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04(終)
しおりを挟む理人は丁寧に幹雄を犯していた。
程なくして、
「ああーッ! ……くッ!」
と幹雄が果てる。ペニスの先端から白い精液を噴射させた。腹に落ちる。
「ん……、ふぅん……」と身悶えていた幹雄には「腹を撫でられた」事しか分かっていなかったが、理人は幹雄の腹から拭い取った精液を自身のペニスに塗っていた――ローション代わりだ。
「東村」
理人が声を掛ける。
「……はあ、……はあ、……はあ」
幹雄からの返事は無かった。荒めの吐息だけが聞こえてきていた。
理人は、だらしなく放り出されていた幹雄の脚――膝裏に腕を差し入れて軽く持ち上げる。
「……ん?」と戸惑いながらもされるがままに幹雄は両膝を立てた。少しだけ浮いた幹雄の尻の下に理人がベッドに備え付けられていた枕を滑り込ませる。
幹雄は今――足の裏こそベッドに付いているも――おむつを替えられる直前に尻を拭かれている赤ん坊みたいな格好にさせられていた。
が絶頂の余韻に浸っていた幹雄本人は自分がどんな格好になっているのか分かっていないようだった。
「……ふぅ。……はぁ。……ふぅ」
虚ろな瞳で天井を見上げていた幹雄の脱力して緩くなっていた肛門にぺとりと理人のペニスの先端があてがわれる。いつの間にか理人は幹雄の股ぐらに移動していた。
「――んえッ?」
幹雄が気付いた時にはもう、
「んッ!? んんんーッ!?」
理人の太いペニスの先端部分――亀頭の全てが幹雄の肛門に収まっていた。
「痛くはないだろ?」
理人が言った。質問というよりは確認の言葉だった。
「痛く……はないけど。なんか……くるしい感じが」
眉間にシワを寄せた幹雄に、
「……初めてか?」
理人が尋ねた。今度の言葉は確認という感じではなかった。
「当たり前……だろう」
苦しげのまま幹雄が答える。
「……じゃあ」と優しそうにも聞こえる声を出した理人だったが、
「ゆっくり、いくぞ」
その行為自体を止めるつもりは毛頭無いようだった。
じりじりと……少しずつゆっくりとだが確実に理人のペニスは幹雄の肛門の奥へと押し込まれていく。
「んんー、んー、んー……」とまるで悪夢にうなされているかのような声を上げる幹雄の左手に理人は改めて右手を重ねる。幹雄の腹に落ちていた精液を理人のペニスに塗った手だ。ねとねととしていたが幹雄の左手はまるで条件反射のように重ねられた理人の手を掴んだ。苦しさのあまり、わらにも――といった具合だろうか。
理人は左手を伸ばして幹雄の右手も捕まえる。
幹雄の右手は逃げも抵抗もしなかった。これで両手ともに理人と幹雄は繋がった。
強く強く握り握られる手と手。
「んん……ッ」
「……これで。全部だ」
理人の下腹部が幹雄の股間と合わさっていた。
「抜くぞ」
ゆっくりと静かに理人が腰を引く。ずずずると幹雄の肛門から理人の太いペニスがひり出される。
「ああああああ……」
幹雄が大きく息を吐いた。便通の快楽だ。気が抜けるような思いだった。
理人の太くて長いペニスが幹雄の肛門の奥底よりその内壁をカリ首や竿全体で擦りながらに引き出される。
もう少しですぽんとペニスが抜け落ちるといったところまできて理人は、
「入れるぞ」
引いていた腰を逆に押し込み始めた。
「んんんんん……」とまた幹雄は苦しそうな声を上げる。
数秒後――。理人の下腹部が行き止まりである幹雄の股間に到着するとまた、ずずずずず……と理人の腰は引かれる。幹雄の肛門から理人のペニスが姿を現す。
「あああああ……」と幹雄が息を吐く。
ペニスが抜け切る前にまた押し戻す。
「んんんんんんん……」
また引き抜かれる。
「あああああああああ……」
また押して、
「んんん……」
また引いて、
「あああああ……」
繰り返される。
「んんんんん………ああああッ………んんん……あああッ……んんんんんん……」
繰り返される。繰り返される。繰り返される。
「んんんんん……」と押し込む際はまだまだゆっくりとだったが、
「ああ……ッ!?」
腰を引く際の速度は段々と上がっていっていた。
「んんん……あーッ、んんんん……あーぉッ、んんんんん……あーぅッ!」
オットセイやセイウチといった海獣類の鳴き声を彷彿とさせる喘ぎ声だ。
緩急はつけながらも理人はその腰の動きを一度も止めずに振り続けていた。
しおれていた幹雄のペニスが徐々に硬さを取り戻していく。
むくむくと幹雄のペニスが起き上がる。
完全に勃起した幹雄のペニスが理人の腰の動きに合わせて前後に揺れる。
幹雄のペニスが空を切る。何の抵抗も無い。もどかしい。焦れったい。
刺激が足りない。むずむずとする。
だが幹雄の両手は理人の両手によって塞がれていた。
「んッ、んんッ」と幹雄はねだるみたいに腰をくねらせる。
ふふと笑って理人が身を寄せた。胸と胸とが合わさるように密着をする。
二人のカラダの間に幹雄のペニスが挟まっていた。
そうこうしている間も理人の腰は止まっていなかった。腰と一緒に理人のカラダも当然、動く。幹雄のペニスの裏側が理人の引き締められた腹で擦られる。――固くて柔らかい上質な筋肉の感触だ。
幹雄も幹雄で理人の腹に自らのペニスを擦り付けていた。下腹部に力を込めて腰を揺らす。理人に尻穴を犯されながら幹雄は理人の腹を使ったオナニーもしているかのようだった。幹雄は自分勝手に腰をくねらせる。
理人は――どうなのだろうか。
自分が気持ちよくなる為に腰を動かしているのかそれとも幹雄をよがらせる為か、その両方であるなら割合はどうだ。
理人の腹を使った「オナニー」をしながら幹雄は悔しがる。
「……浜岸。浜岸ぃ……」
「何だ? どうした?」
「……もっと」
「ふふ。そうか。もっとか。ああ。分かった」
「ちが……う」
「ん? こうじゃなかったか? こっちか?」
「んんッ。そう……じゃなくてえ」
「うん?」
「あッ、んッんッ。もっと……浜岸の好きにぃ……動いてッ……みて……もっとぉ」
「俺の好きに……?」
「もっ……勝手にぃ……強くしてッ……いいからあッ。浜岸もッ、気持ちッくぅ」
「……そうか」
と頷いた理人は大きく引いた腰をこの日、初めて――どんッと力強く幹雄の股間に打ち付けた。
「ああッ!?」と幹雄が大きく吠えた。
「……いいのか? これが続くぞ」
「いいからッ。続けろ。もっと。もっと。もっと」
腰を止めて尋ねた理人に幹雄が答える。
「……そうか」と理人が呟いた。
幹雄の手を握っていた理人の手に強い力が込められた。幹雄も強く握り返す。
「ふんッ」と荒い鼻息で理人は素早く腰を引いた。幹雄が「ああッ」と鳴く。
「ふんッ」と今度は奥まで一息で腰を打ち出す。幹雄が「おごぅッ」と鳴いた。
「ふんッ、ふんッ、ふッ、ふんッ、ふッ、んんッ、ふッ――」
「あッ、ぐッ、ああッ、ごッ、おッ、ぐぅッ――」
優しかった理人の腰の動きが強くて激しいものへと変わる。
……正直に言ってしまえば幹雄の肉体的な気持ち良さは軽減してしまったかもしれない。
それでもその「減った分」よりももっとずっと大きな精神的な気持ち良さを幹雄は得ていた。理人の欲望を全て受け止める、受け容れる――大きな自分を感じられる。
エゴイスティックな満足感に幹雄は包まれていた。
荒々しく犯される事で、飾りの無い素の「浜岸理人」をぶつけられている気がしていた。
「……そろそろ」
腰を強く振りながら理人が呟いた。
「イクぞ」
「あッ、ああッ、あッ、んッ、おッ」
幹雄は喘ぎ声で応える。
「イクぞ、イクぞ、イクぞ」
大きかった理人の腰の動きが小刻みなものへと変化する。
「――イクッ!」
と短く叫びながら理人は――ぐッと腰を押し出す。押し付ける。幹雄の尻穴の深く深くまで理人の太くて長いペニスが押し込まれる。
びくんびくんと跳ねた理人の衝撃が結合部を経て幹雄に伝わる。
幹雄の下腹部内で水風船でも破裂したのかといった感覚で理人の精液が勢い良く、大量に流し込まれた。
「んぶッ!?」
幹雄にしてみれば、尻穴に棒を突っ込まれたのも初めてなら、尻の中に液体を流し込まれたのも初めての経験だった。
何の反射なのか――人体の不思議だ――尻の中に射精された幹雄は、
「ぶえぇぇ……ッ!?」
何故か強くえづいてしまった。ゲロは出なかった。
「……大丈夫か?」
理人が言った。その顔は心配をしているのかそれとも怪訝に思っているのか、今の幹雄になら分かった。以前の幹雄では後者と捉えていたかもしれない。
「くそぅ……。俺に足りないのはこういうところだったんだな……」
幹雄は一人で呟いていた。今度こそ理人は「……?」と怪訝そうな顔をする。
「――でも」
と幹雄は気を取り直す。
「イッたよな? 浜岸。射精したんだもんな? 演技じゃないんだよな?」
勝ち誇るように幹雄は「――はははッ!」と笑った。
全裸のままベッドの上に大の字で寝転がった幹雄は改めて思う。
「男はいいな」
「……は?」
理人が顔を向けたが幹雄は天井を見ていた。
「女と違って。イッたのが分かりやすくて。相手が男だったら騙されなくていいな」
「……騙されてるだろ。こんなふうに友達でもない奴に犯されて」
「ん?」と幹雄が理人の事を見る。今度は理人が横を向いていた。
なかなか二人の目は合わない。
幹雄が言った。
「まあ……友達じゃあないけどな。別に騙されてはないだろ」
「何だ。負け惜しみか? 強がりか?」
「はは。どうかな。一応、本心のつもりだけどな。確かに浜岸は『友達』って感じではないけど――俺は浜岸の事、好きだし」
裏も奥も無いような素直で何処か馬鹿っぽい――愛嬌たっぷりの笑顔を幹雄は見せていた。理人は「……は?」と目を細める。眉間に深いしわが寄る。
「好きだっていうか。好きになったっていうか。別に前から嫌いではなかったけど。今日、改めて気が付いたけどやっぱり浜岸はイイヤツだったもんな」
などと馬鹿に馬鹿な笑顔を向けられてしまった。
理人には分かる。「嘘」は言っていないのかもしれないが――この馬鹿にとっては誰であろうと「イイヤツ」になってしまうのだ。
自分だけに向けられる言葉ではない。誰に対してでも言っている軽いセリフだ。
そんな事は分かっている。
全くもって自分とは正反対な人間であるという事を改めて理解させられた理人は、
「……嫌な奴だな。東村は」
不愉快そうにその口を歪めた。
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