29 / 33
29/33
しおりを挟む真田大輔が学校を無断欠席した翌日。朝のSHR――朝礼で担任教師が、
「真田君ですが昨日から入院していると連絡が来ました。期間は未定ですがしばらくお休みするそうです」
とクラスに告げた。
ざわつくクラスメートたちに先駆けて、
「え……ッ!?」
と一際大きな声を上げたのは宮下ワタルだった。
「病気ですか? 怪我ですか?」
大輔が居ない席の隣から質問が飛んだ。川村久美子だ。
「原因不明だ」と言われたら「私の呪いがかかったんだ」とほくそ笑むのだろうか。知世はどす黒い妄想をしてしまった。……落ち着いて。彼女はまだ何もしていない。
「はい。静かに。静かに。騒がない。えー、真田君は体調不良との事ですが詳しい話は聞いておりません」
「入院するほどの体調不良ってなに?」
「食中毒とか?」
担任の注意も虚しく教室内はざわめき続けていた。
リセットによって大輔の2打席連続ホームランは無かった事になってしまっていたが、これまでに大輔が自力で培ってきた影響力の強さというのかクラスメートたちの関心の高さがざわざわとよく表されていた。
「真田君もどのくらいお休みしないといけないのか分からないそうで、もしかしたらすぐにまた学校に来られるようになるかもしれないとの事ですので大袈裟に騒いだりしないようにしてください」
「わかりましたね?」と最後に強く念を押されたクラスの皆は、
「はーい」
だの、
「へーい」
だのと頷いていた。
「真田君、どうしたんだろうね」
「体調不良って病気? 病気だったら病気って言ってる?」
「でもすぐに復活するんでしょ? だって真田君だし」
「今日もまだお休みなんだね、真田君」
「あー、ったく。真田が居ねえからC組に負けたし。たかがバスケで勝ったくらいで調子に乗ってんな、アイツら。くそ。次の体育までには真田も戻ってくっかな?」
「掃除の班、決め直さないとダメかな。真田君が居ないだけで大変すぎるんだけど」
「せんせー。明日の日直、私と真田君なんですけど。はい。じゃあ男子をひとりずつズラすってことで」
真田大輔の不在を始めこそ気にしていたクラスの皆だったが二週間もすれば完全に受け入れてしまっていた。慣れてきていた。
それから更に数日が経ち、クラスの皆にとっては「真田大輔が居ない」事が普通になりつつあった頃、
「えー。しばらくお休みしていた真田君ですが正式に休学届けが出されまして――」
担任教師が大輔の休学を発表した。
「えー!?」とその場では幾らかの声が上がりもしたが以前の「入院」の時のように次の休み時間の話題が「真田大輔」一色になるような事はなかった。
時は流れて季節が変わる。
クラスメートでは唯一、宮下ワタルだけがなにかにつけて、
「そういえば。真田君、どうしてるかな。まだ入院中なのかな。何か聞いてる?」
と尋ねてきたりもしていたが知世には「わからない」としか答えられなかった。
嘘ではない。本当に知世には「わからない」のだ。
大輔が入っている病院の名前も知らない。大輔の自宅の場所も知らない。
携帯電話の番号は知っているが……鳴らす事は出来なかった。
知世は、いつの日か大輔が教室に現れて「おはよう」と言ってくれる事を願って、ただ待ち続ける事だけしかしていなかった。
「だって。ほかになにができるのよ……」
冬が過ぎて、春が訪れる。
高校二年生だった知世たちも三年生になった。最終学年生だ。そして多くの生徒が受験生にもなる。真田大輔は休学したまま、進級もしなかった。
このまま、また一年が過ぎてこの高校を卒業したらもう真田大輔が目を覚ましたとしても知世が大輔と会う機会は無くなるのだろうな。そう思ったら――。
「……腹が立ってきたわね」
だってそうじゃない。
大輔は言っていた。
「俺を頼れ」と。
居ない人間をどうやって頼れば良いのか。
大輔は言っていた。
「俺も居る事を忘れるな」と。
何処に居るのか。病室か。話す事も会う事も出来ない人間は居ないのと同じだ。
大輔は言っていた。
「長崎は決してこの世界に独りではないからな」と。
真田大輔は大嘘吐きだ。
大輔は知世が初めて完璧でない自分を見せてしまった相手だった。知世のリセットでも振り切る事が出来なかった初めての人間だった。
大輔は自発でリセットこそ出来ないがその影響の受け方は知世と同じだった。ある意味で知世と対等な――恐らくは世界で唯一の仲間だった。
「長崎は決してこの世界に独りではないからな。俺も居る事を忘れるな。俺を頼れ」
知世はまるで呪文でも唱えるかのように大輔が過去に言った台詞をそらんじた。
そして知世は、
「……発言の責任は取りなさいよ。真田君」
深く深く――リセットした。
此処は廊下の隅の奥。
知世が初めて大輔と言葉を交わした日。
知世と大輔はクラスメート同士だ。厳密に言えば初めての会話ではないだろうが、知世の意識としては生まれて初めて他人と本音で言葉を交わした。
「だから。なんで真田君は覚えているのって聞いてるの。リセットする前のことを」
「……知らない。分からない。俺が教えてもらいたいくらいだ」
軽く喧嘩腰で言い合った。懐かしき思い出の場だ。
今現在、知世の目の前には大輔が居た。
けれども動かない。大輔に意識は無かった。
立ってもいられずに崩れかかった大輔を知世は抱き留める。
重い。でも一緒に倒れてなんてあげない。知世は「ん」と自身の体に力を込める。
「……真田君」
耳元で声を掛けるもやはり返事は無かった。
少しして。知世の背後の窓の外、宮下ワタルが逆さまに落ちていった。
――ドシャッ!
これでもう取り返しはつかない。
宮下ワタルを救ったのは大輔だ。その大輔はもう動かない。宮下ワタルの自殺を、物理的にならともかく本質的に阻止する事は知世には出来ない。
「諦める事と事実を受け入れる事の違いってなんなのかしらね」
知世はふとそんな事を思った。
ここから先の時間に進む事は宮下ワタルの自殺を容認する事となる。
しかし「完璧な長崎知世」としては、クラスメートの自殺など許容できるものではなかった。知世は完璧でないといけないのだ。そう思って生きてきた。
「……残された道はひとつね」
前に進めなくなった知世はもう後戻りしか出来ない。
覚悟は決まった――リセット。
10月某日。現在の知世が心に留めている事が二つだけあった。
「同じ道を『完璧』に辿る」
同じ道。同じ道。オナジミチ……――そうすればまた「彼」と出逢える。
「サナダ・ダイスケ」
それが「彼」の名前だ――……コンドハワスレナイ。
今はまだこの世界に存在していない。
「彼」が産まれるのは今から二十何日後だった。
長崎知世はリセットによって17年余りもの時を遡っていた。
現在の知世は生後6ヶ月だ。
(半年でも私の方がお姉さんで良かったわ。真田君の方がお兄さんだったら、こんなことはできなかったもの。)と思いたい状況だったが残念ながら生後6ヶ月の知世はそこまで理路整然とした思考は出来なかった。
このたびのリセット直前に知世が考えた事は、
「仮に真田君の心がショックで死んでしまったのなら、真田君が生まれる直前にまで戻って、真田君の心も体も全部まとめてイチから産み直してもらえばいいのよ」
であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる