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未来の国からあらわれるの巻
しおりを挟む農家の一人息子であるノービスが草むしりの仕事をサボって、農具などの置き場となっている畑小屋で昼寝をしていると――ガシャーンッ! 突如、大きな音がした。
「な、なんだッ!?」
とノービスは飛び起きた。音のした方に目を向けてみると、細かな道具をまとめて入れていた行李の蓋が宙に飛んでいた。その蓋は低い天井にぶち当たって、勢い良く床に転がった。
「ばばば、爆発? な、なんなんだ? なんでだ?」
へっぴり腰となりながらもノービスは蓋と行李とを交互に見遣る。すると、
「……君がノービス君か?」
行李の中から一人の男性がのっそりと姿を現した。
「は? え? 何で?」とノービスは混乱をしてしまう。
たった今、この男性が確かに出てきた行李の縦横の幅はまだしも高さなどは大きめのカボチャを隠せるかどうか程度しかなく、とてもではないが人間が一人、すっぽりとその中に収まっていられるような大きさではなかった。
「……ノービス君ではないのかな?」
混乱のあまり「はい」とも「いいえ」とも答えられていなかったノービスに対してじっと向けられていた男性の目がまるでギロリと睨むみたいに細められた。
その迫力に思わず、
「ひゃあッ!?」
とノービスは情けない悲鳴を上げてしまった。膝が震える。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと。何してんの。無駄に怖がらせないでよ」
男性の声とは確実に別の声が男性の方から聞こえてきて、
「え?」
ノービスは目を見張る。辺りを見回す。けれどもその声の主らしき人物は何処にも見当たらなかった。確かに見当たらなかった。今の今までは。
「え? え? え?」
男性の足元、前述の行李から「よいせ」といった掛け声と共に十一歳のノービスと同じくらいの年齢と思われる少年が現れた。何度でも言うがその行李には子供だろうとも人間が入っていられるような高さは無かった。
「なになになになに? どうなってんだ? 行李からヒトが生えた!?」
信じられない光景を連続して目の当たりにしてしまったノービスは、実は行李の底に大きな穴が空いていて秘密の地下室的な場所から彼らが出てきたなどという多少は現実的な想像にも至れていなかった。
「……そちらも十分、無駄に怖がらせているみたいだが」
男性はギロリのままの目で少年の事を見た。見られた少年は、
「あれえ?」
少しも怯んだ様子は無く、ただの困り顔を見せていた。
どうやってあの行李から現れたのか、それは一先ず置いておいて。ノービスは、
「あの。あなた方はどちら様なのでしょうか?」
恐る恐ると二人に尋ねた。
少年は「…………」と無言のまま、目だけでもって男性に先を譲る。促す。
男性は面倒臭そうな態度を少しも隠そうとはせずに、ぼそりと答えた。
「……僕奴羅右衛門」
ぼくどらえもん?
「えっと。それは名前? それとも挨拶の言葉とか」
聞き慣れない響きの言葉に困惑してしまっていたノービスに、
「羅右衛門が名前で。僕奴は……階級というか、まあ、肩書きみたいなものだね」
少年が補足の説明をしてくれた。しかし、
「ああ。僕の名前はオニオン。ノービスおじいちゃんの孫の孫だよ」
オニオンと名乗ったこの少年もまた急に意味の分からない事を言い出していた。
「は? 『孫の孫』? は? 『ノービスおじいちゃん』? 俺まだ十一歳だぜ? 子供も居ないし結婚もしてないのに『孫の孫』なんて居るわけがないだろ」
正論でしかないだろうノービスの反論にオニオンは、
「うん。今はまだね」
と余裕の表情を見せる。ノービスはちょっとイラッとしてしまった。
「何だよ『今は』って。屁理屈か。そりゃあ何十年後かには俺にも『孫の孫』が出来てるかもしれないけどな。『今』はまだ居ないんだったら。『今』ここに居るお前が俺の『孫の孫』なわけがないだろう。この嘘つきめ」
「うわ。急に強気」とオニオンが笑う。何だ、コイツ。ムカつくなあ。
「落ち着いてよ、おじいちゃん。僕はその『何十年後』から来たんだ」
「ああ? 何だってえ?」
「正確には『百四十八年後』から。この羅右衛門の秘術――まあ、魔法でね」
「はあ?」とノービスはチラリと男性に疑いの眼差しを向ける。チラリだけだ。ジロジロと見てしまってはまたあの迫力で睨み返されてしまう。あれは恐過ぎた。
ちょっと背が高くて、強そうな肉体をしていて、凄く迫力のある目はしていたが、それでもただの人間にしか見えない。たとえこの男性がどれだけ優秀であったとしてもだ、エルフ種でもなければ獣人族でもないただの人間が使う魔法では火や水の球を勢い良く飛ばす事くらいが精々で、時を遡るだなんて大仰な事は何がどうなろうとも出来るはずはなかった。そんなものは小さな子供向けの童話や絵本の中でカミサマの類いが頑張って頑張ってようやく発動させられるかどうかといったレベルの魔法だ。はっきり言って現実には存在するわけがない空想上の御業だった。
「は~あ」とこれ見よがしに溜め息を一つ吐いてやってから、
「どうやってその『百四十八年後』から来たのかとかその辺の事はまあ置いておいたとして。何をしに来たんだって話だよ。俺の『孫の孫』は」
ノービスは自身の『孫の孫』に詰め寄った。字面だけでみると究極的に大人げない行為だ。オニオンが微笑む。
「それはね、ノービスおじいちゃんを『幸せ』にする為だよ」
「はあ?」
ノービスがその顔を酷く歪ませる。皮肉にも「幸せ」とは程遠い表情だった。
「何でだよ」
「うん。『何でだよ』。それはこっちの台詞でもあるんだけどさ」とまたオニオンは意味の分からない事を言う。
「ノービスおじいちゃんがどんな想いで一生を過ごしたのかは知らないんだけどさ、その死の間際におじいちゃんは世界を呪っちゃったんだよね。幸か不幸か――いや、結果を見れば『不幸』なんだけど――普通だったら当然のようにスルーされるような『呪いの言葉』をたまたま耳にしちゃった八百万の神々の内の一柱が『願い』として処理しちゃってね。おじいちゃんの死後、この世界は呪われちゃったってわけ」
「は? はあ?」
「それで。そのツケをおじいちゃんの子孫の僕らは払っていると」
「う……ああ、すま、う~ん……」とノービスは何だか申し訳ない気持ちにはなってしまったが、普通に考えればオニオンの言葉は全て「嘘」となる。常識的に考えればそのような事は有り得ない。ただの言い掛かりだ。まだ生まれてもいない「孫の孫」を騙ってたかろうとしているようにしか思えない。新手の霊感商法か。
信用など全く出来ない。信じられない。それに。万が一、彼の言っている事が全て本当だったとしても、事実だったとしても、少なくとも「今」のノービスはまだこの世界を呪ったりなんかしていない。まだやってもいない事の責任は取れない。そこに責任だなんてものはまだ発生もしていない。だからノービスが「孫の孫」である彼に何を申し訳なく思う必要もないはずなのだが、何だろうか。もやもやとしてしまっているこの気持ちは。
「ええと。その呪いっていうのは具体的に言うとどんな? その。そんなに酷いものだったのか?」
純粋な疑問ではなく、ノービスの中で勝手に膨らんでいってしまう妄想の歯止めとしての意味合いも含めてオニオンに尋ねていた。
「うーん。あれを凄く酷いと思うかそうでもないと思うかは個人差があるというか。まあ、すったもんだはありながらもその呪い自体は比較的すぐに解かれたんだけど。それでもやっぱり誹謗中傷というか風評被害というか、僕ら孫の孫の世代になってもまだおじいちゃんの一族って事で差別は受けててさあ。おじいちゃんから下の世代がどれだけ頑張っても挽回は出来ないって事ならもういっそ最初から無かった事にしちゃえば良いんじゃないかって事でね。こうして会いに来たんだよ」
「ちょっと。待ってくれ。理解が追い付かない」
「まあ。経緯なんてどうでも良いよ。重要なのはノービスおじいちゃんに『幸せ』になってもらう事。その為に僕と羅右衛門は来たんだ。あ、僕はすぐに帰らないといけないんだけど。羅右衛門は置いていくから。おじいちゃんは羅右衛門に『幸せ』にしてもらってね。ノービスおじいちゃんも『幸せ』な一生を過ごせば死ぬ間際になって急にこの世界を呪ったりなんかしないでしょ」
「その。らえもん? さん? は何なんだ? 君は俺の『孫の孫』だとしても彼は一体、何者なんだ。それに。『どうして?』もそうだけど彼がどうやって俺を『幸せ』とやらにしてくれるんだ? 彼が絶世の美女で、俺の嫁さんになってくれるとかっていう話なら分かりやすいんだけど」とノービスは羅右衛門の事をまたチラリと見て、
「違うもんな」
と変な顔で笑った。笑おうとしたが失敗をしてしまったみたいな表情だった。
「……ノービス君は絶世の美女をお求めか」
羅右衛門が呟いた。それは非難の言葉とは聞こえなかった。ましてや冗談を言っているようにも。ノービスは、
「い、いや。違う。待ってくれ。ください」
慌てて否定する。ここで肯定、或いは放置でも、しようものなら大変な事になってしまうような気がしたのだ。
「……そうか」と羅右衛門は静かに頷いた。オニオンが「そうそう」と口を開く。
「ちなみに。さっきの話にあったノービスおじいちゃんの『願い』を聞き入れてくれちゃった一柱の神様はね、後で他の神様方からそれを強く非難されちゃって、真名の一部を取り上げられちゃった挙げ句に僕ら人間の下僕を意味する『僕奴』にまで身をやつしちゃったんだ」
「は? え? それって、まさか」
「うん。羅右衛門は元・神様なんだ。今は僕奴だけどね」
あっさりとオニオンは重要な発表をしてくれた。
ノービスは「…………」と言葉を失ってしまう。さっきから話が大き過ぎて、逆に彼らの話が嘘だとは思えなくなってきてしまっていた。彼らがノービスの事を騙そうとしているのならばこんな荒唐無稽な話をするだろうか。もっと本当らしい嘘を並べるのではないか。いや。そんなふうに思わせる為にわざと馬鹿みたいな話をしているのか? そうまでしてノービスの事を騙す理由は何だ? もう訳が分からない。
「……このように顔を合わせる事は今回が初めてになるがな。ノービス君。君があの時、あんな『願い』さえしなければ私は」
「こら。勝手にそれを叶えちゃった責任が羅右衛門にはあるでしょ」
ノービスの「孫の孫」が「元・神様」の背中をツッコミよろしくバシンと叩いた。
祟られやしないだろうか。ああ。この状況が既に祟られているようなものか。
「誰だって一度や二度は考えるよ。『皆、死ねば良いのに』くらいさ。まあ、老衰で天寿を全うする直前の御老人が心から願うのは珍しいとは思うけど。だからってさ、本当に叶えちゃわなくても」
「ちょッ? は? ええ? お、俺の『願い』って。え? 何? そんで『それ』は叶えられちゃったのか? はあ? 嘘だろ」
俺がそんな事を願うわけは……。……そもそもコイツらが百四十ン年後の未来から時を遡ってやってきたなんて、この男が元・神様だなんて。
「はは。そうだよな。全部、嘘だ。そうか。分かった。お前ら、やっぱり嘘つきだ」
信じられない。信じたくない。
ノービスは、まるで心の扉でも閉ざしてしまったかのように頑なな拒否をし始めてしまっていた。
「あれ?」とオニオンは困ってしまった。「幸せ」にするどころか、これでは。
「大丈夫だよ、ノービスおじいちゃん。解釈の違いというか。ノービスおじいちゃんの『願い』は神様に受理されちゃったわけなんだけど別にそれで世界中の人達が急に殺人やら自殺やらをしだしたりはしてないから。普通に『命は大切』っていう従来の常識の上に『死ぬ事は良い事』っていう認識が乗っかっちゃって、世界中のお葬式がお祝い事になっちゃっただけだから。御老人の大往生じゃなくても、不慮の事故死やまだまだ小さい子供の病死なんかもお祝い事になっちゃってさ。ちょっとだけアレな感じの世界になっちゃっただけだから。大丈夫、大丈夫」
慌ててフォローを試みるも、オニオンの言葉はその流れ的にもただの言い訳にしか聞こえなかった。取り繕おうとしているだけで、慰めにはなっていなかった。
「……耳にする話を信じられないのならば実際に体験をしてみれば良いだろう」
羅右衛門が言った。
「ノービス君。今の君の願いは何だ。チカラは半減しているが私も元は神の一柱だ。半分のチカラでもある程度の事は出来る。言ってみたまえ」
ノービスは、羅右衛門が言ってくれた言葉の殆どを聞き流しつつも、
「空を――」
今よりももっと幼かった時分に抱いていたような気がする純粋な想いを、ぽろりとこぼした。
「――自由に飛びたいな」
「……うむ」と重々しく頷いた羅右衛門は「まずは外に出るべきだな」とノービスとオニオンの二人を連れてこの畑小屋を出る。
「……良い天気だな」と上方に真っ青な空が広がっている事を確認した羅右衛門は、
「テケテケン!」
としか人間の耳には聞こえない独特な祝詞を唱えた後、
「猛呼!」
何も無い中空に手を差し出すようにしながら強く叫んだ。
すると。確かに何も無かったその場所にぼんやりと――すぐに、はっきりと一体の小さな精霊が姿を現した。凄い。本物の精霊だ。
「ぷたあ」と精霊は可愛らしい鳴き声をあげている。
「……紹介しよう。私が育て上げた風の精霊『猛呼』だ」
羅右衛門は誇らしげに胸を張っていた。それが「元」とはいえ「神様」のする仕草なのだろうか。かえって不安を煽られる。
「……彼女のチカラを借りてノービス君には空を飛んでもらおう。大丈夫だ。最初に猛呼とノービス君の意識を繋いでおけば後はノービス君が思った通り『自由に』空を飛べるだろう」
「ぷたあ!」
羅右衛門の言葉に頷いたのか精霊の猛呼がポジティブな印象の鳴き声をあげる。
「本当に……この空を自由に……?」
ノービスがその顔を上げると同時に、ほわほわと足元に風が溜まった感じがした。
「何か。アレだ。抜いた雑草の山の上に立った感じだな」
ハハッと笑ったノービスの体が宙に浮いた。
「うおッ!?」と驚いてノービスは仰向けに倒れてしまうが、
「痛……くはないな?」
ノービスの頭や背中が地面に激突してしまうよりも前に猛呼が操る風のクッションがノービスの全身を包み込むようにして優しく柔らかく受け止めてくれていた。
「……難しい事は猛呼に任せてしまって。ノービス君は『こんなふうに飛びたい』と思うだけで良い」
「こんなふうに飛びたい、か」
呟くや否やノービスの体はふわりと浮き上がった。その後、角度を付けて斜め上へとまるで鳥のように飛び立っていった。
「おおッ! ははッ。凄いなッ!」
すっかりと上機嫌になってしまったノービスは身軽な猫のように宙を舞ってみたりや水中を泳ぎ回る魚みたいに空を飛び回った。
「最高だなッ。ずっと思い描いてた夢ってわけじゃないけど。小さい頃の夢が本当に叶っちゃったぞ。わーお。これが夢じゃないよな? 急に目が覚めて畑小屋の中ってオチじゃないよな? まるで絵本の中の大魔法使いにでもなった気分だ。最高ッ!」
これは本当に。こんな凄い事を簡単にしてのける元・神様ならノービスを「幸せ」にしてくれるかもしれない。死ぬ直前に世界を呪うなんて事をするはずのない大満足の人生を送らせてくれるかもしれない。いやそこまで完全な他力本願は望まないが、そんな人生を送る為の大きな手助けにはなってくれるのかもしれない。
「ははッ。ははははッ!」
ノービスの高笑いが響き渡る。
ノービスが大空の中で文字通りに浮かれていた頃、地上では。
「ねえ。羅右衛門。大丈夫なの?」
「……何がだ」
「半分になったチカラで人間を空に飛ばして。途中で燃料切れを起こしたりは」
「……問題は無いだろう。私のチカラは猛呼を顕現させた際に使っただけだからな。今、ノービス君が空を飛び回っているのは全て猛呼のチカラだ」
「その猛呼、前に僕が見たときよりも明らかに小さかった気がするんだけど?」
「……仮に私のチカラが足りていなければ猛呼は呼び出せていなかった。実際に姿を現したのだから問題は無いはずだが」
「さっきもノービスおじいちゃんに向けて言ってたけど。猛呼って羅右衛門が育てたんだよね? それって何年くらい掛けて?」
「……ざっと三百年だな。今では立派な精霊だが最初はやはりチカラも弱く」
「あの猛呼、僕らの時代から呼び出した? それとも」
「……今の私のチカラでは時を越えて精霊を顕現させるのは無理だろうな」
「ねえ。もしかしてなんだけど。あの猛呼ってまだ僕が知ってる猛呼の半分までしか育ってないんじゃないの? そんなんで人間を長時間も飛ばし続けられるの?」
「……オニオン君。長時間と一口に言ってもその定義は実に」
二人の会話に割り込むように遠くの方から「うわぁー!?」と歓声には聞こえない大絶叫とガサガサガサ……と木々が大きく揺さぶられた音が届けられた。
空の真ん中で急に体のコントロールが利かなくなったと思ったら一直線に急降下。真下にあった木々の枝葉が多少のクッションとはなってくれたのだろうが、それでも結構なハードランディングであった。
「し、死ぬかと思った……」
何処がではなくて体中にかなり痛みが走ってはいたが、あの高さから落ちて生きていられているのは猛呼のお陰なのか? 普通は死んでいる。少し前、仰向けに倒れたノービスを優しく包み込むように抱きとめてくれたみたいに、今回も魔法のガードで激突の衝撃を幾らか和らげてくれたのだろうか。
感謝しないわけではないが「元はと言えば」のマッチポンプだった。
「ぷたあ……」
どうやら今ので最後のチカラも使い果たしてしまったらしい猛呼は非常に弱々しくひと鳴きしたかと思うと、まるで周囲の風景と一体化するみたいにゆっくりと霧散していってしまった。
ノービスは、密に生い茂っていた大木の枝々に絡まるみたいに引っ掛かった状態で一人、取り残されてしまった。地上は遥か下にある。
簡単には身動きが取れず、無理矢理に動いては落下してしまいそうだった。元・神様でもない普通の人間なノービスがこの高さから落ちたら、どうなるのか。大怪我で済めば良い方だ。
この状況下、何故か妙に頭の冴えてしまっていたノービスは「そうだよな」と変な納得をしてしまっていた。
「気の迷いっていうか、きっとただの愚痴か何かだった俺の『願い』を叶えてくれやがった神サマサマだったんだもんな。あの『らえもん』とかいうの。結局はこういうオチが付くに決まってるよな。ははは……はは……。……何だよ」
下手に暴れれば落下してしまうであろう現状を忘れたわけではないのだが、それでも我慢の出来なかったノービスは胸を反らして大きく息を吸い込んだ。そして、
「――俺を『幸せ』にしてくれるんじゃなかったのかよぉーッ!」
辺りにこだました「よぉー……よぉー……よぉー……」を合図と頼りに捜索を始めた羅右衛門とオニオンの二人がノービスのもとに現れてくれたのは、早いか遅いか、その大絶叫から十数分後の事であった。
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