謂れのない罪に問われ追放された元公爵令嬢は、もう誰も信じられないので奴隷を買うことにした

くぅ

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幼い頃に引き寄せられ、共に育った婚約者?

───だめよ。愛らしい恋人が出来たら裏切るんだから。

七つの頃に両親が死んで、二人で支え合いながら生きてきた弟?

───だめよ。所詮は男。家族より、仕事や女を取るんだから。

ずっとずっと尽くしてきた、祖国?

───もってのほかだわ。もはや裏切りとすら感じられない。特に王権制なんてクソ喰らえ、よ。


15歳の少女、レラジエは手に持った麻袋をカラカラと揺らした。ガタゴトと、乗り心地はあまり良くない馬車の中。
ぼんやりとした表情。最早そこに、かの王太子の婚約者ですらあった、バートンウッド公爵家の令嬢の面影はなかった。
黒い髪は不吉の証。赤い瞳は不吉の証。それでもレラジエが王太子ウォルターの婚約者と定められたのは、単にその血筋故だった。
父は前王朝の王子だった。祖父は暴君では無かったけど、愚君であった。愚かな君主に付き従うものはいない。父にもまた、『愚かな君主の息子』という肩書きをないものとする程の実力もカリスマもなかった。
やがて祖父は密かに暗殺された。新しく今の王朝ができた。しかし現在の国王は貧民街からのし上がってきた、いわゆる成り上がり。国民が許しても貴族達が許さない。表立って行動することはないだろうが、虎視眈々と王座を狙っていた。
そこで国王は、前王朝の血を汲み取ることを考えた。現在の王妃も高位貴族の娘であったが、やはり王族の血というワードは強い。
そうして、父は公爵という王族とほとんど変わらない爵位の代わり、娘が生まれればそれを差し出す約束を結んだのであった。

それが覆されることなど、普通はない。
いくら王太子ウォルターが愛に狂おうと、彼は王太子たる賢しさを持っていたはずである。どんなに本命であろうとも、愛人が精々だっただろう。
しかし、王太子の恋人。ミライアは、レラジエと同じ前王朝の系譜だった。祖父と侍女の間にできた、隠し子の更に子供。つまりは、レラジエのいとこだったのだ。

それでも、きっとウォルターは悩んだのであろう。
人としての良心の呵責、生まれて初めての熱烈な愛。
そして、黒髪赤目の不吉パレードなレラジエと、金の髪に青い目の天使のようなミライア。
国民や貴族に愛され、己の後押しとなるような妻。将来子供が生まれたとして、不吉を背負うという、王族として致命的なことが起きないような妻。
ひいては国のためにもなるのは、どちらか。

───どうあっても、天秤がレラジエに傾くことはなかった。
弟は、デュークはどう思っていたのだろう。
自らの姉が謂れのない罪を背負い、それどころか母の不貞でできた血筋までも偽物だと断じられた時。いいや、それどころか、母の不貞の証人として立った時。
姉のレラジエどころか、己の母まで貶めて。
ウォルターのために。それが国のためになるからと。

最後にレラジエを追い出す時、大金を持たせて、行き先に送る馬車を用意した分だけの情はあったと喜ぶべきだろうか。
まさか。それはデュークのするべき最低限のことである。喜ぶなんてあり得ない。
レラジエが本気で喜ぶことがあったとしたら、それはデュークが祖父と同じ愚かな人間であった時だけだろう。国の未来なんて考えないで、情だけで物事を判断して、『何があっても姉さんは僕が守ります』と言ってくれた時だけ。
つまり、レラジエが喜ぶことは絶対にないのだ。

カラカラと馬車の中につけられたベルを鳴らした。
止めろ、という意味だ。
やがて馬車が完全に止まると、レラジエは御者の手を借りることすらなく馬車から飛び降りた。
ジーンと足が痛む。けれどそれをない表情の下に隠して、言葉もなく歩き出した。

御者はばかみたいな、泣きそうな顔でレラジエを見送った。
声をかけることはなかった。別れを惜しむこともしなかった。
だって、これから本当の意味で一人になるレラジエにとって、それがどれほどの慰めになるだろうか。
むしろ追い詰めるだけだろう。この国に、不吉を持った人間に自分から近づくような人間はいない。
御者はレラジエを小さな頃から知っているけど、そもそも殆どの人は、人柄すら見ようとしない。怯えて、自らの視界を閉ざすのだ。

御者はやっぱり泣きそうな顔を隠すように俯きながら、また馬車を動かした。
中には誰もいない。
いつも馬車から降りる時、平民の御者に「ありがとう」と笑ってくれる心優しいお嬢様は、もう居ないのだ。
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