【全33話/10万文字】絶対完璧ヒロインと巻き込まれヒーロー

春待ち木陰

文字の大きさ
7 / 33

07/33

しおりを挟む
   
「え? 真田君てメッセージアプリ、入れてないの?」

「いや。メッセージアプリだと『招待』とか『追加』とかの手間が掛かるだろう。下手をしたら世界を巻き戻すたびに登録をし直さないといけなくなるわけだし」

 電話番号を覚えておけば、相手の「許可」など待たずに連絡を取る事が出来る。

「ああ。もしかしてスマホの連絡先に入れていない番号からの着信は拒否する設定にしてたりするか?」

「それはしてないけど……。それってつまり11桁の数字をメモしたりもしないで素の頭で記憶しておかないといけないってことよね?」

「紙に書いてもスマホで打ってもそれ以前まで巻き戻したら全部消えるからな」

「んー……」と知世が渋い顔を見せる。

「無理じゃない? うまい具合に語呂合わせとかになってれば覚えられるかもしれないけど。だって11桁だよ? 一、十、百、千、万……て数えると100億円から999億円くらいの資産を一円玉の数まで正確に記憶するとかになるよ?」

「それは難しく考え過ぎだろう」と大輔は笑ってしまった。

「頭の070とか080を省けば実質は8桁だ。それを4桁と4桁に分ければ歴史の年表を月日まで覚えるのと同じだろう。言うぞ。覚えろ。俺の番号は――」

 と大輔は自分のスマホの電話番号をすらすらと唱えた。

「無理無理無理……私なんて自分の番号も覚えてないわよ。何が『同じだろう』よ。歴史の年表を月日まで覚えることを『簡単』としてんじゃないわよ」

 知世は「はぁ~あ」と此れ見よがしな溜め息を吐いた。

「真田君て頭良いんだったっけ。知らなかったというか興味が無かったというか」

「同じ試験を合格して同じ高校に通っているんだからそこまで頭の差は無いだろう」

「はいはい。天才には凡人の苦悩が理解できないって話よねえ。出来てる人間が言う『やれば出来る』ほど残酷な言葉は無いわよ。いい? 同じ高さのハードルでもね、死ぬ気で飛んでどうにかこうにか越えられたヒトもいれば、軽くまたいで越えちゃうヒトもいるの」

 冗談めかしているつもりなのか知世は大袈裟な表情で辛辣な事を言ってくれる。

「……『天才』に対抗する為であろうとも『ズル』は許されないけどな」

 大輔も張り合って嫌味ったらしく笑ってやった。

「……『ズル』じゃないし」と知世が唇を尖らせる。

「その都度、その都度、全力で頑張ってるもん」

 以前からクラスメート同士ではあったものの真田大輔と長崎知世がまともに会話をするようになってからはまだ数時間分も経っていなかったが、

「『普通』はそんな『都度』なんてないんだぞ。『人生は一度きり』だ」

「一度きりの人生なのに手を抜いて過ごしてるヒトだって少なくない中、私は何度でも何度でも全力で頑張ってるんだから」

「あー……耳が痛いな」

「悪いところよりも良いところを見付けて評価しなさいよ」

「長崎がポリアンナみたいな事を言い出したぞ」

「は? ぽりあんな? どこの街よ。島だったかしら」

「通じるとは思っていなかったが……せめて『誰?』と言ってくれ」

 他の誰にも打ち明けていなかった秘密を共有しているからか、クラスメートの自殺を未然に防ぐなどという漫画やドラマみたいなミッションを共にクリアしようとしているからか、いつの間にか二人の間には遠慮やおためごかしの類いが全く無くなっていた。

 口にする言葉の全てが本音というわけではないものの、相手に気を遣って言いたい言葉を言わずに呑み込むような事はなかった。

 大輔と知世の二人は共犯者や戦友同士のような関係性となっていた。

 事情を知らない当事者以外の人間からすれば本当に「いつの間に?」だ。

 多くのクラスメートたちが大輔と知世のじゃれ合いを横目で見ていた。耳をそばだてていた。大輔はその事に気が付いていながらも全く気にしていなかった。一方で、いつもとは違う気分になっていた知世はクラスメートたちの視線にも何にも全く気が付いていなかった。彼女は気を抜いてしまっていたようだ。

「……それに『ズルだ』『ズルだ』って言うけど私だって文字通りイノチを削ってるわけだし」

 知世は静かに呟いた。彼女はまだ先に大輔が言い放った「悪質な冗談」が「嘘」である事に気が付いていないようだった。

「ああ。その事だけど」と大輔が訂正しようとしたところで、

「あっと。先生が来ちゃったわね」

 六時間目が始まる時刻になってしまった。

 休み時間は終了だ。

 大輔は「後でちゃんと言っておかないとな」と心に留めながら、次の授業の準備を始める。

「はい。席について。時間ですよ。授業を開始します」

 と教卓の奥に立った数学教師も、大輔も、知世も、今のこの教室内に宮下ワタルの姿が無い事に気が付いていなかった。

 気が付いていたのは精々、宮下ワタルと席が近い3~4人くらいだっただろう。

 だがその3~4人も「居ないな」と気が付きはしても「何処に行ったんだ?」とか「どうしたんだ?」とは思わなかった。考えなかった。気にしていなかった。

 誰も宮下ワタルと関わりたいとは思っていなかった。「先生、宮下君が居ません」とは口にしない。彼ら彼女らは、そんな事には気が付いていないという振りを続けていた。

 六時間目の授業が始まって15分も過ぎた頃――ドシャッ! という聞き覚えのあるような音が遠くで鳴ったような気がした。

「……え?」と知世が呟いた。ガガガッと椅子を鳴らしながら大輔は立ち上がる。

「どうした真田。トイレか?」と振り返った教師が大輔に問うた。

 この数学教師は普段から大変にのんきで今の言葉も「注意」ではなかった。

「……先生。宮下が居ません」

 大輔は本日の教室の中にはあるはずのない空席を見付けてしまっていた。

「ん? 宮下? ……ああ。空いてる席は宮下ワタルだったか。そうかそうか」

「宮下はいつから居ませんでしたか……?」

「いつからって……宮下ワタルは休みじゃないのか。そこの席は授業の最初から誰も座ってなかったぞ。先生、誰の席だったかなと考えたからな」

 数学教師が言い終えるよりも早く、大輔は教室を飛び出した。

 廊下の窓から下を見る。

「……くッ」

 そこには宮下ワタルだったモノが落ちていた。

 転がっているというよりも地面に張り付いているみたいに見えた。

「こら。真田。何してるんだ。ほら。教室に戻れ」

 廊下に出てきた数学教師が窓際で立ち尽くしていた大輔の事をようやく注意した。

「……それともやっぱりトイレなのか? 我慢の限界で走り出したら逆にそのせいで決壊しそうになって立ち止まってるとか。生理現象だからな。休み時間の内に済ませておけと言いたいところだが急に催す事もあるだろう。別に行くなとは言わんから。何も言わずに出ていくな」

 大輔に声は掛けるも大輔が注目していた窓の下までは見ようとしなかった教師に、大輔はわざわざ「宮下が」と伝えるような事はしなかった。

 今は何も喋る気にはならず無言のまま大輔は教室内に戻った。

「なんだ? どしたん?」

「今日の真田君、ちょっと……」

 などと教室内はざわついていた。

 そんな中でただ一人、知世だけは「…………」と不安げな顔を大輔に向けていた。

 知世と目が合った大輔は口を結んだまま、そっと首を横に振った。

 ――世界が巻き戻る。

「……ンなんで自殺するのよ!?」

 知世が小声で叫んだ。

「こうなったらもう宮下君が踏み止まるまで何度でもリセットしてあげるわよ。私の寿命が何なんだってのよ。宮下君が自殺する事を諦めるのが先か、私のイノチが尽きるのが先か、勝負よ!」

「今」は五時間目終了後の休み時間だった。大輔は自分の席についていて、知世は宮下ワタルに「やめなさい」と伝えた後だった。

「長崎。落ち着け。その意気込みは凄いと思うが。自分の命まで懸けて相手を助けようとするな。カルネアデスの板を相手に譲ろうだなんて考え方は止めた方が良い」

「かる……何? また意味わかんないんだけど。そんな事よりも私は」

 感情の収まらない知世に大輔は、

「ただの冗談だ。長崎。あの話は嘘だ」

 ようやく言ってやる事が出来た。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

処理中です...