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第百十七話前編 心の支え
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アリア様が療養中のため多忙な殿下が楽になるようにと社交のない休養日は執務室でお手伝いをしています。最近は無表情でも健やかなお顔を見ると安堵します。この頃はクロード殿下の執務室で過ごした記憶はないですが手の進みは今世が一番速いです。ただこの殿下は休憩の習慣がないのでそろそろ休んでいただきましょう。今までは休憩に誘ってくださるのはクロード様でしたので変な気分がするのは内緒です。侍従も顔馴染みの侍女もいないので久しぶりに私が用意しましょう。王宮の侍女のお茶の質は個人差が激しいです。お茶が好きなアリア様が療養中、クロード殿下も国王陛下も苦言を言うことはなく技術を磨く必要がないと気が抜けているのでしょう。私が王宮での接待でお茶を振舞う時はマナとロキと王宮侍女は指名しています。いざとなれば自分で淹れて振舞います。おもてなしと理解していただけるお客様には。
「ビアード様、お時間をいただけませんか?」
控えの間でお茶の用意をしていると初めて王宮侍女に声を掛けられました。下位の侍女が私に声を掛けるのは許されません。緊迫した顔を見ると緊急事態でしょうか。怪我人でもいるんでしょうか?
「かしこまりました。どなたかこのお茶を殿下にお願いします」
用意したお茶とお菓子を運んでもらうように頼み案内されるまま進むと休憩室でした。
「こちらにお願いします。お連れしました」
扉を開けると神官様と王宮魔導士様がいました。神官と魔導士は犬猿の仲ですが、珍しいですね。
嫌な予感がして、部屋に入らずに礼をします。
「お初にお目にかかります。ビアード公爵家レティシア・ビアードです。どのようなご用でしょうか」
「国一番の忠臣と謳われるビアード公爵令嬢に相談がある」
ローブを着て顔を隠している王宮魔導士様、神官様からは神職にあるまじきねめつけられるような視線に寒気が走りました。神官様の唇は弧を描いておりこれは変態かもしれません。部屋から離れようと後退するとドンっと背中を強い力で押され部屋に足を踏み入れてしまいました。倒れ込む体を必死でささえ転ぶ醜態を曝すのは避けられましたがバタンと扉が閉まる音が聞こえました。嫌な予感しかしませんが、動揺を隠して穏やかな顔を作ります。王宮で感情を隠して微笑むのは得意です。
「精霊の審議の記録を残したい」
アリア様のうっかりには全て箝口令が敷かれています。勘違いで処刑なんて王家とはいえ醜聞です。陛下も解毒魔法が使えますのに。民達に不安しか与えない事件は闇に葬るべきですわ。闇に葬ってもレオ様に剣を向けたものには違う理由をつけてきちんと処罰しました。もしも次があればクビにしますわ。私の持てる権力の全てを使って。近衛騎士の勉強不足なのでビアード公爵達の恐ろしい訓練指導を治癒魔法で回復させながら受けていただきました。ビアード家門の騎士達は降格させたので給金が減ったのは当然です。愚かな騎士に怒っている場合ではありませんわ。
精霊の審議の記録?
目の前の方達が準備に携われたとしても王族からの箝口令は絶対であり私は無関係を装います。精霊の審議を行えば裁判の判決時に審議の結果も公言されるので社交界で噂になるでしょう。憶測はあっても精霊の審議がされたと確証のある話題をされる方は誰もいません。
「存じません。王家には精霊の審議をした記録はありません」
「記憶を覗かせてもらうだけでいい」
サラリという重罪人への処罰を口にする王宮魔導士様は頭がおかしいのでしょうか。王家の了承もなく、記憶晒しを行う方法もあります。緊急時に明らかな重罪人に対しては記憶晒しをしてから後日に王家に了承をとるという。ですが私は王族の御身を危険に曝していませんし、フラン王国を売国、戦火の渦へ導くような重罪を犯していません。
「私は何か罪を犯しましたか?」
「記憶晒しではない。私達の心に留めよう」
記憶晒しではない?目の前にいるのは変態ですわ。道理が通じず、言葉は聞こえず独特の考えと行動力を持っている。冷たい汗が流れ、震えそうになるのを堪えて、視線を逸らさずに笑みを浮かべたまま幼い頃から言われた言葉を浮かべます。どんな時も優雅であれ。お母様のお説教より怖いものはありません。背筋を伸ばしてどんな時も微笑むと教えてくれたアリア様のお説教も怖かったですわ。王宮での生き抜く方法を授けてくださった二人はいません。なにより頼りない私の手を引いて導き、変態から守ってくれた背中はありません。心を落ち着け、ゆっくりと口を開きます。
「それは私刑でしょうか?ビアード公爵の命があれば受けましょう」
「後世のためになる」
後世のためになりませんと言っても通じないので必要なことだけ言いますわ。魔導士様も未知が大好きです。これが王宮魔導士って大丈夫でしょうか。王宮魔導士は能力主義なので性格は重視されていません。そして王家に忠誠を誓うので逆らえないように魔導具を付けられています。
「ビアード公爵家に取次ぎを。私はビアード公爵と王家の命令以外で受けません」
「すぐに終わる。大事な儀式以外の記憶を覗いても口外したりしない」
魔導士様はともかく神官様には道理が通じて欲しいです。そしてここで私刑を行えば血の海が流れます。王宮で許可なく魔法を使用するのは禁止されています。
「それは矛盾してますわ。正当な手続きでしたら考慮します。ですが、罪なき者、王家の許しなく記憶さらしを行うなど人の道にも法にも反します。私の心の中に留めます。どうかお考え直しを」
「精霊の寵児、愛されし子になるためには力がいるんだ。君の様な子が作れればいずれ女神の化身も」
うっとりと語られますが怪しすぎますわ。本当に必要なら殿下から話があります。
だんだん頭がぼんやりとしきました。部屋を出たくても足が動きません。足元の魔法陣が光り出し、結界を発動しようにも魔力が紡げません。魔法陣を踏んでいる足元から嫌な魔力が流れ込み防ごうにも弾けない。足に気持ち悪い魔力がどんどん絡みついていきます。足は動きませんが絡みつかれていない体はまだ動かせます。
護身用の短剣を使っても一人しか倒せません。ゾクリと寒気とともに、体に嫌な魔力がどんどん注がれて不快感とともに視界が歪み、ぼんやりと浮かぶのはお父様とお母様の顔。ルーン公爵邸の庭園にシエル、どんどん記憶が思い浮かびシュッと突然消える。駄目、このままだと奪われる。庭で手を繋ぐ記憶にないほど幼いエドワードが消えました。
「やめてください。駄目、奪わないで。嫌です。いや、」
何も考えてはいけないのに、どんどん映像が浮かんできます。記憶晒しのあとは記憶が消えるとも言われています。マール公爵邸に伯母様、伯父様、リオとカナ兄様、レイ兄様、
「消えないで、嫌です。お願い、リオ、何もいらないから消えないで」
王宮のお気に入りだった庭園とクロード様の顔が浮かんで、何か言っています。
「レティ、覚えておいて」
そういえば、魔法陣の壊し方を教えてくれました。
護身用の短剣で思いっきり左腕を切り裂き、魔法陣を壊すために魔力に富んだ血で魔法陣を汚す。膝を折って、血で染まりはじめた魔法陣に手を置いて、集中して魔力を注ぎ込むイメージを。術者以外の属性の魔力に汚染されれば魔法陣は壊れる。合同魔法や複雑な魔法陣はバランスが一番大事なので脆いはず。頭に浮かんでくる顔を見たくない。血が足らないからまだうまく魔力が紡げない。もう一度左腕をさらに深く斬って血を流す。利き手は剣を握れなくなるから傷つけられない。痛みと魔力だけに集中して、頭に浮かんでくる笑顔のクロード様も力が全てと思い込む脳筋エイベルも出てこないで。
「魔法陣を、お願い、力を貸して、出てこないで」
いつもなら頭に浮かんでくる幸せをくれる記憶に出てこないでと祈りながら血で汚染された魔法陣の綻びを見つけて魔力を纏い流します。
「レティシア」
歪んだ視界にリオの顔が出てきました。消すために短剣で思いっきり手を突き刺す。もっと痛くなって何も考えられなくなればいい。
「リオ、やだ、お願い消えないで。どうかこれだけは奪わないで。何もいらないから、どうか」
「シア!!」
はっきりと聴こえる声にこれから記憶がシュッと消えるのがわかり、さらに深く突き刺す。
「お願いだから出てこないで!!親愛なる水の精霊、我に力を与え給え」
体中の魔力を、ありったけの魔力を注ぎ込む。頭に響く声を意識しないように唇を噛みしめる。体に馴染む水の魔力が溢れ出たので魔法陣を壊すイメージを。シアと呼ぶ声と共に魔法陣が壊れる音が聞こえてリオが消えました。
***
目を醒ますと見慣れた天井。
ゆっくりとベッドから起き上がるとマール公爵邸の私の部屋にいます。手には包帯が巻かれて、頭を撫でられる感覚に覚えがあります。優しい手の持ち主に抱きつくと温かい。いつも助けてくれる温もりの持ち主。私の世界で一番愛しい人の名前を覚えていることに力が抜けます。
「リオ」
優しく頭を撫で、抱きしめてくれる手に視界が歪み、体の力が抜けます。何を言っても受け入れてくれる、弱い私を抱きしめて、手を引いてくれる愛しい人。どんな私も愛してくれるたった一人の人。
「リオ、記憶取られちゃうって。もう嫌だ。帰りたいよ。シアが消えるなら一緒に消えたい。全部大事なの。偽物でも、リオもクロード様もエディ、シエル、セリア、お父様、お母様」
「大丈夫だよ。何も奪わせたりしない」
優しい声に我慢できなくなりました。ビアード公爵令嬢としては許されません。思ってはいけないとわかっていても、甘やかしてくれる腕と優しい声に必死に作り上げていたものが壊れていきます。
「死ぬのは怖くない。でも記憶が無くなるなら、逃げたいよ。でも私は偽物だからビアード公爵令嬢だから」
「シア、大丈夫だよ。あんなことは二度とさせない。だから今はゆっくり休んで。大丈夫だから。シアの大事なものは俺が守るよ。お休み」
「起きたら記憶が」
「忘れないよ。ずっと傍にいるよ」
抱き上げられ、ベッドに寝かされ優しく笑いかけてくれる顔を見て目を閉じます。目覚めたらいなくなってしまうリオ。それでも慣れ親しんだ温もりに抗えません。手を握ってくれる温もりにさらに力が抜け意識が遠くなっていきます。このまま消えられたらいいのに。
「ビアード様、お時間をいただけませんか?」
控えの間でお茶の用意をしていると初めて王宮侍女に声を掛けられました。下位の侍女が私に声を掛けるのは許されません。緊迫した顔を見ると緊急事態でしょうか。怪我人でもいるんでしょうか?
「かしこまりました。どなたかこのお茶を殿下にお願いします」
用意したお茶とお菓子を運んでもらうように頼み案内されるまま進むと休憩室でした。
「こちらにお願いします。お連れしました」
扉を開けると神官様と王宮魔導士様がいました。神官と魔導士は犬猿の仲ですが、珍しいですね。
嫌な予感がして、部屋に入らずに礼をします。
「お初にお目にかかります。ビアード公爵家レティシア・ビアードです。どのようなご用でしょうか」
「国一番の忠臣と謳われるビアード公爵令嬢に相談がある」
ローブを着て顔を隠している王宮魔導士様、神官様からは神職にあるまじきねめつけられるような視線に寒気が走りました。神官様の唇は弧を描いておりこれは変態かもしれません。部屋から離れようと後退するとドンっと背中を強い力で押され部屋に足を踏み入れてしまいました。倒れ込む体を必死でささえ転ぶ醜態を曝すのは避けられましたがバタンと扉が閉まる音が聞こえました。嫌な予感しかしませんが、動揺を隠して穏やかな顔を作ります。王宮で感情を隠して微笑むのは得意です。
「精霊の審議の記録を残したい」
アリア様のうっかりには全て箝口令が敷かれています。勘違いで処刑なんて王家とはいえ醜聞です。陛下も解毒魔法が使えますのに。民達に不安しか与えない事件は闇に葬るべきですわ。闇に葬ってもレオ様に剣を向けたものには違う理由をつけてきちんと処罰しました。もしも次があればクビにしますわ。私の持てる権力の全てを使って。近衛騎士の勉強不足なのでビアード公爵達の恐ろしい訓練指導を治癒魔法で回復させながら受けていただきました。ビアード家門の騎士達は降格させたので給金が減ったのは当然です。愚かな騎士に怒っている場合ではありませんわ。
精霊の審議の記録?
目の前の方達が準備に携われたとしても王族からの箝口令は絶対であり私は無関係を装います。精霊の審議を行えば裁判の判決時に審議の結果も公言されるので社交界で噂になるでしょう。憶測はあっても精霊の審議がされたと確証のある話題をされる方は誰もいません。
「存じません。王家には精霊の審議をした記録はありません」
「記憶を覗かせてもらうだけでいい」
サラリという重罪人への処罰を口にする王宮魔導士様は頭がおかしいのでしょうか。王家の了承もなく、記憶晒しを行う方法もあります。緊急時に明らかな重罪人に対しては記憶晒しをしてから後日に王家に了承をとるという。ですが私は王族の御身を危険に曝していませんし、フラン王国を売国、戦火の渦へ導くような重罪を犯していません。
「私は何か罪を犯しましたか?」
「記憶晒しではない。私達の心に留めよう」
記憶晒しではない?目の前にいるのは変態ですわ。道理が通じず、言葉は聞こえず独特の考えと行動力を持っている。冷たい汗が流れ、震えそうになるのを堪えて、視線を逸らさずに笑みを浮かべたまま幼い頃から言われた言葉を浮かべます。どんな時も優雅であれ。お母様のお説教より怖いものはありません。背筋を伸ばしてどんな時も微笑むと教えてくれたアリア様のお説教も怖かったですわ。王宮での生き抜く方法を授けてくださった二人はいません。なにより頼りない私の手を引いて導き、変態から守ってくれた背中はありません。心を落ち着け、ゆっくりと口を開きます。
「それは私刑でしょうか?ビアード公爵の命があれば受けましょう」
「後世のためになる」
後世のためになりませんと言っても通じないので必要なことだけ言いますわ。魔導士様も未知が大好きです。これが王宮魔導士って大丈夫でしょうか。王宮魔導士は能力主義なので性格は重視されていません。そして王家に忠誠を誓うので逆らえないように魔導具を付けられています。
「ビアード公爵家に取次ぎを。私はビアード公爵と王家の命令以外で受けません」
「すぐに終わる。大事な儀式以外の記憶を覗いても口外したりしない」
魔導士様はともかく神官様には道理が通じて欲しいです。そしてここで私刑を行えば血の海が流れます。王宮で許可なく魔法を使用するのは禁止されています。
「それは矛盾してますわ。正当な手続きでしたら考慮します。ですが、罪なき者、王家の許しなく記憶さらしを行うなど人の道にも法にも反します。私の心の中に留めます。どうかお考え直しを」
「精霊の寵児、愛されし子になるためには力がいるんだ。君の様な子が作れればいずれ女神の化身も」
うっとりと語られますが怪しすぎますわ。本当に必要なら殿下から話があります。
だんだん頭がぼんやりとしきました。部屋を出たくても足が動きません。足元の魔法陣が光り出し、結界を発動しようにも魔力が紡げません。魔法陣を踏んでいる足元から嫌な魔力が流れ込み防ごうにも弾けない。足に気持ち悪い魔力がどんどん絡みついていきます。足は動きませんが絡みつかれていない体はまだ動かせます。
護身用の短剣を使っても一人しか倒せません。ゾクリと寒気とともに、体に嫌な魔力がどんどん注がれて不快感とともに視界が歪み、ぼんやりと浮かぶのはお父様とお母様の顔。ルーン公爵邸の庭園にシエル、どんどん記憶が思い浮かびシュッと突然消える。駄目、このままだと奪われる。庭で手を繋ぐ記憶にないほど幼いエドワードが消えました。
「やめてください。駄目、奪わないで。嫌です。いや、」
何も考えてはいけないのに、どんどん映像が浮かんできます。記憶晒しのあとは記憶が消えるとも言われています。マール公爵邸に伯母様、伯父様、リオとカナ兄様、レイ兄様、
「消えないで、嫌です。お願い、リオ、何もいらないから消えないで」
王宮のお気に入りだった庭園とクロード様の顔が浮かんで、何か言っています。
「レティ、覚えておいて」
そういえば、魔法陣の壊し方を教えてくれました。
護身用の短剣で思いっきり左腕を切り裂き、魔法陣を壊すために魔力に富んだ血で魔法陣を汚す。膝を折って、血で染まりはじめた魔法陣に手を置いて、集中して魔力を注ぎ込むイメージを。術者以外の属性の魔力に汚染されれば魔法陣は壊れる。合同魔法や複雑な魔法陣はバランスが一番大事なので脆いはず。頭に浮かんでくる顔を見たくない。血が足らないからまだうまく魔力が紡げない。もう一度左腕をさらに深く斬って血を流す。利き手は剣を握れなくなるから傷つけられない。痛みと魔力だけに集中して、頭に浮かんでくる笑顔のクロード様も力が全てと思い込む脳筋エイベルも出てこないで。
「魔法陣を、お願い、力を貸して、出てこないで」
いつもなら頭に浮かんでくる幸せをくれる記憶に出てこないでと祈りながら血で汚染された魔法陣の綻びを見つけて魔力を纏い流します。
「レティシア」
歪んだ視界にリオの顔が出てきました。消すために短剣で思いっきり手を突き刺す。もっと痛くなって何も考えられなくなればいい。
「リオ、やだ、お願い消えないで。どうかこれだけは奪わないで。何もいらないから、どうか」
「シア!!」
はっきりと聴こえる声にこれから記憶がシュッと消えるのがわかり、さらに深く突き刺す。
「お願いだから出てこないで!!親愛なる水の精霊、我に力を与え給え」
体中の魔力を、ありったけの魔力を注ぎ込む。頭に響く声を意識しないように唇を噛みしめる。体に馴染む水の魔力が溢れ出たので魔法陣を壊すイメージを。シアと呼ぶ声と共に魔法陣が壊れる音が聞こえてリオが消えました。
***
目を醒ますと見慣れた天井。
ゆっくりとベッドから起き上がるとマール公爵邸の私の部屋にいます。手には包帯が巻かれて、頭を撫でられる感覚に覚えがあります。優しい手の持ち主に抱きつくと温かい。いつも助けてくれる温もりの持ち主。私の世界で一番愛しい人の名前を覚えていることに力が抜けます。
「リオ」
優しく頭を撫で、抱きしめてくれる手に視界が歪み、体の力が抜けます。何を言っても受け入れてくれる、弱い私を抱きしめて、手を引いてくれる愛しい人。どんな私も愛してくれるたった一人の人。
「リオ、記憶取られちゃうって。もう嫌だ。帰りたいよ。シアが消えるなら一緒に消えたい。全部大事なの。偽物でも、リオもクロード様もエディ、シエル、セリア、お父様、お母様」
「大丈夫だよ。何も奪わせたりしない」
優しい声に我慢できなくなりました。ビアード公爵令嬢としては許されません。思ってはいけないとわかっていても、甘やかしてくれる腕と優しい声に必死に作り上げていたものが壊れていきます。
「死ぬのは怖くない。でも記憶が無くなるなら、逃げたいよ。でも私は偽物だからビアード公爵令嬢だから」
「シア、大丈夫だよ。あんなことは二度とさせない。だから今はゆっくり休んで。大丈夫だから。シアの大事なものは俺が守るよ。お休み」
「起きたら記憶が」
「忘れないよ。ずっと傍にいるよ」
抱き上げられ、ベッドに寝かされ優しく笑いかけてくれる顔を見て目を閉じます。目覚めたらいなくなってしまうリオ。それでも慣れ親しんだ温もりに抗えません。手を握ってくれる温もりにさらに力が抜け意識が遠くなっていきます。このまま消えられたらいいのに。
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