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ビアード公爵令嬢の婚約者12
レティシアはイナリアにどんな乱暴されても優しい笑みを浮かべ諫めながら面倒を見ていたのは二歳になる前まで。
俺はレティシアに乱暴するイナリアを諫めようとしてレティシアに怒られたので傍観している。
イナリアという名の猿を外に捨てようとしただけで大袈裟だ。いずれレティシアが傷つけられた分はやり返したい。
ビアード公爵夫妻はレティシアの幼い頃を思い出すと微笑ましく見ているが、俺は成長すればするほどドン引きしている。
イナリアに一番厳しいのはレティシアだ。
レティシアはイナリアを躾けると決めてからは休養日に頻繁に帰ってくるようになった。
口達者なイナリアが食事中にスプーンを投げようとするのを見て、レティシアが無言で震えていた。
食事中に立ち上がるイナリアのマナー違反を言葉で諌めても、立ち上がろうとしたイナリアを水魔法で拘束している。
レティシアが止めなければ、レティシアに向かってスプーンを投げ、次は隣に座るビアードのナイフやフォークを投げつけただろう。カトラリーの使い方も覚えられないイナリアには料理と共に小さなスプーンやフォークも運ばれる。
レティシアがいないといつも誰かの膝の上に座り食べさせられているのも覚えられない一因だろう。自分で食べるのを嫌がりテーブルの上によじ登り料理を床に落とそうとしたのでレティシアが魔法で拘束して諌めたのは前回の休養日の話。
レティシアはあまりのマナー違反に一瞬体を震わせ表情が抜け落ちてから諌めるが、兄のビアードは口を出さない。
「食事中に席を立つことはいけませんと教えました。スプーンを投げないなど赤子でもできます」
赤子はスプーンを投げられないとは突っ込まない。イナリアのありえないマナー違反を気にかけているのはビアード公爵家ではレティシアだけである。他はお転婆という一言で片付ける恐ろしい感性の持ち主。もしもうちで同じことをすれば母上の恐ろしい説教とカナト兄上からの罰が待っているだろう。
「母上は」
「お母様と呼びなさいと教えましたわ。言葉遣いもいけません」
「レティだって昔は同じだったって」
「記憶にありませんわ。ビアード公爵令嬢に相応しくない行為は許しません。お母様達のように甘くありません。エイベルに頼っても無駄ですわ」
「酷い」
頬を膨らませ潤んだ瞳のイナリアにレティシアが微笑んだ。
「嘘泣きは正しく使わないといけませんよ。常に泣いていたら誰にも相手にされなくなりますわ」
レティシアの教育も時々ズレるんだよな。
演技力の凄いレティシアだから言える。ルメラに教えてもらったと披露する仕草に俺は翻弄されまくりだ。俺以外に使わないことを約束させた。
「どうしてレティは意地悪なの!?リオに嫌われるよ」
睨むイナリアは可愛くない。
レティシアと似た容姿でも中身が変わるとこんなに違うのかと何度も思ってしまう。俺はイナリアが嫌いだ。懐かれているのは迷惑に思っている。
「リオのほうが意地悪ですわ。リオ様とお呼びしなさい。いずれ婿入りしても、家格が高く、年上のリオには礼儀正しくしなければいけません。せめて義兄様です」
綺麗な笑みの美しさは出会った頃から衰えを知らない。レティシアより性格悪い自覚はあるから否定はしない。そしてレティシアよりもイナリアのほうが意地悪、性悪である。
「レティだってリオって」
「リオがしつこいからです。私はずっとマール様とお呼びしたいんですけど」
「レティ、捨てられるよ。お嫁にいけなくなるよ。意地悪な魔女は幸せになれないよ」
レティシアは俺に怒るとお仕置きとして名前の呼び方が変わる。最大の罰は会ってくれなくなる。俺にとって充実した時間がなくなり避けられる日が続くのは恐怖だ。ついレティシアの前で山猿を捨てようとしてレティシアを怒らせたので、反省はしている。
魔女?
イナリアはマセている。猿いや野生児なのに恋愛小説を読んでもらうのが好きなのが不思議で堪らない。文字は読めないので、誰かが読み聞かせている。
「リオ以外にもお話はたくさんありますわ。リオが嫌になったらいつでも、どうぞって。心配不要です」
傍観している場合じゃなかった。
害虫駆除に行かないとか。駆除してもどんどん出てくるよな。日に日に美しさが増すから仕方ないか。
「シア、詳しく聞かせて欲しいんだけど」
「内緒ですわ。最近は卒業が近いのでたくさんお誘いいただきます。リオの女遊びの所為ですわ」
悪戯っぽく笑う顔は可愛い。
俺が女好きの噂は未だに消えないけどレティシアさえ誤解とわかっていればいい。
どうして俺の婚約者はこんなに魅力的なんだろう。ルメラの所為で表情豊かになり遊んでるのがわかっても翻弄されてしまう。ここに二人っきりなら抱きしめて口づけていた。
「お食事が終わるまでは魔法は解きません。きちんと食事なさい。お行儀が悪ければおやつのメニューが変わるのでお楽しみに」
極上の笑みのレティシアを悔しそうに睨むイナリアの将来が心配だ。将来レティシアにさらに迷惑をかけないかが。
生まれてすぐに言葉巧みに話し、運動神経抜群で将来有望と言われ順調に野生児に育っている。休養日に帰ってくるレティシアが厳しく躾けていても、普段が全然駄目だった。
授業を逃げ出し、邸をいつも駆け回る。自己紹介さえマトモにできない。
ビアード公爵夫妻はレティシアは突然令嬢らしく成長したから大丈夫と笑っている。子供の豹変を受け入れるのは寛容なのか危機感がないのか愚かなのか判断に迷う。
レティシアは本物のフリをするのは諦めたと言っていた。レティシアには厨房に忍びこみ、長時間煮込んだ鍋に庭で摘んだ泥だらけの草を入れることも、使用人宿舎の窓を割って飛び込むことも無理だろう。
レティシアの悪戯はさすらいの魔導士として家を訪ね病人を治療したり、孤児院に突然贈り物をしたり善良なものばかりだ。
後ろから抱きつき、突然帰ってくるのを悪戯ですと笑う彼女には絶対に真似できないだろう。
猿の邪魔さえなければ抱き締めていた。人の嫌がる悪戯は絶対にやらない。婚約前の俺への仕打ちに思惑はあっても悪意は一切なかった。
「エイベル、助けて」
潤んだ瞳で見つめられてもビアードは全く動じない。
どの令嬢にも見向きもしないことをレティシアが嘆いている。
レティシアの可愛らしい上目遣いにも反応しないビアードが野生児に反応することはないだろう。
「終わったら遊んでやるよ」
「リオ」
最低限の教養は覚えてもらわないとレティシアが困る。
俺はレティシアの味方だし、無礼な野生児は嫌いだ。ビアードに婿入りするために、口に出しはしないけど。
「簡単だろう?」
「母上、帰ってきて!!悪魔しかいない」
「声を荒げるなんていけませんわ」
叫ぶイナリアにレティシアが静かに言い聞かせた。
悪魔って言葉は突っ込まないのか。
「レティが理想のお姉様なんて嘘!!こんなお姉様いや。邪魔!!レティなんて帰ってこなければいい」
「わかりました。私はルーン公爵家に行きますわ。ルーン公爵に家庭教師を頼まれ迷っていましたが受けます。不要な姉などいりませんね」
美しい笑みを浮かべたレティシアが席を立った。
これは躾なのか呆れなのか怒りなのかよくわからない。
休養日の空いた時間はイナリアにあてていたレティシアはティアラ・ルーン公爵令嬢の家庭教師兼遊び相手を頼まれて受けようか迷っていた。危険な野生児と一緒よりはルーン公爵邸のほうが安全か。
「レティはいなくていい。もう帰ってこないで!!レティのうちはここじゃないもん」
出て行くレティシアの背中にツバを吐いたイナリアはどこで覚えるんだ。
レティシアは魔法を解除していかなかったが食事が終われば解けるだろう。先ほどから静かに食事をしている男に視線を向ける。
「ビアード、いいのか」
「母上からレティシアの意思に任せると言われている。エドワードからルーン公爵邸にレティシアとロキの部屋も用意してあるから歓迎するとも。お礼にルーンの良質な薬草の取引を破格で。ビアードの視察はマールが行くからいいだろう。社交は勝手に回る」
エドワードはすでにビアードと取引してあったのか。ビアードはイナリアのレティシアへの言葉を諫めないのか。
突っ込みたいのはイナリアの振る舞いとレティシアへの酷い言葉についてだが無駄か。
「俺もルーン公爵邸に泊まるから」
「許すかよ。ビアードに婿入りする気があるなら働け。レティシアに近づくな」
ビアードの苦手な内務をほぼ引き受けているのに酷い言い方だ。ここよりもルーン公爵邸のほうが安全だし都合はいいか。レティシアと過ごしていてもイナリアが訪ねればいつも取られる。俺と遊びたいイナリアに譲ってレティシアが仕事に行くという最悪の時間。
婿入りしていない俺のほうが立場は上だからビアードに言われても従う気はない。食事をすませてレティシアを追いかけると学園に帰る支度をしている。
「シア?」
「あの子の居場所ですから。口出しはやめてください」
感情の読めない社交の笑みをするレティシアを抱きしめる。たぶんレティシアはバカの言葉に傷ついた。
「リオ?」
「俺にはシアが必要だ。ここにいらないならマールに一緒に帰ろう。父上達がレティシアを外交官に欲しいって。俺ではなく」
「お戯れを」
「本気だよ。兄上にも引き抜きたいって。臨時外交官も大歓迎だって」
「マールの皆様は優しい。ありがたいですが、甘えるわけにはいきません」
「送るよ。帰る前に出かけるか」
上品に微笑むレティシアを強引に誘い馬に乗せて風で疾走させて遠乗りに出かけた。護衛はウォントに頼んだので木陰で二人っきりにしてもらえる。
遠乗りのおかげか楽しそうに笑う可愛いレティシアを抱きしめて唇を奪う。口づけに驚き、きょとんとうっすらと開いた柔らかな唇を味わいながらどんどん口づけを深くする。段々と体の力が抜けて、瞳を潤ませ頬を染めているレティシアにどんどん熱が上がっていく。
「早く結婚したい」
「お父様に勝ってからですわ」
悪戯っぽく笑う顔も可愛くてもう一度口づける。甘い口づけにどんどん思考できなくなっていき俺の下でうっとりしている無防備な肌を味わうと背中に冷たい水がかかった。
「ディーネ」
手を出しそうになると必ず邪魔をするレティシアの愛猫。ビアード公爵家に内緒で飼っているらしい。青い瞳の猫もレティシアに魅了されてるんだろう。楽しそうにディーネを抱きしめて笑うレティシア。可愛いけど甘い雰囲気が一変するのは虚しい。起き上がったレティシアが子供を見るような顔で俺の頭を撫でる。成人しても子供扱いか。
レティシアと過ごす時間はあっという間だ。冷えてきたのでビアード公爵邸に帰りレティシアを送る準備をする。学園に行く途中に王都に寄り蜂蜜を食べれる店に寄ることにした。ケーキにかけるために添えられた蜂蜜をうっとりと見つめ、ゆっくりと口に含み幸せそうに笑う顔が可愛らしい。レティシアを傷つけた野生児に怒りを覚える。いずれやり返す。
レティシアを送り届けビアード公爵邸に帰るとマナが荒らされているレティシアの部屋を片付けていた。
「手伝うか?」
「お気遣いなく」
ビアード公爵家ではイナリアを溺愛している者と疎んでいる者に別れている。自由奔放な我儘な小さいお嬢様。ビアードのためにと常に笑顔で駆けまわる大きなお嬢様。私情を隠して仕えるのは貴族も平民も同じ。どんな時もレティシアの味方のマナの存在はありがたい。イナリアが生まれてから物が減っていくレティシアの部屋。どんどん生活感の無い部屋になっていく。俺の贈ったリボンも新しく買ったばかりのオルゴールも装飾品も、枕やカーテン、置物、本さえも。
俺はレティシアに乱暴するイナリアを諫めようとしてレティシアに怒られたので傍観している。
イナリアという名の猿を外に捨てようとしただけで大袈裟だ。いずれレティシアが傷つけられた分はやり返したい。
ビアード公爵夫妻はレティシアの幼い頃を思い出すと微笑ましく見ているが、俺は成長すればするほどドン引きしている。
イナリアに一番厳しいのはレティシアだ。
レティシアはイナリアを躾けると決めてからは休養日に頻繁に帰ってくるようになった。
口達者なイナリアが食事中にスプーンを投げようとするのを見て、レティシアが無言で震えていた。
食事中に立ち上がるイナリアのマナー違反を言葉で諌めても、立ち上がろうとしたイナリアを水魔法で拘束している。
レティシアが止めなければ、レティシアに向かってスプーンを投げ、次は隣に座るビアードのナイフやフォークを投げつけただろう。カトラリーの使い方も覚えられないイナリアには料理と共に小さなスプーンやフォークも運ばれる。
レティシアがいないといつも誰かの膝の上に座り食べさせられているのも覚えられない一因だろう。自分で食べるのを嫌がりテーブルの上によじ登り料理を床に落とそうとしたのでレティシアが魔法で拘束して諌めたのは前回の休養日の話。
レティシアはあまりのマナー違反に一瞬体を震わせ表情が抜け落ちてから諌めるが、兄のビアードは口を出さない。
「食事中に席を立つことはいけませんと教えました。スプーンを投げないなど赤子でもできます」
赤子はスプーンを投げられないとは突っ込まない。イナリアのありえないマナー違反を気にかけているのはビアード公爵家ではレティシアだけである。他はお転婆という一言で片付ける恐ろしい感性の持ち主。もしもうちで同じことをすれば母上の恐ろしい説教とカナト兄上からの罰が待っているだろう。
「母上は」
「お母様と呼びなさいと教えましたわ。言葉遣いもいけません」
「レティだって昔は同じだったって」
「記憶にありませんわ。ビアード公爵令嬢に相応しくない行為は許しません。お母様達のように甘くありません。エイベルに頼っても無駄ですわ」
「酷い」
頬を膨らませ潤んだ瞳のイナリアにレティシアが微笑んだ。
「嘘泣きは正しく使わないといけませんよ。常に泣いていたら誰にも相手にされなくなりますわ」
レティシアの教育も時々ズレるんだよな。
演技力の凄いレティシアだから言える。ルメラに教えてもらったと披露する仕草に俺は翻弄されまくりだ。俺以外に使わないことを約束させた。
「どうしてレティは意地悪なの!?リオに嫌われるよ」
睨むイナリアは可愛くない。
レティシアと似た容姿でも中身が変わるとこんなに違うのかと何度も思ってしまう。俺はイナリアが嫌いだ。懐かれているのは迷惑に思っている。
「リオのほうが意地悪ですわ。リオ様とお呼びしなさい。いずれ婿入りしても、家格が高く、年上のリオには礼儀正しくしなければいけません。せめて義兄様です」
綺麗な笑みの美しさは出会った頃から衰えを知らない。レティシアより性格悪い自覚はあるから否定はしない。そしてレティシアよりもイナリアのほうが意地悪、性悪である。
「レティだってリオって」
「リオがしつこいからです。私はずっとマール様とお呼びしたいんですけど」
「レティ、捨てられるよ。お嫁にいけなくなるよ。意地悪な魔女は幸せになれないよ」
レティシアは俺に怒るとお仕置きとして名前の呼び方が変わる。最大の罰は会ってくれなくなる。俺にとって充実した時間がなくなり避けられる日が続くのは恐怖だ。ついレティシアの前で山猿を捨てようとしてレティシアを怒らせたので、反省はしている。
魔女?
イナリアはマセている。猿いや野生児なのに恋愛小説を読んでもらうのが好きなのが不思議で堪らない。文字は読めないので、誰かが読み聞かせている。
「リオ以外にもお話はたくさんありますわ。リオが嫌になったらいつでも、どうぞって。心配不要です」
傍観している場合じゃなかった。
害虫駆除に行かないとか。駆除してもどんどん出てくるよな。日に日に美しさが増すから仕方ないか。
「シア、詳しく聞かせて欲しいんだけど」
「内緒ですわ。最近は卒業が近いのでたくさんお誘いいただきます。リオの女遊びの所為ですわ」
悪戯っぽく笑う顔は可愛い。
俺が女好きの噂は未だに消えないけどレティシアさえ誤解とわかっていればいい。
どうして俺の婚約者はこんなに魅力的なんだろう。ルメラの所為で表情豊かになり遊んでるのがわかっても翻弄されてしまう。ここに二人っきりなら抱きしめて口づけていた。
「お食事が終わるまでは魔法は解きません。きちんと食事なさい。お行儀が悪ければおやつのメニューが変わるのでお楽しみに」
極上の笑みのレティシアを悔しそうに睨むイナリアの将来が心配だ。将来レティシアにさらに迷惑をかけないかが。
生まれてすぐに言葉巧みに話し、運動神経抜群で将来有望と言われ順調に野生児に育っている。休養日に帰ってくるレティシアが厳しく躾けていても、普段が全然駄目だった。
授業を逃げ出し、邸をいつも駆け回る。自己紹介さえマトモにできない。
ビアード公爵夫妻はレティシアは突然令嬢らしく成長したから大丈夫と笑っている。子供の豹変を受け入れるのは寛容なのか危機感がないのか愚かなのか判断に迷う。
レティシアは本物のフリをするのは諦めたと言っていた。レティシアには厨房に忍びこみ、長時間煮込んだ鍋に庭で摘んだ泥だらけの草を入れることも、使用人宿舎の窓を割って飛び込むことも無理だろう。
レティシアの悪戯はさすらいの魔導士として家を訪ね病人を治療したり、孤児院に突然贈り物をしたり善良なものばかりだ。
後ろから抱きつき、突然帰ってくるのを悪戯ですと笑う彼女には絶対に真似できないだろう。
猿の邪魔さえなければ抱き締めていた。人の嫌がる悪戯は絶対にやらない。婚約前の俺への仕打ちに思惑はあっても悪意は一切なかった。
「エイベル、助けて」
潤んだ瞳で見つめられてもビアードは全く動じない。
どの令嬢にも見向きもしないことをレティシアが嘆いている。
レティシアの可愛らしい上目遣いにも反応しないビアードが野生児に反応することはないだろう。
「終わったら遊んでやるよ」
「リオ」
最低限の教養は覚えてもらわないとレティシアが困る。
俺はレティシアの味方だし、無礼な野生児は嫌いだ。ビアードに婿入りするために、口に出しはしないけど。
「簡単だろう?」
「母上、帰ってきて!!悪魔しかいない」
「声を荒げるなんていけませんわ」
叫ぶイナリアにレティシアが静かに言い聞かせた。
悪魔って言葉は突っ込まないのか。
「レティが理想のお姉様なんて嘘!!こんなお姉様いや。邪魔!!レティなんて帰ってこなければいい」
「わかりました。私はルーン公爵家に行きますわ。ルーン公爵に家庭教師を頼まれ迷っていましたが受けます。不要な姉などいりませんね」
美しい笑みを浮かべたレティシアが席を立った。
これは躾なのか呆れなのか怒りなのかよくわからない。
休養日の空いた時間はイナリアにあてていたレティシアはティアラ・ルーン公爵令嬢の家庭教師兼遊び相手を頼まれて受けようか迷っていた。危険な野生児と一緒よりはルーン公爵邸のほうが安全か。
「レティはいなくていい。もう帰ってこないで!!レティのうちはここじゃないもん」
出て行くレティシアの背中にツバを吐いたイナリアはどこで覚えるんだ。
レティシアは魔法を解除していかなかったが食事が終われば解けるだろう。先ほどから静かに食事をしている男に視線を向ける。
「ビアード、いいのか」
「母上からレティシアの意思に任せると言われている。エドワードからルーン公爵邸にレティシアとロキの部屋も用意してあるから歓迎するとも。お礼にルーンの良質な薬草の取引を破格で。ビアードの視察はマールが行くからいいだろう。社交は勝手に回る」
エドワードはすでにビアードと取引してあったのか。ビアードはイナリアのレティシアへの言葉を諫めないのか。
突っ込みたいのはイナリアの振る舞いとレティシアへの酷い言葉についてだが無駄か。
「俺もルーン公爵邸に泊まるから」
「許すかよ。ビアードに婿入りする気があるなら働け。レティシアに近づくな」
ビアードの苦手な内務をほぼ引き受けているのに酷い言い方だ。ここよりもルーン公爵邸のほうが安全だし都合はいいか。レティシアと過ごしていてもイナリアが訪ねればいつも取られる。俺と遊びたいイナリアに譲ってレティシアが仕事に行くという最悪の時間。
婿入りしていない俺のほうが立場は上だからビアードに言われても従う気はない。食事をすませてレティシアを追いかけると学園に帰る支度をしている。
「シア?」
「あの子の居場所ですから。口出しはやめてください」
感情の読めない社交の笑みをするレティシアを抱きしめる。たぶんレティシアはバカの言葉に傷ついた。
「リオ?」
「俺にはシアが必要だ。ここにいらないならマールに一緒に帰ろう。父上達がレティシアを外交官に欲しいって。俺ではなく」
「お戯れを」
「本気だよ。兄上にも引き抜きたいって。臨時外交官も大歓迎だって」
「マールの皆様は優しい。ありがたいですが、甘えるわけにはいきません」
「送るよ。帰る前に出かけるか」
上品に微笑むレティシアを強引に誘い馬に乗せて風で疾走させて遠乗りに出かけた。護衛はウォントに頼んだので木陰で二人っきりにしてもらえる。
遠乗りのおかげか楽しそうに笑う可愛いレティシアを抱きしめて唇を奪う。口づけに驚き、きょとんとうっすらと開いた柔らかな唇を味わいながらどんどん口づけを深くする。段々と体の力が抜けて、瞳を潤ませ頬を染めているレティシアにどんどん熱が上がっていく。
「早く結婚したい」
「お父様に勝ってからですわ」
悪戯っぽく笑う顔も可愛くてもう一度口づける。甘い口づけにどんどん思考できなくなっていき俺の下でうっとりしている無防備な肌を味わうと背中に冷たい水がかかった。
「ディーネ」
手を出しそうになると必ず邪魔をするレティシアの愛猫。ビアード公爵家に内緒で飼っているらしい。青い瞳の猫もレティシアに魅了されてるんだろう。楽しそうにディーネを抱きしめて笑うレティシア。可愛いけど甘い雰囲気が一変するのは虚しい。起き上がったレティシアが子供を見るような顔で俺の頭を撫でる。成人しても子供扱いか。
レティシアと過ごす時間はあっという間だ。冷えてきたのでビアード公爵邸に帰りレティシアを送る準備をする。学園に行く途中に王都に寄り蜂蜜を食べれる店に寄ることにした。ケーキにかけるために添えられた蜂蜜をうっとりと見つめ、ゆっくりと口に含み幸せそうに笑う顔が可愛らしい。レティシアを傷つけた野生児に怒りを覚える。いずれやり返す。
レティシアを送り届けビアード公爵邸に帰るとマナが荒らされているレティシアの部屋を片付けていた。
「手伝うか?」
「お気遣いなく」
ビアード公爵家ではイナリアを溺愛している者と疎んでいる者に別れている。自由奔放な我儘な小さいお嬢様。ビアードのためにと常に笑顔で駆けまわる大きなお嬢様。私情を隠して仕えるのは貴族も平民も同じ。どんな時もレティシアの味方のマナの存在はありがたい。イナリアが生まれてから物が減っていくレティシアの部屋。どんどん生活感の無い部屋になっていく。俺の贈ったリボンも新しく買ったばかりのオルゴールも装飾品も、枕やカーテン、置物、本さえも。
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