中に数話更新します。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

処理中です...